投票年齢を16歳に下げるべきか?(Lowering Voting Age to 16?)

9月18日に行われるスコットランド独立の住民投票では16歳以上が投票できる。スコットランド分権政府を担当するスコットランド国民党(SNP)が強く主張したため、この住民投票では、それ以外で投票を許される18歳から16歳に下げることとした。

SNPはスコットランドの英国からの独立を求めて設立された政党だ。世論調査によると独立反対が賛成よりも多く、16歳と17歳を加えることで状況を改善することを狙ったものとみられる。

一方、労働党は、投票年齢の16歳への引き下げを2015年総選挙のマニフェストに入れる予定だ。2013年9月の党大会でも党首ミリバンドがこの問題に触れている。労働党の2010年マニフェストでは、16歳への引き下げを議員に自由投票させるとの記述があったが、それをさらに進めたものである。

投票権を16歳に与えている国はいくつもある。例えば、ブラジルは1988年から16歳にも投票権を与えている。オーストリアでは2007年から実施し、市民権教育を実施し、16歳と17歳の投票率はすぐ上の年齢層より高かった。

自民党はこれまでも16歳に引き下げるべきだと主張してきており、2010年マニフェストでも16歳への引き下げを謳っている。なお、英国の投票権が現在の18歳になったのは1969年のことであり、それまでは21歳であった。

また、労働党の影の法相シディキ・カーンは、有権者となって最初の選挙を義務制にすることを検討している。投票年齢を下げるだけでは、若年層と年齢の上の層との投票率の差を広げるだけになるという判断があるためだ。

英国は欧州の中でも若年層とそれ以外の層との投票率の差が大きい。2010年総選挙での投票率は、18歳から24歳が44%であったのに対し、65歳以上は76%であった。差は32%であるが、1970年には18%であった。2013年5月に行われた地方議会議員選挙では、18歳から24歳の投票率は32%で、65歳以上の層は72%。若い人たちの投票率が急速に下がっている。

公共政策研究所(IPPR)によると、若年層や最低所得層の投票率が低く、高齢者や裕福な人たちの投票率が高いことが、英国政府の実施している財政カットに反映しており、若年層や最低所得層が過度に財政カットの影響を受けているという。これを正すために若年層の投票率を上げることを目的として、最初の選挙を義務制にすることを提案した。

世界の民主主義国のうち4分の1ほどの国にはなんらかの投票義務がある。義務制で正当な理由なく投票しなかった人には罰金を課すオーストラリアでは1946年から24回の選挙で平均投票率は94.5%、ベルギーは法律で義務付けているが取り締まってはいない。それでも1946年から19選挙平均は92.7%である。

最初の選挙に投票するとその後継続して投票する傾向があるという。そこで、有権者の最初の選挙を義務制にし、学校で市民権教育をきちんと実施し、投票しなかった有権者には少額の罰金を課すことを提案している。この罰金は、オーストラリアでの罰金AU$20(1880円:1豪ドル=94円)並みのものを想定している。もちろん誰にも投票したくない人には、投票所で「いずれの候補者にも投票しない」という選択肢を設けるという。

さて、16歳と17歳に投票権を与えると約150万人の有権者が増加することとなる。もし最初の選挙を義務制にするとその政治的な意味合いは大きい。政治家は、選挙結果に大きな影響を与える層に注目しがちだ。投票率の高い高齢者層が増大しており、年金や手当など、この層の関心事には手厚くなる傾向がある。一方、投票率の低い若年層には関心が弱くなる。

2010年の大学授業料大幅値上げでは、大学生たちが、政治家は自分たちの言うことを聞かないと文句を言ったが、投票率が低いままではその声は弱いだろう。ただし、もし最初の投票が義務制となれば、状況はかなり異なってくる。

下院選挙は定期国会法のために、基本的に5年ごとに行われる。すなわち、前回総選挙後に投票権を獲得した16歳から20歳まで5歳分の新有権者の投票率が極めて高くなる。恐らく90%以上だろう。すると政党はこの層にアピールする政策を総選挙ごとに打ち出す必要が出てくる。

投票権を16歳に下げると、労働党と自民党に有利になるという見方が強く、そのため両党はこの政策に積極的だ。しかしながら、保守党に有利になるという見方もある。保守党の党員の平均年齢は60代半ばと言われる中、もし投票権が16歳まで下がり、新有権者の最初の投票が義務制となれば、保守党の思考が大きく変わり、それが党の活性化に大きな役割を果たす可能性があるように思われる。

