党大会シーズン:リーダーたちの課題①(Party Leaders’ Challenges this autumn)

英国では秋の党大会シーズン。先週末には緑の党の党大会が開かれたが、主要3政党の党大会は以下のようなスケジュールである。

① 自民党:ブライトンで9月22日から26日。テーマは「厳しい時により公平な税」
② 労働党:マンチェスターで9月30日から10月4日。テーマは「英国再建」
③ 保守党:バーミンガムで10月7日から10日。テーマは「2015年への道」

党大会は、かつては党の方向を決める重要な場であったが、近年は、すべてがお膳立てされており、本当の議論はなく、しかも、出席者や出店者、広告主などから、さらにディナーパーティなどを開き、お金を集める場に成り果ててしまっているという批判がある。それでも主要3党の党大会はマスメディアで広く報道され、政党の状況や今後の方向性を見るのに役に立つ機会であると言える。

ここでは、以上の3党の課題を一つずつ見ていきたい。今回は①の自民党である。

自民党のニック・クレッグ党首は保守党との連立政権で副首相を務める。連立政権に参画して以来、支持率が低迷。2010年の総選挙時には、全体票の23%を獲得したが、現在の支持率は10%前後である。自民党は、選挙時には、通常の世論調査の支持率よりかなり高い得票率を得る傾向があるが、それを考慮に入れても次期総選挙では、大幅に議席を失うと見られている。

その一つの根拠は、世論調査によると、2010年の総選挙で自民党に投票した人たちのかなり多くが、次の総選挙では自民党には投票しないとしていることだ。しかも労働党支持者から連立政権に参加した自民党へ批判が強く、これまで、当てにしていた労働党支持者からのタクティカル・ボーティングが、そう期待できなくなっていることがある。タクティカル・ボーティングとは、例えば、労働党のあまり強くない選挙区では、労働党支持者が当選可能性のない労働党候補に投票せず、自民党候補に投票することである。つまり、考え方の近い自民党の候補者が保守党候補を破って当選する方が望ましいということだが、保守党を政権につけるために自民党が協力したことから、自民党に投票するのは、保守党を裏口から支持することになるという警戒感が出てきている。

これまでのクレッグの戦略は、まずは、政治的に安定した連立政権で、莫大な政府債務を長期的に減らすために国際的な信用を維持し、財政再建に取り組むことであった。次に経済成長を維持し、そしてさらに自民党独自の政策を打ち出すことであった。

自民党の独自の政策としては、貧しい地域や家庭の子供たちの教育を援けるためのPupil Premiumと呼ばれる制度を推進した。これは、英国では、低所得者の家庭の子供には給食を無料で提供する制度があるが、これに該当する子供たちの数に応じて小学校や中学校、または地方自治体の場合もあるが、政府から補助金を支給し、それらを該当の子供たちの学力向上などにそれぞれの学校や地方自治体の独自の判断で使える仕組みである。2011年度から導入された制度の成果がどの程度のものとなるか、今後を待たねばならないが、これまでのところ評価は低い。この9月9日から10日に世論調査会社YouGovが行った世論調査では、この制度に否定的な人が22%、肯定的な人が15%で、違いがないと言う人が48%であった。

また、自民党の力を入れてきた政策で、今回の党大会のテーマにもその成果を強調したいという意思が表れているのが、課税最低限度額のアップである。つまり、最低限度額が上がれば、それだけ支払う税金の額が減り、低所得者の中には、まったく税金を支払わなくてもすむ人が増えることとなる。自民党は、これを保守党との連立合意にも入れ、2015年までにこの最低限度額を1万ポンド(125万円)までとすると述べた。これまでの予算発表でも徐々に上げてきており、今年4月からは8,105ポンドとなった。来年4月からは9,205ポンドになる。かなり大きなインパクトがあるはずだが、これへの有権者の評価も低い。上記の世論調査によると、肯定的な人は23%、否定的な人は21%、そして43%の人は違いがないと言う。

しかも、自民党の連立政権参加の大きな動機となった下院の選挙制度の修正案(AV)の国民投票が大差で否決され、上院をほとんどのメンバーが選挙で選ばれる制度の導入は、保守党の中の反対が大きく、失敗した。政治改革面では、ほとんど訴えられるものがない。

