労働党とスコットランド国民党の提携問題

労働党は、前回の2010年総選挙で、スコットランドの59議席のうち、41議席を獲得した。スコットランド国民党(SNP)は6議席だった。

ところが、2014年9月のスコットランド独立住民投票後、SNPの支持率が大きく上昇し、最近の予測には59議席のうちSNPが56議席獲得するかもしれないというものもある。

全国的には、保守党と労働党の支持率は、30%台前半で、同程度。その支持率が、5月の総選挙で維持された場合、もし労働党がスコットランドで前回並みの議席を獲得すれば、選挙区の構造などから、労働党が有利であり、労働党が過半数を獲得できなくても、最大政党となる。しかしながら、労働党がスコットランドで大きく議席を失えば、その可能性は少なくなる。

一方、SNPは、その支持の急増を受け、既に保守党との連携をはっきりと否定し、労働党と連携する方針を打ち出している。労働党とSNPの連携には、公式なもの(例えば、連立政権や閣外協力など)、非公式なものを含めて、各方面から反発がある。

労働党とSNPが連携した場合、イギリス全体の国政が、地域政党であるSNPに牛耳られる可能性がある上、スコットランドの独立を目指すSNPは、その目的に向かって、政権を使おうとする心配があるからである。

また、スコットランドで議席を失う可能性の高まっている労働党議員だ。これまで、スコットランドの有権者は、スコットランド内ではSNPを支持しても、イギリス全体の下院選挙では、労働党を支持する傾向があった。SNPは地域政党だが、労働党は全国政党であり、政権を担当する可能性があるためである。

SNPの言い分は、SNPは下院で労働党を支持するので、SNPを支持することは、労働党を支持することと基本的に同じである、しかもスコットランドに有利だとする。これには、2014年のスコットランド独立住民投票が少なからず影響している。主要3政党(保守党、労働党、自民党)は、スコットランド独立に協力して反対した。そのため、住民は、住民投票では独立に反対したものの、労働党は、かなりの信用を失った。

SNPの議論に対処するため、ミリバンド労働党党首が、SNPとは提携しないとはっきりした方がよいという意見がある。しかし、ミリバンドは、できればそこまでは言いたくない。労働党とSNPの連携の可能性を残しておきたいからだ。もし、SNPと組まないと言えば、政権を自ら放棄することになりかねない。

ミリバンドがそれをはっきりと言えば、今やSNPを支持する、元労働党支持者の多くの考え方を変えるかもしれないという期待がある。これは、特に、議席を失いかねない現職の労働党議員にとっては、切実な問題だ。また、労働党が、SNPとの連携を否定しても、SNPは労働党を支持せざるを得ないという見方がある。もしSNPが労働党を支持しなければ、SNPが保守党の政権を生むことになる可能性があるからである。しかし、このシナリオどおりに動くかどうか、確かではない。

その一方、労働党が、SNPとは提携しないと言えば、スコットランドの有権者が労働党を「罰する」かもしれないという不安もある。

ミリバンドは、労働党とSNPの連携の可能性のために、イングランドでの支持率に影響が出るようなら、立場をはっきりとさせざるを得ないだろう。

保守党は、この「労働党とSNPの連携」を前面に押し出したポスターキャンペーンを始めた。「弱いミリバンド首相」を操るSNPの不安を有権者に訴えることで、保守党が政権を担当しなければならないと示す作戦だ。

SNPの急激な支持の拡大は、イギリス独立党(UKIP)に票を失っている保守党に光明を与えている。

テレビ討論に出席しないキャメロン首相の評価

5月7日投票の総選挙に向けて、主要放送局が3回の党首テレビ討論を計画している。それは以下のようである。

4月2日:7党(保守党、労働党、自民党、UKIP、SNP、プライド・カムリ、緑の党)
4月16日:7党(同上)
4月30日:2党(保守党のキャメロン首相と労働党のミリバンド党首)

これに対し、キャメロン首相側は、3月30日に予定されている解散の前に、7党の党首討論を1回のみ、90分間行うことを求めたが、その「最終提案」を放送局側は拒否し、予定通り、3回行うとした。そして、もしキャメロン首相が参加しなくても実施するとしたのである

主要放送局が予定している3回の討論のうち、最初は、キャメロン首相側の提案と日程が近く、妥協の余地があるかもしれないが、あとの2回にキャメロン首相が出席する可能性はない。特に第3回目は、投票日の1週間前であり、ミリバンド労働党党首と討論するのは危険なためだ。

有権者は、ミリバンドについて、これまで漫画のヘボなキャラクターのような印象を受けており、それがミリバンドの低い評価につながっている。しかし、キャメロンと1対1でテレビ討論をすれば、ミリバンドの実像、すなわち、キャメロンに立ち合って、丁々発止できる人物を示す可能性が高いことから、キャメロンにとっては、百害あって、一利なしである。

もちろんキャメロンが4月30日に出席せず、ミリバンド一人が討論に出席するという事態が実際に起きれば、キャメロンの評価にある程度のマイナス効果があるだろうが、キャメロン首相側は、この討論を避ける方がはるかによいと判断しているようだ。

ミリバンドは、この問題に有権者のより大きな注目を集めるため、自分が政権を取れば、党首のテレビ討論を法定化するとした。ところが、有権者は、党首テレビ討論の実施には賛成しているものの、この問題にそう大きな関心を持っていないようだ。世論調査では、キャメロン首相の評価に特に影響は出ていない。