UKIPに移った保守党下院議員

驚くべきことが起きた。保守党の下院議員ダグラス・カースウェルが保守党を離党し、イギリス独立党(UKIP)に移ったのである。UKIPはイギリスのEUからの離脱を謳う政党である。

その理由は、保守党のキャメロン首相たちは欧州で必要な変化に真剣でない、イギリス政治に根本的な変化が必要だ、UKIPは、内部の少数のグループではなく、党のメンバーのものであり、その根本的な変化を実現できるという。カースウェルは型破りの下院議員で知られている。

キャメロン首相率いる保守党は下院に300余りの議席を持つ、下院最大の政党であるが、UKIPは下院に議席を持たない。それにもかかわらず、カースウェルは下院議員を辞職し、補欠選挙にUKIPの候補者として出馬する。

UKIPは、5月の欧州議会議員選挙でイギリス最高の得票をし、トップの23議席を獲得したが、その選挙は人々の生活に直接関係するものではなく、しかも比例代表制であるため、小選挙区の下院選挙とは異なると考えられている。つまり、世論調査で10%台半ばの支持率のあるUKIPは、来年5月に予定される次期総選挙で数議席獲得する可能性があるが、それ以上は望めない政党だと考えられていた。

しかしながら、カースウェルはこの補欠選挙で当選すると見られている。カースウェルの選挙区が、潜在的なUKIP支持者の多いところであるだけではなく、カースウェルのこれまでの活動で、他の保守党選挙区支部が軒並み党員を減らす中、党員を2倍にした実績が示すように、この選挙区内での知名度が極めて高いためだ。

通常、イギリスでは政党支部が選挙を行う。そのため候補者は政党の選挙マシーンがなければ戦えない。この選挙区では、UKIPがカースウェルを応援した影響もあっただろうが、カースウェルは2010年総選挙で次点の労働党候補者の2倍以上の得票をした。その後この選挙区ではUKIPの支持が伸びてきている。保守党はカースウェルに対抗できるだけの強力な候補者を立てようとするだろうが、それがどこまで効果を出すかが課題だ。

カースウェルのこの動き、しかも予想通り補欠選挙に勝ちUKIPが下院に議席を持つことになれば、これから総選挙までの9か月ほどの間、UKIPのメディアへの露出度を高めることとなる。しかもUKIPの信用度を高めることにもつながる。その結果、UKIPへのプラス効果には相当大きなものがあるだろう。 

世論調査会社YouGovのピーター・ケルナー社長は、このカースウェルの動きで、UKIPが保守党票をさらに奪うこととなり、保守党は労働党に10議席失うことになるだろうとコメントした。

イギリスの政争に使われるオーストラリアからのEメール

イギリスの下院(庶民院)の事務総長(the Clerk of the House of Commons)は、下院の事務方トップのポストで、これまで議会の議事進行、手続きに詳しい人物が任命されてきた。20148月末で退任する現職は、1972年から42年にわたって下院で働いてきた人物であるが、4月に退任を発表した際、下院の慣例を変え、近代化しようとする現在の議長ジョン・バーカウと衝突したことがその原因と言われた。 

議長のバーカウは保守党の下院議員であったが、議長就任後、保守党を離れた。議長の中立性を確保するために、その選挙区には主要政党は候補者を立てない慣行がある。 

バーカウは、もともと保守党の右だった。ところが、自分の主張を貫く中で、次第に左寄りになったと言われる。妻のサリーは、もともと保守党支持だったが、ブレア労働党時代に労働党の支持者となり、ロンドン・ウェストミンスター区の2010年の地方議会議員選挙に労働党候補者として立候補したほどだ。落選したが。 

バーカウが下院議長に当選した時には、少数の保守党議員と多くの労働党議員から支持を受けた。そのため、保守党出身でありながら保守党の他の下院議員からの受けがよくない。2010年総選挙後の議長選挙でもバーカウを議長の座から引きずり落とそうとする動きが保守党にあった。その他、保守党議員から議長への攻撃は何度も仕掛けられている。その小柄な体格を揶揄して軽蔑的に「小人」と呼ぶ保守党議員もいる。

