労働党の安全第一マニフェスト

6月13日には労働党のマニフェストが発表されたが、これまで発表されていた内容がほとんどである。6月11日に発表された保守党のマニフェストは、新たに付け加えられた減税の財源が疑問視された。労働党は現在、保守党に世論調査の政党支持率で20ポイント程度差をつけて優勢であり、選挙に勝つために安全第一の方針を取っている。労働党は保守党と同じ財政ルールを持ち、国の債務を減らすことを目標にしていることから、いずれの党も、約束する政策事業とその財源を均衡させようと懸命だ。一方、それがお互いの党を攻撃する材料となる。

労働党は、これまでの「14年間の保守党政権が作った問題」を解決するために、優先度の高いものから取り組むと主張している。例えば、NHSの医師にすぐに診てもらうことが難しくなっている。診てもらうまでに長期の待ち時間が必要だ。このような問題は直ちに取り組まねばならない。一方、子供手当の例である。親の収入制限があるものの、2017年に保守党政権で子供2人までに制限された。比較的収入の低い家庭で子供の数が多い傾向があることから、労働党に政権が替われば、制限を撤廃してくれるのではないかという期待がある。しかし、スターマー党首は、この政策を特に取り上げて、撤廃したいが、その財政的な余裕がないと主張した。過度な期待を防ぐことに躍起だ。

労働党は、税収入の6割を占める、所得税、国民保険、付加価値税の税率を次の総選挙まで変更しないと約束した。期待通りに経済が成長すれば、国の歳入が増え、事業が進めやすくなるが、もし経済が成長しなければ、税率を変更しないとした主要3税以外の税などを上げるか、NHSや教育などの優先分野以外の公共サービスの大幅カットに迫られる可能性がある。そうなれば国民の期待を裏切る可能性が高い。

政治にはある程度のギャンブルがつきものだ。この労働党のマニフェストで、今回の総選挙はまかなえたとしても、その次の総選挙でどうなるかは、運を天に任せるしかないと言えるだろう。

Sky Newsの二大政党党首別々の質疑応答

6月12日夜、Sky Newsが、テレビで、保守党のスナク首相と労働党のスターマー党首の別々の質疑応答を聴衆の前で続けて行った。YouGovがこの討論の世論調査を行い、結果は、スナク首相の方が良かったという人が36%、スターマー党首の方が良かったという人が64%であった。すなわち、ほとんど1対2の差で労働党のスターマー党首が勝ったということになる。

スナク首相は、前日に保守党のマニフェストを発表し、税金を下げると約束した。しかし、司会者から、7月4日の総選挙後、次の5年間の議会末の2028〜9年会計年度までに、国民所得に対する税の割合は増えるとの指摘を受けた。スナク首相は、話を聞いているとアカウンタント(会計士)のように聞こえるが、その指摘を受け入れなかった。しかしながら、国民の税負担割合が増えるというのは、権威ある財政研究所(Institute for Fiscal Studies)の見解でもある。1940年代以降最高の割合になるという。

保守党はますます見込みが無くなってきている。6月12日には、「労働党が大勝ちしすぎると民主政治によくない。議会で政府の行動を監視する対立政党になるのは保守党だから保守党に投票するべき」という声が保守党から出てきた。