キャメロン首相抜きの党首テレビ討論?

BBCの政治部長ニック・ロビンソンが指摘しているが、アメリカの大統領選挙のテレビ討論が1960年に初めて行われ、その後16年間行われなかったように、この5月に行われるイギリス総選挙前の党首テレビ討論の実施を巡ってゴタゴタがあるのは何もおかしいものではない。

ロビンソンによると、保守党党首のキャメロン首相は、2010年のテレビ討論はその敵方を有利にしたとして、今回は出席しないために臆病者と言われても構わない、と決めているそうだ。テレビ討論に喜んで出るからといって有権者は投票しないというのである。

ミリバンド労働党党首、クレッグ自民党党首、ファラージュUKIP党首は、キャメロン首相に手紙を書いて、テレビ討論に参加するよう促したが、同時にこの手紙で、放送局にキャメロン抜きでも実施するよう圧力をかけている。

放送局は、いずれもUKIPは除外できないが、緑の党は除くべきだと考えているそうだ。それでは緑の党抜きではテレビ討論に出席しないと主張するキャメロン首相抜きで実施すればよいのではないか?しかし、ことはそう簡単ではないという。放送局がキャメロン抜きのテレビ討論を実施するにはかなりの覚悟がいるようだ。公共放送のBBCは政府の勅許の書き換えがあり、政府との視聴料の交渉もある。ITVとチャンネル4は政府の規制が気がかりで、スカイもその買収問題に関して経験したように、政治と無関係ではない。

キャメロン首相は、首相となる可能性のある二人、自分と野党労働党のミリバンド党首とのテレビ討論、そして保守党、労働党、自民党、UKIPそれに緑の党の5党のテレビ討論には応じる可能性に言及したが、本音は、テレビ討論そのものに出たくないと言われる。ミリバンド党首との一騎打ちのテレビ討論には大きな障害はなさそうだが、実はこれも避けたい考えだと言われる。キャメロンは、世論調査の個人支持率でミリバンドに大きな差をつけているが、もしテレビ討論が行われれば、多くの人が過小評価しているミリバンドが健闘するのは間違いないと見ているからだ。そのため、キャメロン首相側がテレビ討論が行われないように力を入れるのは間違いない。

ただし、ロビンソンも示唆するように、放送局の中でも「勇敢(無謀?)」なところもあるだろう。政党だけではなく、放送局も加えて、今後のなり行きは予断を許さない。

緑の党の要求

5月7日に予定されている総選挙前の政党党首のテレビ討論に、緑の党が、参加を認められるべきだと主張した。キャメロン首相は、自らの思惑から、全国政党の緑の党が討論に参加を許されないと、保守党は、UKIPを交えた討論には参加しないと発言した。

緑の党は、党員数がUKIPより多く、そして、党員が急増しているために自民党よりも多くなった。そして、2014年5月の欧州議会議員選挙で3議席を獲得し、UKIP、労働党、保守党に続いて第4位になったこと、最近の世論調査で自民党と並ぶ、また時には自民党を上回る支持率を得ている、全国の選挙区の4分の3以上で候補者を立てることなどを理由に緑の党も入れられるべき資格があると訴えている。

緑の党は、現在、下院議員が1人である。現在の下院議員の党ごとの数は以下のとおり。

政党 下院議員数
保守党 303
労働党 257
自民党 56
民主統一党【北アイルランド】 8
スコットランド国民党(SNP)【スコットランド】 6
シンフェイン党【北アイルランド】 5
無所属 3
プライドカムリ【ウェールズ】 3
社会民主労働党【北アイルランド】 3
イギリス独立党(UKIP) 2
統一党【北アイルランド】 1
緑の党 1
リスペクト党 1
議長 1

(イギリス議会ウェブサイト2015年1月16日現在)

党首テレビ討論には、SNPやプライドカムリも出席を求めている。

党員数は、以下のとおりである。

政党

党員数

参考

緑の党

44,713

2015年1月15日現在

自民党

44,680

2014年4月現在

UKIP

41,943

SNP

93,000

推定

労働党

190,000

推定。2013年末189,531

保守党

150,000

推定。2014年9月149,800、保守党支持の有力ウェブサイトConservativeHome。公表22万4千人だが、年1ポンドのサポーターを含む。

政党の発表している党員数が実態をきちんと反映しているかどうかには不確かな点がある。上記でも指摘しているように保守党は年1ポンド(180円)のサポーターも含んでいる。なお、緑の党は、学生は年5ポンド(900円)、そして年収5万ポンド(900万円)以上の人は120ポンド(21,600円)。保守党は、23歳未満は年5ポンドで一般党員は25ポンド(4,500円)。労働党は、26歳未満は年12ポンド(2,160円)で、一般党員は46.50ポンド(8,370円)だと言われる。

緑の党の党員数は、自民党やUKIPより多いかもしれないが、それが総選挙での党勢に直接つながるかというとそれに疑問を呈する向きもある。

緑の党は、5月の総選挙では、せいぜい1議席か2議席と見られる。UKIPは、欧州議会議員選挙でイギリストップの24議席を獲得し、世論調査でも労働党、保守党に続き、第3位。一方、自民党は、来る総選挙では、大きく議席を減らすが、20数議席は獲得する見通しだ。

イギリスの場合、Ofcomという放送通信監視機関が、UKIPを主要3政党、保守党、労働党、自民党と並ぶ主な政党と見なすという判断をした。この資格が与えられると、テレビでの取り上げられ方や、無料の政見放送などの点で有利となる。Ofcomは、緑の党にその資格を与えなかった。

Ofcomの判断は正しいように思われる。もしUKIPが主な政党と判断されなければ、UKIPは裁判所に訴えるかもしれないという見方もあったほどである。それに比べ、緑の党は、自党に有利になる可能性のある状況をすべて訴えているという印象がある。緑の党が、自民党やUKIPと同じ扱いを求めるのは少し望み過ぎと言わざるをえない。それでも、メディアの中には、緑の党を主な4政党に加えてインターネット上で討論をさせようという動きがある。