党首テレビ討論への放送局新提案

2010年の総選挙で、主要3党、保守党、自民党、労働党の党首によるテレビ討論が行われた。イギリス史上初めてのことである。選挙期間中に3回、1週間おきに行われ、合計2200万人が見たと言われる。

問題は、このテレビ討論が行われたため保守党が過半数を獲得できなかったと見る人が多いことだ。この討論で、自民党のクレッグ党首のクレッグブームが起きた。それでも自民党は議席を57議席へと減らした。しかし、自民党は、2003年のイラク戦争に反対したため、2005年の総選挙で、2001年の52議席から62議席へと躍進していた。つまり、自民党は、2010年には、議席が減るはずだったが、その減少を抑えられたという見方がある。一方、労働党の議席数は予想よりかなり多かった。これはテレビ討論の効果だといわれる。つまり、テレビ討論で、自民党の議席はあまり減らず、しかも労働党がある程度回復したために、保守党は過半数を上回ることができず、連立政権を組まざるを得なかったというのである。このことが、キャメロン首相が5月7日に予定されている総選挙前のテレビ討論を避けたい理由の背後にある。

放送局側の提案は、3回の党首テレビ討論を以下のような形で実施するものであった。

①    キャメロン首相(保守党党首)とミリバンド労働党党首の2人。
②    キャメロン首相(保守党党首)、クレッグ副首相(自民党党首)、ミリバンド労働党党首の3人。
③    キャメロン首相(保守党党首)、クレッグ副首相(自民党党首)、ミリバンド労働党党首、ファラージュUKIP党首の4人。なお、この4党は放送局の監督機関であるOfcomが主な政党と見なしている。 

これに対し、キャメロン首相は、キャメロン首相は、行う価値のあるのは首相候補同士の討論である①と、③に緑の党を加えたものだと主張した。つまり、③では、イギリス独立党(UKIP)を含めるのに、全国政党である緑の党を除外するのは不公平であり、そのような討論には参加しない、と主張したのである。なお、Ofcomは緑の党を主な政党とはみなしていない。

それに対し放送局側が、新しい提案をした。

この提案では、①の2大党首対決は同じだが、③に緑の党、スコットランド国民党(SNP)それにプライドカムリを加え2回行うというものである。SNPとプライドカムリが討論参加を求めていることがある。

キャメロン首相が、この提案を受け入れる可能性はそう大きくないように思える。恐らく、キャメロン首相が緑の党を「全国政党」と形容したのは、既にこの形の討論が提案されることを見越した上でのことではないか。しかも、総選挙の選挙運動が公式に始まる前にテレビ討論を行うべきだとも発言しているが、テレビ討論が選挙運動に影響を与えることを極力避けたいと考えているようだ。

スコットランドの地域政党SNPとウェールズの地域政党プライドカムリが参加しての討論は、いずれもそれぞれの地域の問題に力を入れる可能性が高く、そのため焦点が定まらないだろう。限られた時間内で行われる、そのような討論の効用には疑問がある。

また、北アイルランドの地域政党や、補欠選挙で当選した下院議員1人のリスペクト党も参加を求めており、このままでは、実施すること自体、簡単ではない。

もしキャメロン首相が、この新しい提案、もしくはそれ以外の政党も加えたテレビ討論への参加を受け入れたとしても、その討論としての効果は、2010年の総選挙討論、2014年5月の欧州議会議員選挙前のクレッグ・ファラージュ討論、もしくは2014年9月のスコットランド独立住民投票前の独立賛成側サモンド・スコットランド首席大臣(当時)と反対側のダーリング前イギリス財務相のテレビ討論よりもはるかにインパクトの少ないものとなるだろう。

その場合、インパクトが潜在的にはるかに大きいと思われる労働党のミリバンド党首とのテレビ討論を回避するのに力を入れることになるのではないかと思われる。

緑の党を率いる党首

大きな注目を浴びている緑の党は、党員を急速に伸ばしている。現在、47,969人。党員の数では、副首相ニック・クレッグが党首を務める自民党やイギリス独立党(UKIP)を上回った。急増の大きな原因は、保守党の党首デービッド・キャメロン首相が、緑の党が党首のテレビ討論に招かれなければ、自分も出席しないと言ったことにある。なお、緑の党をテレビの党首討論に参加させるようにとのオンラインのペティションは、28万を超えた。

その緑の党を率いるのはナタリー・ベネットである。ベネットは、1966年2月10日、オーストラリアのシドニー生まれ。シドニー大学とニューイングランド大学を卒業した後、ジャーナリストとなり、1999年イギリスへ。その後、レスター大学でマスコミュニケーションの修士号取得。ジャーナリストとして、インデペンデント紙やタイムズ紙に書いた後、ガーディアン・ウィークリーの編集に携わる。

2006年1月、緑の党に入り、2012年9月、党首に選出された。なお、イギリスの緑の党には、イングランド&ウェールズ、スコットランド、北アイルランドと3つあり、上記の党員数はその合計数。ベネットは、その最大の組織、イングランドとウェールズの党首である。その前任者は、キャロライン・ルーカスで、現在、緑の党唯一の下院議員である。ルーカスの選挙区は、イングランド南岸のブライトン・ホブ市の3議席のうちの1つであり、ブライトン・ホブ市では緑の党が少数与党ではあるが、市政を握っている。しかし、5月の総選挙と同時に行われる地方選挙を控え、その予算案に反対する勢力があるなど、緑の党に責任ある施政ができるか疑問がある。

緑の党の政策は、地球温暖化対策やグリーンに関するものだけではない。かなり極端なものがあり、国民全員に「市民の収入」として週に72.4ポンド(1万3,000円:£1=180円)以上支給するというものも含まれる。キャメロン首相が、党首討論には緑の党も、と主張したのは、労働党や自民党よりもかなり左の緑の党が含まれれば、労働党と自民党がかすみ、また、それらの支持票が緑の党に流れる可能性があると見ていることもある。緑の党そのものの総選挙での獲得予想議席数は、1から2議席である。

ベネットは、緑の党の党首でありながら、ロンドンの大英博物館の近くのブルームズベリーのコープのフードストアで今もパートタイムで働いているようだ。これまで総選挙も含めて何度か選挙に立候補しているが、落選した。しかしながら、今回のテレビ党首討論の議論で、メディアで大きく取り上げられている。これまでベネットが下院議員のルーカスに替わって党首となったことを知らなかった人が多かったが、ベネットの知名度が大きく上がり、これから出馬する選挙、特にロンドンの地方選挙で当選する可能性はかなり高くなった。緑の党の政策には疑問のあるものも多いが、スーパーの店員として働く知的な人物が公職に就くことには、メリットがあるように思える。