さらに増加するメイ首相の苦しみ

6月の総選挙で、過半数を失い、EUとの離脱交渉に苦しみ、その威信がほとんどなくなっているメイ首相に、さらに多くの問題が加わっている。政治には、良い時もあれば、悪い時もあり、その命運はどう変わるか予測できない面がある。それでも極めて弱体化したメイ政権は、火消しに追われている状況で、いつ倒れてもおかしくない状態だ。

英国議会のセクハラ問題

どの国の議会でも同じだろうが、議員は自分たちが厳しくコントロールされることを嫌う。

ブレア労働党政権時代の議会倫理基準コミッショナーだったエリザベス・フィルキンは、下院議員への調べ方がまともすぎると嫌われ、本来、3年の任期の後、再任されるはずだったが、再任されなかった。つまり、言うことを聞かない人物は、追い出されるという傾向があるようだ。

しかし、今回のセクハラ疑惑は、既に多くの議員の名前が挙がっており、そのような壁を乗り越えているようだ。自分のナンバー2の名前も挙がっているメイ首相は、11月6日の野党党首らとの会談で、議会スタッフをより強く守る制度改善を合意した。しかし、これには十分でないという意見もある。

ただし、そのような若干の継ぎ足しの制度強化だけでは、これからさらに増加すると見られる議員のセクハラ疑惑に対応するのは難しいだろう。

国際開発相の勝手な振る舞い

夏にメイ政権のパテル国際開発相がイスラエルにホリデーに行き、そこで、イスラエル首相らを含むトップ政治家らと会っていたことがわかった。この行動は、外務省に知らされておらず、しかも国際開発省のスタッフも同行していなかった。これは閣僚の行動基準に反すると見られる。なぜ、パテルが独自で行動したのかは、はっきりしていないが、メイ後の党首選で立候補するため、英国のイスラエルロビーから資金提供を受ける土台作りをしていたのではないかという見方がある。弱体化したメイのもたらした問題だとも言えそうだ。

パテルは、メイ首相から譴責されたが、それでは不十分だという見方もある。パテルは、議員のセクハラ疑惑やパラダイス文書などの問題でメディアの関心が分散しているので助かっていると言われる。

外相の不注意発言

ジョンソン外相は、イランで刑務所に入れられている、イランと英国の国籍を持つ女性が、イランにジャーナリズムを教えていたのだと、いう発言をした。そのため、イランが、この女性の刑期をさらに延長するのではないかと心配されている。ジョンソン外相の不注意発言は有名だが、実際にそれで理不尽な罰を受ける人が出るようなことがあれば、深刻な問題である。

官僚トップの内閣書記官長の病

ヘイウッド内閣書記官長は、キャメロン政権時代からこのポストを務めるベテランだが、ガンにかかった。どの程度仕事に差仕えているかに拠るが、このような人物のサポートが最も必要な時に、それが疑問になるのは不運だと言える。

EU離脱影響評価書の発表

メイ政権は、58の分野におけるEU離脱の影響評価をしたが、これらの評価書の発表を渋っている。野党労働党らが、下院のEU離脱委員会にそれを渡すよう求め、下院の議決も得た。この議決は拘束力があり、下院議長は、11月7日にそれを渡さなければ、なぜそうしないのかを明らかにする必要があると決定した。

メイの現在の状況は、そのすべてをメイが生み出したわけではない。しかし、度重なる不運に襲われるのも、政治家の運と言えるだろう。

批判の強い、メイの新国防相任命

メイ首相の弱点が改めて曝け出された。マイケル・ファロン国防相の辞任を受け、メイ首相が新国防相にギャビン・ウィリアムソンを任命したが、特に保守党下院議員たちから強い批判が出ている。

ウィリアムソン(1976年6月25日生まれ)は、2010年総選挙で初当選の41歳。その後、保守党内閣の閣僚の、無給の議会担当秘書官となった。このポストは、仕える大臣の、議会での目と耳となる役割である。キャメロン前首相の議会担当秘書官ともなり、保守党下院議員たちとの関係をつけた。EU国民投票でイギリスがEUを離脱することとなり、キャメロン首相が辞任した後の保守党党首選では、メイ選対の主要メンバーとして、メイが首相となるのに大きな貢献をした。その功績と、下院議員らとの関係を買われ、保守党下院議員の規律を保つ役割の、閣僚級の院内幹事に任命された。しかし、省庁の大臣職や準大臣職などのポストに就いたことはない。特に国防関係のポストに就いたことがなく、経験の乏しい人物に、内閣の中でも最も重要なポストの一つで、多くの複雑な問題を抱える国防相が務まるかという疑問がある。

イギリスでは、大臣は、自分の任命した特別アドバイザーのアドバイスを受けながら、省庁をリードしていく役割がある。前任のファロンは、問題をすぐに把握する能力と政治的な勘、そしてその強いリーダーシップを発揮して国防省を率いてきた。ファロンの国防相としての評価は非常に高かった。

一方、ウィリアムソンは、昨年の保守党党首選を扱った、公共放送BBCのドキュドラマ「テリーザ対ボリス」で描かれたように、目的のためには手段を選ばないといったような非常に癖のある人物である。メイがそのような男を頼りにしているのは間違いないだろう。しかし、院内幹事の役割には、閣僚に空席ができた時、党全体のことを考えて、首相にアドバイスすることもある。そのため、メイ政権が、EU離脱交渉や国内の政治課題に関して、党内の規律問題で苦しんでいる時に、自分の仕事を放り出して、国防相のポストをとるということは、おかしいという見方がある。ウィリアムソンは、自分の野望のために、メイが自分を任命するように仕向けたという見方さえある。

メイの問題は、人物の能力をきちんと見極めず、自分に忠誠を誓う人たち(少なくとも当面は)を次々に引き上げる傾向があることだ。例えば、メイは、大学時代からの友人ダミアン・グリーンを副首相格にした。メイは、自分の政権が苦しい立場に陥っていることから、そのような人物に頼らざるをえない点がある。しかし、メイはますます追い詰められた立場にあり、イギリスという国全体のことより、自分の政権の延命に懸命になっているようだ。ウィリアムソンの任命は、メイの立場が非常に弱体化していることの表れだとする見方もある。