信頼低下で苦しむジョンソン首相

12月8日以降に実施された世論調査で、ジョンソン首相率いる保守党の支持率が減り、最大野党の労働党の支持率が保守党を4〜9%上回る状態となっている(執筆時点では7つある。YouGovの世論調査Opiniumの世論調査)。ジョンソン首相が2019年7月24日に首相に就任して以来このようなことはなかった。

特に保守党にとって気がかりなのは、人気の高かったジョンソン首相の支持率が大きく悪化している点だ。最新の世論調査では、首相としての実績を「認められない」という人が62%(このうち「とても認められない」という人が38%)で、「認められる」という人の22%を大きく上回っている。労働党のスターマー党首がそれぞれ38%と26%であるのと比べるとかなり悪い。同じような結果は、別の世論調査でも見られる。

約束に対して行動の伴わないジョンソン首相が、「嘘つき」だとレッテルを貼られたり、「自分たちのルールと他の人たちのルールが違う」と攻撃されたりしてきたが、これらが、同じパターンでさらに拡大して起こってきたことが現在の支持率の低下につながっている。

すべてのものごとにいい加減に対応しているように見えるジョンソン首相だが、「それほど悪い人ではない」という人も多い。ただし、現在の状況は、ジョンソン首相のだらしなさと、おカネの問題から起きていることが多い。

おカネの問題では、ジョンソン首相は、首相になって収入が大きく減った。ジョンソン首相は、かつてはジャーナリスト、スピーチなどをして年に50万ポンド(7500万円)以上稼いでいたようだが、首相になって、首相と下院議員として受け取る15万7千ポンドを含め、18万ポンド(2700万円)ほどと思われる。大きな減収である。

ジョンソン首相は、自分の内閣に何人もいるような、政治以外で十分におカネを稼いでから政治に入ってきた人ではない。また、これまでに複数の女性と関係し、7人の子供がいる。現在のカリー夫人との間にも2人目の子供が生まれたばかりだ。海外のホリデーによく行き、また、首相官邸の模様替えも行った。これらにかかったお金は現在の疑惑に関連している。

特に大きな問題は、昨年11月、12月に、コロナパンデミックの対策で、国民にはパーティーを禁じていたのに、首相官邸などでパーティーを開いていた疑いが持ち上がったことだ。次から次に出てくる疑惑に保守党内で不満が高まってきている。ただし、保守党の中で、2019年の総選挙で大勝利を飾ったジョンソン首相を直ちに替えようとする動きには至っていない。なお、保守党の中では、党所属下院議員の15%(現在の361人のうち55人)が不信任の手紙を書けば、投票が行われることになっている。

なお、下院議員の行動基準違反問題で辞職した議員の選挙区の補欠選挙が12月16日に行われる。保守党の非常に強い選挙区だが、中道の自由民主党への支持が強まっていると言われる。どのような結果となるか注目される。

ジョンソン首相は、もともと強い信念に基づいて政治家となった人物ではない。ジョンソン首相の性格を考えれば、薄給で厄介なことの多すぎる首相を辞めて、自由に稼げる身分になった方がいいという結論に達する可能性は大いにあるだろう。

英国の議員の行動の監視制度

英国の下院議員には、公職を担う議員として守るべきルールがある。ある保守党下院議員が、企業の依頼を受けて顧問料を受け取り、大臣や政府関係機関に働きかけていた疑いが表面化し、下院議員の行動を監視するコミッショナー(The Parliamentary Commissioner for Standards)が調査した。そして、その事実があったとし、登院停止30日間の勧告をした。その後、下院の行動基準委員会(The Committee on Standards )がその勧告を審査する。そしてその勧告を受け入れる、もしくはその勧告を変更するなどの決定をする。このケースの場合、登院停止30日間の勧告通りに下院本会議に諮られた。最終的には下院が判断するからである。ところが、ジョンソン首相の指示を受けて、保守党が過半数を占める下院がその通り承認しなかったために、大きな騒動となった。その上、当の保守党下院議員は、保守党支持のテレグラフ紙のインタビューを受けて、自分は何も悪いことをしていない、また同じことをすると居直ったのである。ところが、ジョンソン首相は、下院の採決の翌日には考えを変え、その結果、当の下院議員は議員を辞職した。

なお、下院が登院停止10日以上と決定した場合、若しくは他の特定された条件を満たした場合、下院議員のリコール請願が行われる。この請願に選挙区の有権者の10%以上が署名すると、リコール選挙が実施される。対象となった下院議員は再び立候補することも可能だが、上記のケースの場合、そのような不名誉を避けたかったことが背景にあるようだ。

この騒動で、下院議員の利害登録や議員活動に注目が集まった。その結果、保守党の幹部で、ジョンソン政権の下院院内総務と枢密院議長を兼ねるジェイコブ・リース=モグが、現在、コミッショナーに調べられている。自分の所有する会社から計600万ポンド(約9億円)ほどのお金を低利で借りたにもかかわらず、それを登録しなかった疑いのためである。

一方、下院議員で法廷弁護士のジェフリー・コックスが、弁護士として多額の報酬を受け取り、コロナパンデミックの最中に、西インド諸島の政府の仕事で西インド諸島に飛び、また、議会の議員事務所からビデオ会議に参加していたなどで批判されていた問題では、コミッショナーが調査をしないことが明らかになった。コミッショナーは、それぞれの事案が調査に値するかどうかを独立して判断して調査をするかどうかを決定する。そして調査中の事案は、コミッショナーのウェブサイトで発表される

それでも下院議員の行動基準や大臣や国家公務員らの行動基準には、まだあいまいな点が多く、さらなる検討が必要である。