唯我独尊メイ首相

イギリスがEUから離脱する予定の日は2019年3月29日だったが、下院がメイ首相のEUとの合意を大差で2度否決したため、メイ首相はEUに3か月ほどの期限延長を願い出た。メイ首相のやり方に疲れ果てたEUは、3月22日、もしEUとの合意が下院の了承を得られるなら、欧州議会議員選挙日の前日5月22日まで、もし下院が賛成しなければ、4月12日まで延長するとし、それをメイ首相も受けいれた。

メイ首相は、3月25日に始まる週に、自分のEU合意をもう一度下院に持ち出して可否を問うと見られていた。しかし、閣外協力を受けている北アイルランドの民主統一党(DUP)がメイ合意に賛成しないと発表。保守党強硬離脱派も反対するとしている。さらに保守党をはじめ、野党にも、これまでブレクシット案への合意ができていないのは(自分の責任ではなく)下院議員たちの責任だと国民への訴えで主張したメイへの反発は強い。そのため、メイの合意が下院に承認される可能性はほとんどなく、メイ首相は自分の合意を下院に出さないかもしれないと示唆した。

これは、イギリスのEU離脱が4月12日となる可能性を強く示唆している。すなわち、メイは自分のやり方が通らないなら、とにかくイギリスをEUから離脱させるという自分の「約束」を守るつもりだという考えのように見える。合意があろうがなかろうが、である。歴史的に見れば、それは、何もできず、混乱だけもたらせて去った首相というレッテルよりよいだろう。自分だけが正しいとする唯我独尊メイにはそのような腹積もりがあるように思われる。

このようなメイ首相をなぜ保守党は見限れないのか。昨年12月の保守党の党首信任投票でメイは過半数の支持を受けた。そのため、1年間は再び信任投票が行えない。しかし、下院はメイ政権を不信任投票で倒すことができる。しかし、保守党下院議員にそれに踏み切れない人がほとんどだ。ほとんどの保守党選挙区支部で強硬離脱派が多い。そのため保守党の中でソフトな離脱を図る議員たちも保守党党首のメイ首相を不信任するまでには踏み切れていない(それができる議員は既に離党した)。政党選挙のイギリスの総選挙で、地元の選挙区支部から候補者として選任されなければ議員として生き延びられないためだ。あとしばらくの期間、あらゆる術策を講じて延命を図ろうとするメイ首相と、将来の方向を決める力を握ろうとする議会勢力とのせめぎあいが続く。

メイ首相の度重なる先延ばし戦術

このようなことがいつまでも続くわけがない。

メイ首相は、27日に予定されている下院の投票で、3月29日のEU離脱日が延期されることとなる危機に直面した。しかも自分の内閣の閣僚や準閣僚らのかなり多くがその案に賛成する見込みだと伝えられた。合意なしの離脱は絶対避けるべきだと主張する人たちである。これはただでさえ権威の失われているメイ首相にさらに大きな打撃となる。

これに対するメイ首相の戦術は先延ばしだった。3月12日にメイ首相の最新の修正案の投票をする。そしてもしこれが可決されなければ、13日に合意なしの離脱をするかどうかの投票をする。それも合意を得られなければ、14日に離脱日を短期間延期するかどうかの投票をするというのである。ただし、延期に合意してもそのような延長は1回だけで6月までに離脱、しかも合意なし離脱の選択肢は残したままだという。この3段階の案は、2月26日の閣議で了承され、その後、下院で発表された。

メイ首相のEUとの合意案で大きな障害となっているアイルランドのバックストップでEUが大幅な譲歩をすると見る人はほとんどいない。イギリスの現在の政治経済に及ぶ不透明な状況はビジネス投資などに極めて大きな影響を与えているが、このままでは、それが少なくとも6月まで続く可能性が大きい。このようなことがいつまでも続くわけがない。

メイ首相は、就任当初から、議会や閣議さえもバイパスしてブレクシットの交渉をしようとしてきた。それが今やこれらから足をすくわれかねない状況だ。