各地で起きている暴動

2024年7月29日にリバプールに近いサウスポールで3人の子供が刺されて殺され、大人2人を含む10人が大けがを負った事件は、ウガンダ移民の子で英国生まれの17歳の男子が容疑者である。この事件を受けて、極右が中心になり、ソーシャルメディアで、英国にボートで渡ってきたイスラム教徒の違法移民が起こしたとの偽の情報を流し、反移民、反イスラム感情を煽りたてている。また、各地で集まりを呼びかけ、イスラム教寺院への攻撃が起きている。それが暴動につながっている。一方、そのような行動に対抗する勢力も集まりを呼びかけ、両方の勢力が衝突する事態にも発展している。

今のところ、ブリックやボトル、ビールたる、椅子、さらに燃えるものなどが投げられたりしており、警官にけが人が出ており、さらに商店や建物が略奪されたり、放火され、自動車、パトロールカーなどがひっくりかえされて火をつけられたりということが頻発している。

警察の対応は、一般に平和な英国の状況を反映してか、暴徒対策に慣れていないという印象を受ける。スターマー政権は、暴徒に強い対応をする体制を構築しており、警察に強い権限を与え、次から次に暴徒や犯罪容疑者を逮捕し、24時間対応の検察対応も開始した。さらに刑罰も非常に厳しいものになるとの警告も発している。しかしながら、そのような体制をつくることができても肝心の現場が対応に慣れるまでには時間がかかる。テレビなどで報道されている現場の映像では、要領を得ていないように見える警察官もかなりいる。しかも、拘置所も警察署の留置所もほとんど満杯になっているという状態では、誰でも彼でも逮捕し、放り込むというわけにはいかない。

内相は、必要があれば、軍を発動させる可能性も示唆している。ただし、こういう暴動の現場に現れる人の中には、単にプロテストに参加するつもりの人や、騒ぎに乗じて日頃のうっ憤を晴らすという人たちとともに、夏の夕方の散歩がてらに見に行くという人もかなりいるようである。警察の対応も慎重にならざるを得ない。

ソーシャルメディアの分析では、ソーシャルメディアで体系だった動きがあるのではなく、小さな芽がたくさん起こり、広がり、それで暴徒などが集まる原因になっているようだ。サッカーのフーリガン対策とは異なる要素があるようだが、警察もソーシャルメディアなどで、一部の扇動者の動きをつかみ、先手を打って対応していくことが予想される。その点で、今夏の暴動は今以上に大きく広がる可能性は少ないのではないかと思われる。

サウスポートから始まった暴動

2024年7月29日に起きた、リバプールに近いサウスポートの殺人事件を契機に、サウスポートで暴動が起こり、ロンドンを始め、イングランド各地に暴動が広がった。殺人事件は、アフリカのウガンダ出身の両親を持ち、ウェールズのカーディフで生まれた17歳の男子が、サウスポートで夏季休暇中に開催されていたダンスクラスの生徒らを包丁で刺し、3人の子供が亡くなり、大人2人を含む10人が大けがをしたというものである。

亡くなった子供たちを悼むお通夜が行われたが、ソーシャルメディアなどで、17歳の男子はイスラム教徒の移民だとされ、サウスポートのイスラム教寺院が極右のグループなどに攻撃され、暴動になった。反移民感情は英国がEUを離脱した大きな要因であり、さらに7月4日の英国総選挙でリフォームUK党が大きく得票を伸ばし、5人の下院議員を生んだ原因でもある。通常、18歳未満の容疑者は、名前を報道されることはないが、偽の情報がさらに流されることを防ぐため、一週間以内に18歳になることもあったが、裁判所は、容疑者の名前を公表することを許可した。

問題は、このような事件は、極右の活動のきっかけになりやすく、しかも日頃の不満を発散する場になりやすいことだ。

スターマー首相は、直ちに、暴動対策に対応するための本部を設置し、地方警察の連携を強めるとともに警察の権限を強化し、暴動の扇動者や参加者に厳しい対応をすることを発表した。平和的なプロテストとは異なり、参加者は「犯罪者」として扱うとの態度を明確にした。サッカーのフーリガン(サッカーに関する暴力的行動の扇動者並びに暴徒化したファン)を対象にしたような制度を使い、また、顔認識システムを利用するとし、さらに、ソーシャルメディア会社の責任を問う姿勢を明らかにした。地方警察は、さらなる暴動に十分な準備をしているとする。

2011年8月にもイングランド各地で暴動が起きたことがある。筆者は、当時、暴動の起きた、ロンドンのバタシーの暴動の翌朝様子を見に行ったことがある。多くの店が略奪に会い、消防車がまだ活動しており、悲惨な姿を呈していた。後に、当時のロンドン市長ボリス・ジョンソン(後に首相)が住民らと話をしていたが、何をしたらいいかわかっていないような印象を受けた。

それと比べると、元検事総長のスターマー首相は、今何をしなければならないかを十分に理解しているような印象を受ける。