ただし、投票年齢を16歳に下げることについて有権者は否定的だ。2013年8月のYouGovの世論調査によると、賛成したのは20%にとどまり、60%が反対だ。特に保守党とUKIPの支持者で賛成したのはいずれも11%にとどまり、反対したのは保守党71%、UKIP75%であった。労働党と自民党の支持者も否定的で、労働党は賛成29%、反対54%、自民党は賛成30%、反対56%であった。

それでも今秋のスコットランド住民投票への16歳、17歳の投票結果や、2015年までに行われる隣国アイルランドでの投票権16歳への引き下げの国民投票の結果などで世論に影響を与える可能性がある。

2015年総選挙の結果、労働党単独政権、もしくは労働党と自民党の連立政権が誕生すると、16歳投票権は大きく実現に向かって進むことになる。ただし、自民党は投票の義務制には反対しているが。

高齢者票に期待するキャメロン首相(Cameron Relying on Elderly Votes)

2010年総選挙の前に主要3党の党首討論が行われた。その第2回目の討論で、労働党のブラウン首相(当時)が保守党のキャメロン党首(当時)に質問した。保守党のマニフェストには、高齢者への無料の薬処方と検眼が含まれていないがどうするのかときいたのである(これらはイングランドのみで他の地域は分権されている)。

キャメロン首相は即座にいずれも行うと返答し、マニフェストで既に約束していたテレビ視聴料無料、冬季光熱費補助(Winter fuel payments)、バス無料乗車証を改めて繰り返した。

キャメロン首相は、これらを再び2015年総選挙のマニフェストで約束する考えだ。また、2010年に自民党との連立政権下で導入した基礎年金の上昇率を保証する「トリプルロック」をさらに2020年まで保証すると明言した。なお、これについては、野党労働党も同じ考えを示している。

なお、2013年度の週当たりの基礎年金は以下の通り
1人:£110.15(18,945円:1ポンド=172円)
夫婦:£176.15(30,297円)

また、貧困層に与えられる年金クレジットを加えた最低保障は週当たり以下の通り
1人:£145.40(25,008円)
夫婦:£222.05(38,192円)

トリプルロックとは、物価上昇率(CPI)、平均賃金上昇率もしくは2.5%アップのうち、最も高いものを基礎年金の上昇率にあてはめるというものである。つまり、最低2.5%アップすることになる。そのため、2012年度は5.2%アップ、そして2013年度は2.5%アップした。2014年度は2.7%アップで1人週113.10ポンド(19,453円)となる。その結果、2014年度は、このトリプルロックがなかった場合に比べて年間440ポンド(75,680円)高くなる。

基礎年金支払総額は労働年金省の計算(2012年)では現在価値で以下のようになる。

2010年度 580億ポンド(9兆9760億円)
2011年度 600億ポンド(10兆3200億円)
2015年度 660億ポンド(11兆3520億円)
2021年度 760億ポンド(13兆720億円)
2031年度 1,160億ポンド(19兆9520億円)
2061年度 3,020億ポンド(51兆9440億円)

この増大する年金に対して政府は年金受給年齢を上げることで対応しようとしている(拙稿参照)。

しかし、キャメロン首相は、基礎年金のアップ率を保証するだけではなく、裕福な人にも一律にテレビ視聴料無料、冬季光熱費補助、バス無料乗車証を継続すると言うのである。これらは2014年度には以下のような額(75歳以上)となる。

テレビ視聴料無料

6億1,600万ポンド(1,059億5200万円)

冬季光熱費補助

22億ポンド(3784億円)

バス無料乗車証

12億ポンド(2064億円)

この高齢者への厚遇は、選挙を念頭に入れているのは間違いない。前回の2010年総選挙の年齢別投票率では、18歳から24歳までの投票率が44%であったのに対し、65歳以上は76%であった。

またこれは英国独立党(UKIP)対策でもある。8千人余りを対象とした世論調査によると2010年総選挙で保守党に投票したが、次の選挙でも保守党に投票すると言わない人が37%いたが、もし総選挙がその次の日にあればその人たちの半分以上の55%はUKIPに投票するつもりだという結果が出ている。 2013年のYouGovの世論調査によると、50歳を超える有権者の割合は46%でだが、UKIP支持者のその割合は71%だという。UKIPにはかなり高齢者の支持が高い。つまり、次期総選挙で、これらの高齢者に下院に議席を持たないUKIPよりも政権を担当する可能性のある保守党に投票する方が得策だと信じ込ませる戦略だともいえる。