ジョンソン首相辞任

2022年7月7日午前9時過ぎ、ボリス・ジョンソン首相が辞任を表明した。セクハラの問題を起こした下院院内副幹事長クリス・ピンチャーの任命を巡り、ジョンソン首相がピンチャーの過去のセクハラ問題を知っていたにもかかわらず、それを知らなかったふりをしていたが、外務省の元事務次官が、ジョンソン首相がそれを知っていたと発表したことから、それまでの数々の問題で起きていたジョンソン首相の「信頼」問題に火が付いた。そして7月5日にスーナク財相、ジャビッド厚相が辞任した後、ジョンソン内閣の閣僚、副大臣、その他の政府の役職にある保守党下院議員たちが次々に辞任し、その数は50を超えた。それでもジョンソン首相は首相辞任を拒んでいたが、結局、保守党党首の信任投票、党首選挙を預かる1922委員会(無役の保守党下院議員の会)の委員長が、来年6月までジョンソン首相の再度の信任投票を行えない現在の信任投票制度を変え、来週月曜日にも党首の信任投票を実施する考えを、保守党下院議員のジョンソン不信任の手紙を手に、ジョンソン首相に伝えたことから、ジョンソン首相は最終的にあきらめることとなった。

政治歴史家のアンソニー・セルダンによると、過去300年間の55人の首相で、このような混乱した終わり方をした首相は初めてだという。

ジョンソン首相の辞任は、英国の政治プロセスの典型的なものと言える。英国の首相は、非常に強力な権力があるが、自らの率いる政党の下院議員の支持を失えばその地位を失うということである。ジョンソン首相は、2019年の総選挙で保守党のマジョリティ(他の政党の議席合計を何議席上回るかの数)80を獲得した。これは、サッチャー政権以来の大勝利である。これを背景に、ジョンソン首相が驕った面があるだろう。それにもともと自分に好都合な嘘をつくといった恥知らずな面が輪をかけたと言える。

ますます追い詰められてきたジョンソン首相

ジョンソン首相は、嘘を言うことにあまり抵抗がない。かつてタイムズ紙を首になった時には、他の人の言葉を捏造して記事に書いたことが原因だった。政治家になった後も、例えば、影の芸術相だった時、当時の党首に女性関係を聞かれて否定したが、それが嘘だったとわかり、その地位を首になった。コロナ禍のパーティゲートでも、ロックダウンで一般人の行動が大幅に制限されている時に、首相官邸などで行われたパーティなどの集まりは、法律などのルールに常に沿ったものだったと主張した。ところが、自分もルール違反で罰金刑を受けた。パーティゲートに関する発言は、下院の名誉委員会(Privileges Committee)でジョンソン首相が嘘を言ったかどうか現在調査されている。

その上、さらに嘘を言ったと嫌疑をかけられる問題が起きている。保守党下院院内副幹事長クリス・ピンチャー(男性)が会合で酒に酔って2人の男性に性的なハラスメントをし、その役職を辞任した。当初、ジョンソン首相は本人が辞任したので問題は解決したとの立場をとった。しかし、その被害者が議会の規範コミッショナーに訴えたために保守党は急きょピンチャーの党籍を停止した。ピンチャーはその性的ハラスメントで問題のある人物だと言われていた。

問題は、なぜそのような人物を、保守党下院議員を世話し、また規律を守らせる重要な役職につけたかである。なお、これは政府の役職であり、政府からその役職への職給が出る。それについて、ジョンソンは、ピンチャーの過去の問題行動について、下院院内副幹事長につけられないような格段の事実を知らなかったと主張した。ジョンソンは、「名前はピンチャー、質(たち)はピンチャー(つまむ人)」と言ったとされ、それを首相官邸は否定してないが、いかにもジョンソンの言いそうなことで、ピンチャーは性的ハラスメントをする人物だと知っていたことは明らかなように思われる。

ところが、ピンチャーが外務省の副大臣だった時、外務省の官僚たちがピンチャーの行動に苦情を訴え出て、外務省と内閣府が調査をした結果、その苦情を事実だと認め、ピンチャーは謝罪し、それを内閣府高官がジョンソン首相に直接報告していたことがわかった。これは、当時、外務省の事務次官だった人物が自ら進んで証言した。事件が発覚してから5日たっても本当のことが隠されているので事実を明らかにしたという。すなわち、ジョンソン首相は、またもや嘘を言っていたわけである。これに対しては、ジョンソン首相は、それを忘れていたとする。

ジョンソン首相を嘘つきだと考える有権者は多い。保守党下院議員でもそうだ。この件でいずれもその数が増える可能性が高い。