英国政治の「赤い壁」と「青い壁」

英国政治で「赤い壁(Red Wall)」「青い壁(Blue Wall)」という言葉がよく使われている。赤は労働党、青は保守党のイメージカラーで、それに関連した選挙で主に使われている。なお、イングランドの第3党である自民党は、黄色である。

下院の選挙は、単純小選挙区制であり、それぞれの選挙区で最多の得票をした人が1人だけ下院議員となる。英国の地図にそれぞれの選挙区でどの政党が勝ったかをそれぞれのシンボルカラーで埋めていくと、それぞれの政党の強い地域が壁のように見えるということから「赤い壁」や「青い壁」と表現する人が出てきた。「赤い壁」の地域は、英国本土のグレートブリテン島の中央部ミッドランドやイングランド北部などの地域で、「青い壁」は、イングランド南部などである。いずれもそれぞれの政党が伝統的に強いと考えられている地域である。

2019年の総選挙では、それまで労働党の強いと思われていた「赤い壁」地域で、保守党が大きく議席を稼いだ。これらの地域の多くは、2016年のEUを離脱するかどうかの国民投票で、離脱派が多数を占めた地域であったために、英国のEU離脱を求める労働者階級の人たちが投票先を変えたと見られた。一方、「青い壁」は、保守党の強いと考えられている地域で、この多くでEU在留派が多数を占めた。

ただし、「赤い壁」と「青い壁」はジャーナリズムでよく使われる表現であるが、その実態は異なるという分析がなされている。「赤い壁」でいうと、その地域の有権者は、言われるほど固定された考え方を持っているわけではなく、かなり進歩的な考え方を持つ人が多いという。

「青い壁」は、保守党の圧倒的に強いと思われていた選挙区の2021年の補欠選挙で、自民党が勝ったために、特に注目されてきた見方である。保守党政権に不満を持つ有権者が、労働党には投票したくないが、自民党なら投票できる、もしくは労働党の支持者が保守党に議席を与えないようにと考えて、自民党に投票するなどの投票行動の結果である。このような例が次期総選挙でかなりあるかもしれないと保守党の現職下院議員たちに心配する声がある。ブレクジットの結果が悪く、保守党政権の失政が重なると「青い壁」地域で、保守党が議席を失う可能性を心配しているのである。

いずれにしても、政治を分析する際に固定的な見方をすると、現実を見誤るかもしれないということは言えると思う。

次の総選挙までに労働党のしておかねばならないこと

野党第一党の労働党は、2010年の総選挙で敗れて下野して以来、2015年、2017年、2019年の総選挙で立て続けに敗れている。特に2019年の総選挙では、コービン党首のもと、ジョンソン現首相率いる保守党に大敗を喫した。次期総選挙は、2023年頃に行われると見られているが、コービンの後任の党首となったスターマー党首の下、支持率はそれほど伸びていない。

ジョンソン政権の混乱したコロナパンデミックの対応もあり、ジョンソン首相の評価や保守党への支持率が下がってきている。有権者がジョンソン首相に飽きはじめていることがうかがえる。その中、かつての労働党のブラウン首相の世論調査担当者が、スターマー党首の戦略担当者となり、現在の政治情勢を分析した。その主な点は、以下のとおりである。

・有権者は、労働党の目的が何か、どのようにして人々の生活を向上させようとしているのかわかっていない。

・政策を次から次に発表するだけではだめで、労働党の考え方や党首の考え方を反映した、(1)はっきりとして(2)焦点の定まった(3)気持ちの高揚するようなメッセージを出していく必要がある。

これらの点は、かつてジョンソン首相のトップアドバイザーだったドミニク・カミングスの手法に通じるように思われる。カミングスは、2016年のEU離脱をめぐる国民投票で、EU離脱派の公式団体の責任者だったが、「コントロールを取り戻そう」と訴え、予想に反して離脱賛成の結果をもたらした。また、2019年の総選挙の際、ジョンソン首相の下で、「EU離脱を成し遂げよう」のスローガンでジョンソン保守党の大勝利をもたらした。

労働党の党員は、50万人弱から43万人程度まで減ったと言われるが、スターマー党首の下党員の中のコービン支持が大きく減る傾向が出てきている。2019年の総選挙で、労働党を長年支持してきた有権者の票を多く失った。労働党の内外の変化に対応し、次期総選挙でまともに戦えるよう準備をするためには、今が正念場であると言える。