公務員の新首相へのアドバイス

1997年5月、トニー・ブレア率いる労働党が18年間継続して政権を担った保守党を総選挙で破り、政権に就いた。ブレア首相の広報局長だったアラスター・キャンベルによると、財相に任命されたゴードン・ブラウンは着任早々から財務省スタッフに厳しい指示を出しており、やりすぎなければいいがと思ったそうだ。それでも労働党が長く政権に就いていなかったため、戸惑った政権関係者は多かっただろう。

公共放送BBCが情報公開法を利用し、政権初日にブレアに渡された公務員からのアドバイスを入手した。

これらのアドバイスは、新首相の仕事をできるだけスムーズにそしてやりやすくさせるためのものである。それでも政権を無難に運営していくために首相がどうしていくべきなのか、イギリスの公務員の考え方がよくわかる。

上院議員にも大臣職を与えるようにというアドバイスは、公選ではないが、法案の審議などで重要な役割を担う上院で、政権の考え方や方針をきちんと伝えることができるためには重要なアドバイスだろう。特に、世襲貴族の上院議員をなくすという約束をしていた中ではそのように思える。

首相(それに家族)は、首相官邸の上(または横上)に住むので、例えば、どのような飲み物が公費で賄われ、どのようなものを自費で払わなければならないかなどの実際的なアドバイスは重要だ。

服装にもう少しお金がかかるだろうというアドバイスは、公式な行事に出席するために購入してもその費用が出るわけではないが、首相や首相夫人として必要な費用は財務省・歳入庁との取り決めで経費として計上できることになっている。それは、2014年に明らかになった1992年の総選挙の際に用意されたアドバイスでも同じである。

政策については、公務員が総選挙キャンペーン中にマニフェストを詳細に分析している。また、現職の首相の許可を得て、公務員が野党の党首、関係者に接触し、それぞれの政党の政策の情報を得られる機会が与えられることになっている。政権に就いて、いかにそれらの政策を実現するか、または問題点、注意点などの指摘があるのは当然だろう。

もちろんこのようなアドバイスを聞くか聞かないかは、それぞれの政治家の判断による。政治家の中には、無難に運営していくことにそれほど興味のない人もいるだろうからである。

難しい内相のポスト

アンバー・ラッド内相が辞任し、その後任にサジード・ジャビドが就いた。このポストは内閣の4大ポストの一つであり、メイ首相も首相になるまでラッドの前の内相を務めた。メイは首相になるまでの内相時代、記録破りの6年間生き延びた。しかし、その在任中、移民に敵意ある環境を主導し、本来在留権のある人々に強制送還を迫り、仕事や住居を失わせ、NHS医療を受ける権利を奪ったとしてその責任を問われている。

内務省は、テロ対策を含む国内の治安、移民などを担当している。大きな省の一つであり、内相のポストは重要な仕事で威信があるが、この省はかつてから政治家の墓場とよく呼ばれている。かつては刑務所も担当していたが、それは法務省に移された。それでも運営が困難な省として有名だ。

その理由の一つは、大英帝国の名残が今でも残っているためのように思われる。多くの移民を受け入れた過去があり、移民の管理が徹底してきてこなかった。これには英連邦の関係や人権を重んじるイギリス近代の潮流がある。すなわち、移民などの対応で手を打ちだしにくい数々の問題があった。

その上、メージャー保守党政権の出国検査の廃止に至る状況がある。誰が出国したか記録のない状態が長く続いた。不法移民が100万人いると言われるが、その数ははっきりしていない。労働党政権がこの問題の解決にも役立つIDカードの導入を決めたが、キャメロン連立政権でそれを廃止した。

問題の根本に手を入れず、何か問題が起きればそれに蓋をかぶせていくような、いわばモグラたたきの運営方法では、内務省が政治家の墓場との評判を拭い去るのは難しいように思われる。