EU離脱とイングランド地方選挙

5月3日のイングランドの地方選挙で、イギリスをEUから離脱させることを目的として設立されたイギリス独立党(UKIP)の支持票が崩壊し、その他の政党がその恩恵を受けた。特に保守党への恩恵は大きい。

UKIPは2014年の欧州議会議員選挙でイギリスに割り当てられた73議席のうち24議席を獲得し、2位の労働党20議席、3位の保守党19議席を上回った。地方議会議員の任期は通常4年で、今回のイングランド地方選挙は基本的に4年前に戦われた地方議会議員選挙の再選だった。2014年のイングランド地方議会議員選挙は、この欧州議会議員選挙の直前に行われた。そのため、UKIP票がかなり多かったのである。

2015年の総選挙では、UKIPは、EUの問題以外の不満票も惹きつけ、保守党、労働党に続き、第3位となる12.6%を得票したが、1選挙区から最大得票の一人だけが当選する小選挙区制のため、獲得議席はなかった。もしこれが比例代表制だったならば全650議席のうち80議席余りを獲得していただろうと言われる。

ところが、2016年に行われたEUを離脱するかどうかの国民投票で51.9%対48.1%の結果となり、イギリス国民が離脱に投票したため、UKIPの存在意義がなくなる事態となった。2017年の総選挙でUKIPの得票率が1.8%まで下がり、今回の地方選挙でUKIPの地方議員がほとんどいなくなる結果は予想されていた。

今回の地方選挙で、保守党は、EU国民投票で離脱票が60%以上の選挙区(すなわちUKIP支持が強かったところ)では、13ポイント支持が上昇している。一方、離脱票が45%以下のところでは支持率が1ポイント減少した。これは、2017年総選挙と同じような傾向だ。

また、若い人の多い選挙区、すなわち、18歳から34歳の割合が35%を超えるようなところで保守党は支持を10ポイント落とし、この年代が20%を下回るところで8ポイント支持を伸ばしている。また、65歳以上の人が20%を超えるようなところで保守党が10ポイント支持を伸ばしている。

若い人の多く、大卒の人が多い、そして少数民族出身者の多いところでは保守党の支持は伸びていない。すなわち、離脱に反対した人たちが多いところで保守党は苦しんでいるのである。その代表は、EU残留を強く打ち出している自民党が議会の過半数を新たに占めた4つの地域であろう。

今回の地方選挙でさらにはっきりしたことだが、メイ政権は、党内だけではなく、一般有権者の離脱派の支持を継続して受けられるように政権を運営していく必要に迫られている。

メイの難問:イギリス離脱後のEUとの貿易関係

メイ首相は、EU離脱後、イギリスはEUの単一市場も関税同盟も離脱するとしている。関税同盟は、域内の関税をなくし、域外からの輸入に同じ関税をかけるものであり、他の国に対しては一つのブロックとして交渉する。そのため、イギリスはこれまで独自の貿易交渉をしてこなかった。イギリスの単一市場、関税同盟離脱の大きな理由は、EUに事実上の決定権を握られ、しかもイギリスが独自に貿易関係を結ぶことができないからである。

ただし、それではイギリスの貿易の半分近くを占めるEUとの貿易関係をどうするかという問題がある。EU内にあることでイギリスに拠点を置いてきた外国資本がイギリスから撤退していくかもしれない。また、アイルランド島内のイギリス領北アイルランドとアイルランド共和国(EUメンバー)の国境問題がある。現在の境界も検問もない状況のままで継続していくためには、イギリスとEUとの貿易関係を緊密にし、検問などのチェックをできるだけなくする仕組みにしなければならない。

そこで出てきたのが、以下の2つの案であるが、いずれもEU側は消極的である。

①Max Fac(Maximum Facilitation)案:認定企業制度とテクノロジー(まだ開発中のものを含む)などを駆使し、国境でのチェックをできるだけ少なくする案である。しかし、税関でのチェックが完全になくなるわけではない上、EU側も同じような制度を設ける必要が出てくる。また、このような試みは世界でまだなく、実施までにかなり時間がかかる可能性がある。

②関税パートナーシップ(Customs Partnership)案:関税同盟の代わりに、イギリスとEUとの間で新たな枠組みを作り、EU並びにイギリスへの外部からの輸入に関し、それぞれの手続きをお互いの手続きと同じと認め合う案である。関税に関しては、もし外国からモノがイギリスに入ってきた場合、EUもしくはイギリスの関税のうち高い方をかけ、もしモノがイギリスに留まり、イギリスの関税がEUより低いものであれば、その関税の差を輸入業者は払い戻し請求ができる仕組みである。

この案では北アイルランドの国境で通関チェックの必要なしで済ませられる。しかし、EUの様々な規制に縛られる他、EU側、イギリス側の両方でかなり大きなコストがかかると見られる。また、事実上、イギリスがEU外の国と貿易関係を結ぶのに障害があると心配されている。

メイ首相は、この②案の方をよいと考えているが、5月2日のブレクジット内閣小委員会でこの案への反対が上回った

EU側は、アイルランドの国境問題の解決策をこの6月のEUサミットまでに合意したいと考えている。この問題は、EUとイギリスの将来の貿易関係に非常に密接に関係している。時間は乏しい。

なお、これからのイギリス・EU関係のスケジュールの概略は以下の通り。

2018年6月28-29日 EUサミット

2018年10月18-19日 EUサミット: EU側交渉代表者のバーニエはEU側がそれまで交渉してきた離脱合意に合意することを目指している。これには、「移行期間」に関する合意も含み、将来のイギリスとEUの関係についての「政治宣言」を含む。

2019年1月 イギリス議会と欧州議会の両方の離脱条約承認を目指す。

2019年3月29日午後12時(イギリス時間3月29日午後11時)イギリスがEU離脱。計画通りに進めば、イギリスは「移行期間」に入り、EUの意思決定過程から外れるが、それまでのイギリス・EU関係が続く。この関係は、2020年12月31日まで続き、それ以降、イギリスとEUは新しい関係に移る。イギリスは他の国と独自の貿易条約を結ぶことができるようになる。