新内相サジード・ジャビド

新しく内務大臣に就いたサジード・ジャビドの親はパキスタン出身だ。父親は1961年にイギリスに来た。バス車掌などの仕事をしたという。インド系の人がイギリスの4つのトップ大臣ポスト(Great Offices of State)の一つに就くのは初めてのことである。なお4つのトップ大臣ポストとは、首相、財務大臣、内務大臣、外務大臣だ。メイ首相に批判的な元閣僚でパキスタン系のワルジ女男爵は、この任命を「ガラス天井を打ち破った」として評価した。

48歳のジャビド(1969年12月5日生まれ)はこれまで何度も天井を打ち破ってきた。家庭環境を乗り越え、近年評価の高まっているエクセター大学で経済と政治を学んだ。保守党に入党し、20歳で初めて党大会に出席する。サッチャーを尊敬し、大臣に就任した後、大臣室にサッチャーの写真を飾っていたという。

大学卒業後、金融の仕事に就こうとしたが、あるイギリスの銀行で、顔がその仕事に合わないとして採用されなかったという。そこでアメリカのチェースマンハッタン銀行に入る。瞬く間に昇進し、記録を破り、25歳でVice Presidentとなる。後にヘッドハントされ、ドイツ銀行に移り、役員となった。2009年にドイツ銀行を辞め、2010年に保守党の下院議員に当選。それまで年俸300万ポンド(4億5千万円)だったと言われ、当時の下院議員の年俸6万ポンド(900万円)あまりと比較して、98パーセント減給との評もあった。それでも大学時代からの政治の思いを果たしかったようだ。

キャメロン政権でオズボーン財相に目をかけられて頭角を現し、文化相、ビジネス相、そしてメイ政権でコミュニティ・地方自治相を経験し、今回内相となった。内相への任命は、前内相の辞任のきっかけが内務省の少数民族への対応だったことから出てきたもので、幸運であったといえるだろう。しかし、政治の世界でも、ビジネスの世界でも運は非常に重要だ。

まだ政治経歴は長くない。それでも2016年のEU国民投票でイギリスがEUを離脱することとなり、キャメロン首相が責任を取って、辞任した後の党首選挙で、同じ閣僚だったスティーブン・クラブと組んだ。結局クラブは党首選を退くが、もしクラブが党首・首相となっていれば、ジャビドは財相となることとなっていた。ジャビドが将来の保守党党首、首相を目指しているのは間違いないだろう。

ジャビドはイスラム教徒の家に生まれたが、イスラム教を実践していないという。頭に髪はなく、奥さんローラが剃っていると言われる。その顔が将来の保守党のイメージにふさわしいかどうかという問題はあるかもしれない。それでも、これまでの「天井破り」の事例から見ると、それも克服するかもしれない。

辞任した内務相

内務相のアンバー・ラッドが辞任した。ラッドの下で移民担当の閣外相だった、現保守党幹事長が4月29日のBBCテレビの看板政治番組アンドリュー・マーショーで、ラッドを救おうと細かな議論をしようとしたが、逆効果に終わり、事態はさらに悪化した。ラッドが自らを強制退去数の目標の問題から遠ざけようとする試みは、完全に失敗し、さらに多くの情報の漏えいが始まる中、ラッドはとても4月30日の下院内務委員会の厳しい尋問に耐えられないと判断したのだろう、4月29日午後10時前(イギリス時間)、メイ首相に辞表を提出し、メイはそれを受諾した。

ラッドは、前任の内務相メイや自分が、内務省の役人に強制退去数の目標で強い圧力をかけていたことを隠したかったのだろう。その目標を達成するため、役人が「ウィンドラッシュ世代」をはじめ、本来在留権はあるが、必要な書類をすぐに提出できない、簡単な標的(Low-hanging fruitsという表現がよく使われる)を狙い、それぞれの個人の事情を慎重に見極めることなく、非情な処分に走っていた事実から自分たちを守りたかったように思われる。

国家公務員は、ラッドやメイ政権の言動に強い不満を持っていた。内務相の大臣室の首席秘書官も自分が重要書類をラッドに渡さなかったという疑いを受け、自分の立場を守るためにも内務省の事務方トップの事務次官に文句を言っていたのではないか。ガーディアン紙が内務省筋の強い不満を報道し、BBCはさらなる情報の漏えいを指摘した。

メイがラッドを何とかして守ろうとしたのは、2010年から、首相となる2016年7月まで自分が内相としてこの状況を作り出したためだ。これまで盾となっていたラッドがいなくなり、自分が直接その標的になる可能性がある。内務相の後任には、現コミュニティ相のサジード・ジャビドが就く可能性が高い。少数民族出身のジャビドを内相にし、より同情的な対応を内務省がするような印象を与えたい狙いがあるだろう。

いずれにしても5月3日にはイングランドの都市部の多くで地方選挙がある。特にロンドンの区議会議員選挙では、労働党がかなり優勢だと見られており、ラッド辞任は、メイ政権にとって大きな打撃だ。