さらに、2011年5月、2012年5月の地方選挙では、自民党は多くの地方議員を失った。これらの結果、クレッグ党首を強く支持してきた自民党の中にも、クレッグの政府の中での役割、党運営のリーダーシップに疑問を呈する声が大きくなっている。労働党は、クレッグの代わりにケーブル・ビジネス相を党首にする動きに火をつけようと画策している。

こういう中で、クレッグは、2015年に予定されている総選挙までの残された時間で、自民党の命運を変えるための手を打って行かねばならない。党大会では、まずは、自分についてきてほしいと訴えることとなる。そして、政府の政策に、自民党の原則をさらに反映させ、それで有権者に自民党の役割を訴えていくこととなるだろう。しかし、連立を組む保守党の中では、キャメロン首相は、自民党に影響力を行使させすぎているという声が強くなっており、自民党の動きには限界があるように思える。

問題は、有権者のクレッグへの評価は極めて低いことだ。YouGovの8月30日から31日に行われた世論調査では、身内ともいえる自民党の支持者の60%はクレッグを党首として支えていくべきだというが、次の選挙でクレッグが党首であった方が良いと言う人は31%しかおらず、47%は他の人が党首の方がよいという。これを変えていくのは容易なことではない。

クレッグの判断(Clegg’s judgment)

政治家が弱く見えることは致命傷になり得る。保守党が上院改革をしないのなら下院の新区割り案に賛成しないというニック・クレッグ副首相の判断は正しいと思われる。もしそうでなければ、クレッグと自民党が非常に弱く見えるからだ。有権者は上院改革にあまり関心がないが、それでもこの判断でクレッグへの評価が上がる可能性がある。

自民党とキャメロン首相が率いる保守党が連立政権を組む際にまとめた連立合意の中で、選挙制度についての幾つかの約束をした。この中の一番大きな柱は、現在の下院の制度である、いわゆる小選挙区制度、つまり一つの選挙区から最も得票の多い候補者を一人だけ選ぶ制度から、AV(Alternative Vote)と呼ばれる制度に修正する国民投票を行うことであった。AVとは、当選者は基本的に、投票した有権者の半分以上の支持を受けるようにする制度である。これは、これまで下院への比例代表制の導入を求めてきた自民党が、保守党と連立政権を構成するうえで最低限の条件としたもので、自民党に有利になると思われた制度である。一方、もしこの制度が導入されると不利になると思われた保守党は、マニフェストでも打ち出していた、議員定数を減らし、有権者の数を均等にする選挙区区割り見直しを要求し、その結果、この二つの制度を組み合わせることで妥協した。つまり、AVの導入で保守党が失うと思われた議席を区割りの見直しで回復させるということである。この妥協は、これらの二つを合わせた「2011年議会選挙制度並びに選挙区法」でも明らかであった。

ただし、連立合意には、さらに上院改革も含まれていた。主要三党の中では、自民党が上院を公選とする改革に最も熱心であった。

2011年5月に行われたAV制度の国民投票では、保守党が中心となった、AV反対のグループが強力な運動を展開し、労働党はどちらつかずの態度を取ったことから、賛成票は3分の1にとどまり、否決された。その後、新たな選挙区区割りを導入すれば、失う議席の割合で最も大きなダメージを受けるのは当初予想された労働党ではなく、自民党であることがわかった。

自民党は、こういう状況の中で、もし、長年の課題であった上院改革がなしとげられるのなら新選挙区割りも容認する立場をとっていたが、保守党の中の上院改革へ反対する勢力が大きく、上院改革が不可能となり、その結果、新選挙区割りを認めない立場をとることとした。「2011年議会選挙制度並びに選挙区法」が成立した後、区割り委員会が手続きを進めているが、区割り委員会の提出する区割り案を議会で採択する必要がある。つまり、自民党は、その区割り案に賛成しない、ということである。

キャメロン首相は、保守党党首として大きな計算間違いをしていたと言わざるを得ない。もし、AVの国民投票が可決されていれば、上院の改革の成否にかかわらず、自民党は新区割り案に賛成していた可能性が強い。しかし、AVも上院改革も成し遂げられないまま連立政権を継続し続けていれば、自民党は本当に弱く見える。自民党がこの問題を抱えていることに十分配慮することを怠ったキャメロン首相は、今や厳しい立場に立っていると言えるだろう。