高齢者票に期待するキャメロン首相(Cameron Relying on Elderly Votes)

2010年総選挙の前に主要3党の党首討論が行われた。その第2回目の討論で、労働党のブラウン首相(当時)が保守党のキャメロン党首(当時)に質問した。保守党のマニフェストには、高齢者への無料の薬処方と検眼が含まれていないがどうするのかときいたのである(これらはイングランドのみで他の地域は分権されている)。

キャメロン首相は即座にいずれも行うと返答し、マニフェストで既に約束していたテレビ視聴料無料、冬季光熱費補助(Winter fuel payments)、バス無料乗車証を改めて繰り返した。

キャメロン首相は、これらを再び2015年総選挙のマニフェストで約束する考えだ。また、2010年に自民党との連立政権下で導入した基礎年金の上昇率を保証する「トリプルロック」をさらに2020年まで保証すると明言した。なお、これについては、野党労働党も同じ考えを示している。

なお、2013年度の週当たりの基礎年金は以下の通り
1人:£110.15(18,945円:1ポンド=172円)
夫婦:£176.15(30,297円)

また、貧困層に与えられる年金クレジットを加えた最低保障は週当たり以下の通り
1人:£145.40(25,008円)
夫婦:£222.05(38,192円)

トリプルロックとは、物価上昇率(CPI)、平均賃金上昇率もしくは2.5%アップのうち、最も高いものを基礎年金の上昇率にあてはめるというものである。つまり、最低2.5%アップすることになる。そのため、2012年度は5.2%アップ、そして2013年度は2.5%アップした。2014年度は2.7%アップで1人週113.10ポンド(19,453円)となる。その結果、2014年度は、このトリプルロックがなかった場合に比べて年間440ポンド(75,680円)高くなる。

基礎年金支払総額は労働年金省の計算(2012年)では現在価値で以下のようになる。

2010年度 580億ポンド(9兆9760億円)
2011年度 600億ポンド(10兆3200億円)
2015年度 660億ポンド(11兆3520億円)
2021年度 760億ポンド(13兆720億円)
2031年度 1,160億ポンド(19兆9520億円)
2061年度 3,020億ポンド(51兆9440億円)

この増大する年金に対して政府は年金受給年齢を上げることで対応しようとしている(拙稿参照)。

しかし、キャメロン首相は、基礎年金のアップ率を保証するだけではなく、裕福な人にも一律にテレビ視聴料無料、冬季光熱費補助、バス無料乗車証を継続すると言うのである。これらは2014年度には以下のような額(75歳以上)となる。

テレビ視聴料無料

6億1,600万ポンド(1,059億5200万円)

冬季光熱費補助

22億ポンド(3784億円)

バス無料乗車証

12億ポンド(2064億円)

この高齢者への厚遇は、選挙を念頭に入れているのは間違いない。前回の2010年総選挙の年齢別投票率では、18歳から24歳までの投票率が44%であったのに対し、65歳以上は76%であった。

またこれは英国独立党(UKIP)対策でもある。8千人余りを対象とした世論調査によると2010年総選挙で保守党に投票したが、次の選挙でも保守党に投票すると言わない人が37%いたが、もし総選挙がその次の日にあればその人たちの半分以上の55%はUKIPに投票するつもりだという結果が出ている。 2013年のYouGovの世論調査によると、50歳を超える有権者の割合は46%でだが、UKIP支持者のその割合は71%だという。UKIPにはかなり高齢者の支持が高い。つまり、次期総選挙で、これらの高齢者に下院に議席を持たないUKIPよりも政権を担当する可能性のある保守党に投票する方が得策だと信じ込ませる戦略だともいえる。

欧州議会議員選挙と世論調査(European Parliament Elections and Opinion Polls)

欧州議会議員選挙が5月22日(木)に行われる。欧州議会はEU加盟国28か国から5年ごとに選ばれる751議員によって構成される。英国にはこのうち73議席が割り当てられており、地区別の比例代表で選ばれる。イングランド、スコットランドそしてウェールズはドント方式で選ばれるが、北アイルランドは単記移譲式投票である。

この選挙では、英国のEUからの離脱を求める英国独立党(UKIP)がトップとなるのではないかと予想されている。UKIPは下院に議席を持たないが、前回の2009年には保守党に引き続き第2位の得票率で、第2位の議席を獲得した。

2009年6月4日(木)に行われた選挙結果は以下のとおり(イングランド、スコットランド、ウェールズ)。労働党は当時、ゴードン・ブラウンが首相で政権政党であったが、第3位となった。

 政党 得票率 議席数
保守党 27.9% 25+北アイルランド提携1議席
UKIP 16.6% 13
労働党 15.8% 13
自民党 13.8% 11

なお、それまでの2回の選挙結果は以下の通り。

政党

1999年

2004年

  得票率 議席数 得票率 議席数
保守党 35.8% 36 26.7% 27
労働党 28.0% 29 22.6% 19
自民党 12.7% 10 14.9% 12
UKIP 7.0% 3 16.1% 12

2009年には、1ヵ月ほど前までの世論調査でのUKIPへの支持率は1けた台だったが、それから支持が伸びた(2009年欧州議会議員選挙までの世論調査のまとめ)。投票前日までに行われたYouGov/テレグラフ紙の世論調査では、上記4党の支持率は以下のようだった。

政党 支持率
保守党 26%
UKIP 18%
労働党 16%
自民党 15%

1ヵ月ほど前までの世論調査が選挙結果とかなり異なっていた理由としては以下のようなことが考えられる(参照)。

・ 有権者が欧州議会議員選挙でどの政党に投票するか直前まであまり考えないこと。

・ 選挙期間中マスコミがUKIPをかなり大きく報道したこと。

・ 2009年には国会の議員経費問題が発覚したため、有権者が既成政党離れを示したこと。テレグラフ紙が国会議員の経費乱用の詳細を入手し、2009年5月8日から毎日のようにそれを次から次に発表した。

2014年の欧州議会議員選挙に対しては、2013年11月21-22日に行われた世論調査の結果は、以下のようである。

政党 支持率
保守党 24%
UKIP 25%
労働党 32%
自民党 8%

UKIPは2013年には下院の補欠選挙や地方議会選挙で善戦した。2014年の欧州議会議員選挙でも台風の目となることは間違いない。