カギとなる2月27日の下院投票

2月23日(土)の多くの新聞がメイ首相の苦境を報道している。2月27日(水)に行われるブレクシットに関する下院投票では、メイ首相が勝てる見込みはほとんどないと見ているからだ。その中でも、特に二つの報道が注目される。

メイ首相に近いデイリーメイルは、3人の閣僚の「謀反の意志」を報道した。もしメイ首相のEUとの合意案が下院で承認されず、それにもかかわらずメイ首相が大きな混乱を招きかねない「合意なし」を除外しなければ、その3人の閣僚が、3月29日の離脱日の延長に投票する意向を示したことを報道したのである。本来、閣僚は共同責任である。しかし、そのようなことを公言する閣僚を更迭できない、もしくは更迭しないメイ首相の考えをいぶかる見方がある。ただし、この3人の閣僚と同じ考えを持つ準閣僚や保守党無役下院議員はかなり多いと見られている。

一方、この記事は、保守党内の強硬離脱派グループ、欧州リサーチグループ(ERG)に対する警告だという見方もある。ERGは、北アイルランドと南のアイルランド共和国の国境をめぐる問題でEU側の主張するバックストップ(安全ネット)の半永久化を警戒しており、その変更を求めている上、3月29日の離脱日の延長に反対している。ERGはバックストップの問題で進展が見られなければ、メイ首相の案に賛成しない方針だ。ERGが賛成しないなかではメイ首相の案が承認される可能性はほとんどない。労働党の議員に、メイ首相の案に賛成する代わりにその案の国民投票を求める修正案を出す動きがあるが、メイ首相がそのような国民投票を認める考えはない。むしろ、ERGが反対し続ければ、3月29日の離脱日が延び、政治情勢が変わると警告する意味合いが強いように思われる。デイリーメイルはこれまでメイ首相を支援する傾向の報道を続けており、この記事もメイ首相を何らかの形で支援する方向のものと考える方がわかりやすい。

一方、左寄りとされるガーディアン紙は、保守党内の強硬離脱派がメイ首相に5月の地方選挙後、首相を辞職するように求めているという。2019年末に想定される党首の信任投票でメイが敗れると見て、新しい党首・首相でEUとの次の段階の交渉を進めるべきだというのである。

メイ首相はこれまで窮地を乗り越えてきた。1月にメイ首相の案が歴史的な大差で否決されてもメイ首相は生き延びてきた。もう一ヶ月ほどで離脱日が来るというこの段階にきても、メイ首相は3月29日の離脱日を延長する考えはないと繰り返し主張し、逆に、下院議員たちに、「私の合意案」か「合意なしの離脱」の二者択一だと主張し続けている。合意なしの離脱に反対する保守党や野党の労働党らの議員たちに、それなら私の合意案に賛成せよと迫ってきたのである。もちろんこの議論自体おかしい。これまで労働党らの意見も聞かず、勝手に自分で合意案を作ってこれしかないと主張しているからである。

いずれにしても、いまや下院議員たちの辛抱も限界にきている。メイ首相がERGの納得できる譲歩をEU側から勝ち取れる見込みはない。メイ首相が何らかの行動に出るか、下院が主導権を握るか、2月27日の投票は大きな意味を持つ。

労働党・保守党下院議員の離党

2019年2月18日、労働党所属の8名の下院議員が労働党を離党した。そして2日後、保守党所属の3名の下院議員が保守党を離党し、元労働党下院議員らの作った「独立グループ」に参加した。今やそのグループは11名となった。

今のところ、保守党下院議員が離党した2月20日以降に行われた世論調査は発表されていないが、労働党の下院議員が離党した後の反応は、いくつかの世論調査に出ている。

最も新しいものは、YouGovによるもので、以下のような結果となっている。

保守党                                    38%

労働党                                    26%

独立グループ                        14%

自民党                                    7%

その他                                    15%

独立グループは、保守党、労働党、自民党から支持を奪っているが、最も大きな影響を受けているのは労働党である。労働党支持者の中にどの党を支持するかわからないという層が増えていることがその一つの理由である。これには、この世論調査に2月20日の保守党下院議員3名の離党が反映されていないことがあろう。保守党支持者にも保守党下院議員の離党でどれを支持するか考える人も出るだろうからである。

他にも独立グループが8%、もしくは10%の支持があるなどという世論調査がある。ただし、現在のようなブレクシットでもたらされている沈滞したムードの中では、新しいものに共感する少なくとも一時的な動きは出てくるだろう。

問題は、世論調査でかなりの支持を集めたとしても、それを実際に反映するには、このグループが全国的なネットワークで候補者を立て、その支持を集約していく作業が必要な点だ。考え方の近い自民党との協力がカギとなる。

今後、労働党・保守党を離党してこのグループにさらに加わる動きがでるか注目される。