2018年5月イングランド地方選挙(2)

2018年5月の地方選挙では、野党労働党が優勢で、メイ首相率いる保守党はかなり議席を失うと見られていた。地方選挙の予測で良く知られているRallings & Thrasherは、労働党が議席を200ほど増やし、保守党が75ほど減らす、また自民党が12議席増やす一方、イギリス独立党(UKIP)は125議席失うとしていたが、結果は、労働党が77議席増やし、保守党が32議席減。自民党が75議席増やした。全体で4400議席ほどが争われ、労働党が全体で2350議席獲得し、保守党が1332議席、自民党が536議席獲得した。中では、保守党と労働党にとっては、いずれも数%の増減で、それほど大きな変化があったわけではない。なお、今回の地方選挙はイングランドのもので、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドでは行われなかった上、イングランドの中でも全体をカバーしたものではない。

また、地方選挙では投票率は総選挙に比べてかなり低い。2017年総選挙の投票率は、69%だったが、今回の地方選挙の投票率は、公共放送BBCによると前回の2014年と同じく平均で36%である。

このような状況の中で、現在の有権者の政党支持の状況を読み取ろうとするのはそう簡単ではない。BBCは、世論調査の専門家、ジョン・カーティス教授と共同して、参考的な数字を出し、保守党と労働党への支持を35%づつと見ている。総選挙のように全体の結果がはっきりしているわけではなく、ところどころのデータを集めて推定するわけであるから、完全なものではない。それでも実際の投票から得られたものであるため、世論調査の結果より価値があると見られている。

数々の問題はあり、見方は様々に分かれるが、以下のような結果が導き出される。

まず、保守党と労働党の勢力が拮抗しているということだ。カーティス教授は、昨年の総選挙時より労働党がやや支持を伸ばしていると分析するが、これでは労働党が次に政権を取るのは難しいという見方がでる。ただし、ここで注目されるのは、UKIP票の行方である。この票のかなり多くが保守党に回り、今回の選挙で保守党が労働党を上回る議席を獲得したところで特に顕著である。当たり前のことだが、労働党が前回と同じ票を獲得したとしても、それまでの保守党票にUKIP票が加わって労働党票を上回れば、保守党が議席を獲得する。

イギリスのEU離脱を謳って生まれたUKIPはイギリスがEUを離脱することになり、その存在意義を失った。それでも、これらの有権者は、メイ首相のEUからきっぱりと離脱するというこれまでの発言を信じて、保守党に投票した。そのため、もしメイ首相が今後のEUとの交渉で弱腰となれば、これらの有権者が保守党から離れるという見方があり、カーティス教授は、メイ首相は、保守党内とこれまでのUKIP支持者の動向に注意を払うことが重要で、かなり難しい政権運営、EU離脱交渉を強いられると見ている。

一方、労働党はコービン党首のイメージ問題があると指摘されている。イングランド中西部のウォルソ-  ルで、全60議席の内、21議席が争われ、保守党が13議席(+5)、労働党が7議席(-2)、UKIPは0議席(-3)の結果となり、保守党がそれまでの議席と合わせ、30議席で最大政党となった。BBCが有権者になぜこのような結果が生まれたのかを問うたインタヴューを実施したが、コービンには政権が任せられないとの意見が多かった。そのロシアやシリア攻撃、EUの離脱交渉の立場、さらに労働党の反ユダヤ人問題に関連していると思われる。ただし、この地域は、2016年のEU国民投票で、3分の2が離脱に投票しているところであり、メイの今後のEU離脱交渉の対応次第でかなり変わる可能性がある。

次に保守党との連立政権に参画して以来大きく支持を失った自民党に回復の兆しが出てきてことだ。保守党から3つの地方自治体のコントロールを奪った上、それまで過半数を占める政党のなかった自治体で過半数を占めた。自民党が2010年総選挙前の支持を取り戻すにはまだかなり時間がかかるだろうが、望ましい方向に向かっている。

16歳投票権議論に見る政治の影響

イギリスの下院で、労働党下院議員が16歳に選挙投票権を認める提案を出したが、保守党下院議員のフィリバスター的な長い演説で採決にいたらず、事実上否決された

イギリスでは、現在、日本と同じ18歳に投票権を与えている。16歳投票制は、2014年のスコットランド独立住民投票の際、キャメロン保守党政権も認めて実施され、今では、スコットランド内の選挙にも採用されている(下院の選挙など、国全体の投票では18歳を維持している)。世界でもいくつかの国が採用している

労働党支持のイギリスの若者

イギリスでの投票年齢引き下げ提案には、政治的な背景を考慮しておく必要があろう。労働党はこれまでも一般に若者の支持する政党だったが、2017年6月の総選挙では、若者の支持が急増し、その投票率が大幅にアップ、しかも29歳以下の3分の2近くが労働党に投票したとされ、その結果、労働党が予想外に健闘した。労働党は、コービン党首が党首選に立候補して以来、党員が急増し、今や50万人以上の党員を擁し、西欧で最大の政党となっている。

自民党支持の日本の若者

一方、日本では、若者が自民党を支持する傾向がある。2017年10月の選挙で、NHKの行った投票所の出口調査によると、18-19歳は47%、20代は50%、30代は42%が自民党を支持し、それらより上の年代の自民党支持が30%台にとどまったのに比べ、大きな差があった。若者の支持で2位だった希望の党などの野党は、若者の支持を惹きつけられず、それぞれ10%台以下に留まった。これらの世代の第二次世界大戦や北朝鮮問題への捉え方の違いがその背景にあるように思われる。

投票年齢引き下げの政治的影響

結局、イギリスの場合、保守党下院議員が16歳投票制に反対するのは、新しく有権者となる150万人ほどの16-17歳の過半数が労働党に投票する可能性が極めて高く、保守党に不利だという判断があるためだ。

ただし、今回の保守党下院議員の16歳投票制反対は、かなり巧妙になされた。この提案に直接反対したのではなく、同じ日に議論された他の提案で長い演説をし、16歳投票制案を議論する時間をなくしたのである。現在の16歳は、2022年までに行われる次期総選挙には投票権を持つ。そのため、これらの若い有権者に保守党へ投票しない理由を与えることを避けようとしたのである。

16-17歳に投票権を与えるべきかどうかという理論的な考え方はともかく、このような政治的判断がその行方を大きく決めることとなる。