スコットランドの反イングランド感情

スコットランド独立の住民投票まであと100日となった。9月の住民投票に備え、スコットランド国民党(SNP)をはじめとする独立賛成側、そして反対側も積極的な運動を進めている。

この中、スコットランドの本屋には「バノックバーン」、もしくは「1314」という数字が入った本がたくさん並んでいるそうだ。

これは、1314年の「バノックバーンの戦い」のことで、スコットランドがイングランドを破った戦いである。この戦いでスコットランドは事実上の独立を確保し、完全独立に向けて大きく前進した重要な戦いである。

この戦いに関する本は、2014年に入って少なくとも8冊出ている。これらの本は、人口が530万のスコットランドだけではなく、それ以外のイギリスや他の英語圏をも対象にしたものであろうが、それでもかなり多い。 

2012年にスコットランド政府がこの住民投票を2014年に行うとしたときから、この年がちょうどバノックバーンの戦いの700周年になると指摘されていた。つまりスコットランドの愛国心を掻き立てるにはふさわしい年と考えられたためである。

ただし、スコットランドの愛国心が高まることは、イングランドを敵としたものであり、イギリス全体にとっては望ましいものではない。イングランドでは、スコットランド人はかなり好かれているが、スコットランドでは今でも反イングランド感情がある。

イギリスはその正式な名前The United Kingdom of Great Britain and Northern Irelandが示唆するように連合王国である。つまりイングランド、スコットランド、ウェールズそして北アイルランドの「4か国」の連合体で、例えば、サッカーのワールドカップの予選にはイギリスのそれぞれの「国」からチームが出場する。もし予選に勝ち残れば、出場32か国のうち4か国がイギリスからという可能性もある。

歴史的、人種的な背景が絡み合っており、その感情にはかなり複雑なものがあるが、反イングランド感情の高まりには少なからず問題がある。スコットランド内でスコットランド独立に反対しにくい雰囲気ができており、一般の人々は口をつぐむ傾向が顕著になっている。 

世論調査によれば、今のところ賛成4割、反対6割のようである。このまま推移すれば、住民投票の結果は、独立反対ということになる。キャメロン首相らは、独立賛成熱を沈静化するため、スコットランド分権議会にこれまでより大幅に権限を委譲すると表明しており、いずれにしてもスコットランドへの分権は進むだろう。 

一方、スコットランド政府の首席大臣であるサモンドは、SNPのリーダーであり、この住民投票は一世代に一度のことだと言っているが、今回の住民投票で独立が否定されても、将来再び住民投票の要求が出てくる可能性は強い。

今回の住民投票が可能になった最大の原因は、2011年のスコットランド議会選挙で、SNP129議席のうち69議席を占め、過半数を握ったことだ。もともとこのようなことが起きないようブレア政権で1998年に小選挙区と比例代表を合わせた小選挙区比例代表併用制を採用した。ところが、2010年総選挙でそれまで政権を担当した労働党の支持が下落して政権を失い、その上、自民党が保守党と連立を組んだため、自民党の支持が大きく凋落した。労働党と自民党の支持が低迷する中、SNP2011年に大幅に議席を伸ばしたのである。

このような想定外のことが起きることなしに、SNPが過半数、もしくはそれに極めて近い議席数を獲得できる可能性はそう大きくない。緑の党など小さな政党がSNP2010年の住民投票提案に賛成したことを考えれば、必ずしもSNPで単独過半数を得る必要はないだろう。いずれにしてももしそのようなことが起きれば、スコットランド政府から再び住民投票要求が出てくる可能性がある。

9月の住民投票の結果がどうなろうとも、スコットランドの反イングランド感情は残ることになる。700年前のことを多くの人が覚えており、子孫へと受け継がれていくからだ。

上院議員任命を要求するUKIP

イギリスの議会には上院(貴族院)と下院(庶民院)の二院がある。

下院は、18歳以上の有権者による公選で選ばれる。小選挙区制であり、全国650に分かれた選挙区で最高得票を得た人が一人ずつ選ばれる。

一方、上院は基本的に任命制である。3つのカテゴリーがあり、92名の世襲議員、26名のイングランド国教会主教、そして議員の大部分を占めるのは一代貴族である。世襲議員は、1999年にそのほとんどが上院議員職を失い、残った世襲議員は、世襲議員間の選挙で選ばれている。それぞれの政党に所属する議員と、クロスベンチャーと呼ばれる中立議員、その他がいる。 

上院議員の構成

政党/グループ 一代貴族 世襲貴族 イングランド国教会 合計
主教

0

0

26

26

保守党

171

49

 

220

中立議員

151

30

 

181

労働党

214

4

 

218

自民党

94

4

 

98

無所属

20

0

 

20

その他

14

1

 

15

合計

664

88

26

778

201467日現在 なお、これ以外に様々な事由で除外されている議員がいる。

一代貴族は1958年に始まった制度であるが、首相が選任し、女王が任命する。2000年に上院議員任命委員会が設けられ、中立議員を首相に推薦することとなった。また、この委員会が3主要政党に推薦された候補者の適否を審査する。 

2010年の総選挙後、それまでの13年間の労働党政権下で労働党所属議員が増えたために、新しく政権についた保守党と自民党の議員の数を大きく増やした。2010年の保守党と自民党の連立合意書では、任命制の上院を選挙制の上院に改革することのほか、当面、上院の任命は2010年の総選挙の政党の得票割合を反映したものとすることとした。このうち、上院の改革は失敗した。

ところが、イギリス独立党(UKIP)が選挙の得票の割合に応じてUKIP所属の上院議員を任命すべきだと主張している2011年のユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの報告書によると、その得票割合で計算するとUKIPはさらに23人の上院議員の枠があることになるという。UKIPは保守党所属の元上院議員だった3名が党所属の上院議員として存在するが、その得票割合に対して数が少なすぎるという。首相側は、2010年以降、緑の党のロンドン市議会議員を上院議員に任命したが、今も小政党の問題については検討中だと返答している。

この問題は、次期総選挙後に大きな課題となるように思われる。というのは、イギリスでは、得票率が5%未満は供託金没収となる。つまり、5%未満の場合は、無視してもそう大きな議論にはならないかもしれないが、5%以上になるとそれなりの正当性を持ち始めるように思われる。

UKIP2010年総選挙で3.1%の得票だった。今年5月の欧州議会議員選挙ではUKIPの得票率は主要3政党を上回りトップだった。欧州議会議員選挙はイギリスの国政を決める下院議員選挙とは異なるため、必ずしも比較はできないが、来年の総選挙では数議席獲得する可能性があり、5%以上の得票をすると思われる。

もちろんキャメロン首相にとっては、現在の政治環境の中で、UKIP上院議員の任命は論外であろう。UKIPの正当性をさらに高めることになりかねないからである。