英国の年金:来年度も大幅アップは確実?

英国の国民年金は、2023年4月から10.1%アップした。この大幅上昇は、2010年に保守党・自民党の連立政権が導入したトリプル・ロックという制度に基づいている。

トリプル・ロックとは、以下の3つの指標のうち、いずれかの最高の指標に従って、国民年金が上昇していくというものだ。

  • 物価上昇率(前年7月の物価上昇率、9月に発表される)
  • 賃金上昇率(前年の5月〜7月の平均賃金上昇率、9月に発表される)
  • 2.5%

国民年金は、以上の3つの指標のうち、最も高い数字に従って上昇し、少なくとも毎年2.5%上昇していくことになる。

2023年度の国民年金の上昇率は、10.1%だった。すなわち、2016年4月6日以降に受給し始めた人は、満額で週に203.85ポンド(約3万7千円)となった。これは物価上昇率に従ったもので、この数字は、前年の9月に発表された7月の物価上昇率に基づいたものである。

一方、2024年度には、賃金上昇率に従って、さらに大幅上昇が予測されている。2023年8月16日に発表された6月の物価上昇率は、6.8%で前月の7.9%から大幅に下がったが、賃金の4月〜6月上昇率は7.8%で、2001年以来という高い水準を記録した。トリプル・ロックに使われる5月〜7月の賃金の上昇率はさらに高くなると見られている

トリプル・ロックを継続していけるかどうかには疑問がある。しかし、次期総選挙は、2025年1月までに実施する必要がある。2024年秋にも行われる見通しが強い中、スナク保守党政権がこのトリプル・ロックを実施しないとすることは、考えにくい。特に、保守党に投票する有権者には年金受給者が多い事実がある。しかし、この制度の見直しは早晩必須であろう。

議員のリコール(解職)

ボリス・ジョンソン元首相が、いわゆるパーティゲートに関連して、首相在任中にウソ(もしくは本当ではないこと)を下院で発言したことについて下院の名誉委員会(Privileges Committee )が調査を進めている。この調査にはまだ数カ月はかかると見られているが、その結果、ジョンソン元首相が一定期間登院停止になる可能性が高まっている。

もし、登院停止期間が一定のレベルを超えれば、リコール選挙が行われる可能性があるので、その点について触れておきたい。

リコール選挙とは、2015年に設けられた比較的新しい制度で、下院議員のみリコールの対象となる。

一般に、下院議員が失職(ここでは失職の可能性を含む)する場合には以下の3つの場合がある。

  • 有罪刑を受け、それが12カ月以上の収監刑(刑務所)である場合には、自動的に下院議員を失職する。
  • 2009年議会倫理規範法10条で、虚偽などの経費請求をして有罪刑を受けた場合には、収監されたかどうかにかかわらず、失職する。
  • 登院停止処分を受け、登院停止日が10日以上の場合(ただし、会期日が指定されていない場合には14日以上)には、リコール請願過程を経て、失職する可能性がある。

以上のいずれかの場合、下院議長は、当該議員の選挙区の選挙管理者に通知し、補欠選挙、または、リコール請願過程が開始される。

登院停止処分が10日以上の場合、その選挙区の請願管理者(選挙管理者が請願管理者と呼ばれる)は、6週間、請願署名所を設け、当該選挙区の有権者の10%以上がそれに署名すれば、下院議長に報告し、その結果、議席は空席となる。そしてリコール選挙が行われるが、失職した前議員もその選挙の候補者となれる。

ジョンソン元首相の場合、選挙区がロンドン郊外の「アックスブリッジとサウスライスリップ」で、有権者数が7万あまりである。すなわち、有権者のうち、7千人余がリコール請願に署名すれば、補欠選挙が行われる。前回2019年の総選挙(この選挙区の投票率68.5%)では、ジョンソンが全体の53%ほどの票を獲得したものの、次点の労働党、そして自由民主党、緑の党など反保守党と思われる票が2万2千票余りあり、リコール選挙が行われる可能性は高い。

また、この選挙区の住民の過半数は、ジョンソンの推し進めた、ブレクシットを後悔しており、全国的に労働党が支持率で保守党に20%ほどの差をつけている中で、MRP分析をしたElectoral Calculousの分析では、野党労働党の候補者が過半数の票を獲得し、保守党は30%あまりにとどまると見ており、保守党の勝つ可能性はわずか12%としている。

すなわち、もしリコール選挙が行われれば、ジョンソン元首相が敗北する可能性は極めて大きく、ジョンソン元首相の政治生命の終わりとなるだろう。