バーカウの問題の一つは、下院を今の時代に合ったものに変えようと考えていることだ。これに反感を持つ議員が少なからずいる。

イギリスの内閣は、時に「選挙で選ばれた独裁政権」と呼ばれることがあるほど力が強いが、政府の施策を吟味するはずの議会を無視したように施政が進められることがある。それをできるだけ減らすために、議会の委員会の役割を重視するほか、重要な問題には、できるだけ首相や大臣に議会で説明させ、議論させることを心掛けている。時には、首相の意向に反することもあり、キャメロン首相もそれが気に入らないと言われる。

その近代化の一環として、バーカウは議会の次期事務総長の選任で外部からの登用を図った。従来内部からの登用が慣例であったのを変え、雇用コンサルタントを雇い、外部に広告した。そしてそこで選ばれた候補者を少人数に絞り、議会の主要関係者をメンバーとする選考委員会で面接し、選ばれたのがキャロル・ミルズ(Carol Mills)というオーストラリア議会のスタッフであった。 

この選考委員会の構成は以下のとおりである。委員長は議長、委員には保守党院内総務(前職:7月の初めに内閣改造が行われた)、労働党影の院内総務、自民党代表の下院議員、下院で最も権威のある委員会の公会計委員会委員長、そして議会オンブズマンの計6人であった。 

この委員会でミルズは選ばれ、そしてその名前は、女王の裁可を受けるために首相に送られた。なお、この選考で第2位となったのは、現在の副事務総長であると言われる。 

そして、この任命に反対する動きが始まった。そこで主要な武器にされたのが、オーストラリア上院の事務総長ローズマリー・レイン(Rosemary Laing)がイギリス下院事務総長に送ったEメールである。

その中で、レインは、ミルズにはイギリス下院の事務総長にふさわしい資格がなく、ミルズを任命することはこの仕事に対する侮辱であるとした。ミルズは、2012年にオーストラリア議会で働き始める前、州政府レベルで働いていた人物であり、しかもその責任部門は、議会の管理運営をサポートするものであることから、この仕事に大切な、議会そのものの運営やルールには疎いと主張した。このEメールが任命反対派の主要な武器として使われている。

ミルズ任命への反対、そしてそれを推進するバーカウへの攻撃の動きの背景には、明らかに戦略的なものがあるように思われる。筆者の見るところ、反対派は、このEメールを武器に、一部マスコミを効果的に使い、しかも元下院議長を担ぎ出して批判させた。しかもマスコミには、下院の現在の副事務総長が選出過程の全書類を請求しており、裁判沙汰にする可能性があるとほのめかした。元下院議長には下院院内総務に書類を提出させ、反対させたが、その院内総務がその動きに消極的だと見ると、次から次に波状的に攻撃をエスカレートしていっている。すべての動きがよく計算されている。そして最も新しい動きでは、労働党の重鎮議員の2人の元外相を担ぎ出した。 

このようなことは、バーカウ以外の議長で起こったとは考えにくい。議長は中立であるべきだが、バーカウへの反対派は、その中立性、むしろ独立性と言った方がバーカウにはふさわしいだろうが、のためにバーカウを嫌っているようだ。これには2015年総選挙の後の議長選挙でバーカウの議長再選を防ごうとする動きもあるように思える。バーカウは妻の問題で批判されることが多く、また、バーカウの性格やその問題の処理の仕方を嫌う人も少なくないが、それでも、議会の近代化のために努力している優れた議長だと言える。 

ただし、この全体の逸話で注目すべきことは、オーストラリア上院事務総長のEメールの使われ方である。このEメールを自由に使ってもよいとは書いているが、この事務総長はこのような使われ方を全く予想していなかっただろう。

オーストラリア上院の議長は、このEメールにはがっかりした、とコメントした。内容は明らかにしなかったが、この事務総長と話し、バーカウにも電話をしたと確認している。 

この問題では、反対派が任命前審査を実施させようとしており、その支持者が徐々に増えていっているバーカウはミルズの任命を推進しぬくのではないかと思われるが、この問題がどのような結果を迎えようとも、オーストラリア上院事務総長は個人的に大きな痛手を受けたように思われる。