サウスポートから始まった暴動

2024年7月29日に起きた、リバプールに近いサウスポートの殺人事件を契機に、サウスポートで暴動が起こり、ロンドンを始め、イングランド各地に暴動が広がった。殺人事件は、アフリカのウガンダ出身の両親を持ち、ウェールズのカーディフで生まれた17歳の男子が、サウスポートで夏季休暇中に開催されていたダンスクラスの生徒らを包丁で刺し、3人の子供が亡くなり、大人2人を含む10人が大けがをしたというものである。

亡くなった子供たちを悼むお通夜が行われたが、ソーシャルメディアなどで、17歳の男子はイスラム教徒の移民だとされ、サウスポートのイスラム教寺院が極右のグループなどに攻撃され、暴動になった。反移民感情は英国がEUを離脱した大きな要因であり、さらに7月4日の英国総選挙でリフォームUK党が大きく得票を伸ばし、5人の下院議員を生んだ原因でもある。通常、18歳未満の容疑者は、名前を報道されることはないが、偽の情報がさらに流されることを防ぐため、一週間以内に18歳になることもあったが、裁判所は、容疑者の名前を公表することを許可した。

問題は、このような事件は、極右の活動のきっかけになりやすく、しかも日頃の不満を発散する場になりやすいことだ。

スターマー首相は、直ちに、暴動対策に対応するための本部を設置し、地方警察の連携を強めるとともに警察の権限を強化し、暴動の扇動者や参加者に厳しい対応をすることを発表した。平和的なプロテストとは異なり、参加者は「犯罪者」として扱うとの態度を明確にした。サッカーのフーリガン(サッカーに関する暴力的行動の扇動者並びに暴徒化したファン)を対象にしたような制度を使い、また、顔認識システムを利用するとし、さらに、ソーシャルメディア会社の責任を問う姿勢を明らかにした。地方警察は、さらなる暴動に十分な準備をしているとする。

2011年8月にもイングランド各地で暴動が起きたことがある。筆者は、当時、暴動の起きた、ロンドンのバタシーの暴動の翌朝様子を見に行ったことがある。多くの店が略奪に会い、消防車がまだ活動しており、悲惨な姿を呈していた。後に、当時のロンドン市長ボリス・ジョンソン(後に首相)が住民らと話をしていたが、何をしたらいいかわかっていないような印象を受けた。

それと比べると、元検事総長のスターマー首相は、今何をしなければならないかを十分に理解しているような印象を受ける。

政策金利を下げたイングランド銀行と政治家の運

英国の中央銀行であるイングランド銀行は、2024年8月1日の金融政策委員会で、政策金利を5.25%から0.25%下げ、5%とした。この政策金利は、2021年12月まで0.1%だった。

この引き下げは、2か月連続で消費者物価指数が2%だったことで、2022年10月の11.1%のピークから大きく下がり安定してきたことがある。このピークは、ロシアのウクライナ侵略のため、エネルギー価格が急騰し、生活費が大きく上昇したことが原因だった。また、5月に賃金の上昇が落ち着いてきて、失業率が変わらず、求人が下降している。一方、第一四半期の小幅のリセッションからの回復が予想以上であることが背景にある。

スナク前首相は、もともと総選挙を今秋に予定しており、11月ごろになるとの見方が強かった。もし、7月4日ではなく、11月に実施していれば、少なくとも、前保守党政権の経済運営の「成功」を誇るチャンスはあったように思われる。

一方、英国のサウスポートで、ウガンダから移民してきた夫婦の英国生まれの17歳の男子が、ダンスクラスに参加していた子供たちをナイフで刺し、そのうち3人が死亡し、大人2人を含む10人がけがをした事件が発生した。その後、極右のグループがサウスポートの全く関係のないイスラム教寺院を攻撃し、暴動を起こし、ロンドンを含む他の地域にも暴動が拡散した。ソーシャルメディアによる偽の情報が、これらの暴動を起こしたとみられている。それに関連し、リフォームUK党のファラージュ党首が、暴動をそそのかすような発言をしたと批判されている。リフォームUK党は、7月4日の総選挙で、全体の14%あまりの得票をし、5人の下院議員を生み出した。もし、この事件が総選挙の前にあれば、リフォームUK党に票を大きく奪われた保守党への打撃はかなり少なかった可能性があるように思われる。

政治・経済情勢は変わる。英国では、いつ総選挙を行うかが決まっている制度ではなく、首相がいつ行うかを決められる。その結果、政治家の運が選挙の結果を左右するともいえるだろう。