投票権を引き下げると若者が選挙に関心を持つ?

日本では、選挙への投票権を20歳から18歳に引き下げることとなった。世界の多くの国が18歳を採用していることや、高齢者が増えており、世代間のバランスを取るため、さらには若い世代が政治に興味を持つきっかけとするなどの狙いがあるようだ。 

しかし、それが効果を生むのだろうか?それだけで若い世代が政治に関心を持つようになるのだろうか?日本の政治がより健全になるのだろうか? 

イギリスでは、1969年に18歳としたが、若年層の関心が必ずしも高いとは言えない。20155月に総選挙が予定されているが、その総選挙で初めて投票する現在17歳から21歳までの世代対象に行った世論調査では、投票するとした人は41%であった。全世代では60%、そして60歳を超える世代では4分の3の人が投票するとしている。年齢の高い層と比べると若年層の政治的な関心は低い。

これは、これまでの歴史的な傾向にも合致する。 

18歳から24歳の総選挙での投票率推移

総 選 挙 1970 1974 2 1974  10 1979 1983 1987 1992 1997 2001 2005 2010
投票率 64.9 70.2 62.5 62.5 63.9 66.6 67.3 54.1 40.4 38.2 51.8
全世代 72.0 78.8 72.8 76.0 72.7 75.3 77.7 71.4 59.4 61.3 65.0

出典:英国下院図書館資料SN/SG/1467 201373。(なお、2010年には自民党の党首クレッグによるクレッグブームで若い世代の投票率が伸びた。)

学校時代にきちんと市民権教育を施せば、投票率が高くなるだろうという見方があるが、ある研究報告書によると、英国の学校で市民権教育を実施したが、投票率向上への長期的な効果はなかったという。単に市民権教育を実施するだけでは不十分なようである。

そこで、選挙年齢を16歳まで下げる考えを持っている労働党の影の法相シディキ・カーンは、有権者となって最初の選挙を義務制にすることを検討している。投票年齢を下げるだけでは、若年層と年齢の上の層との投票率の差を広げるだけになるからだ。最初の選挙に投票するとその後継続して投票する傾向があることに注目した。

日本で投票年齢を下げるだけで若い世代の政治への関心が増すと考えるのは十分ではないように思われる。むしろ、もし最初の選挙に投票しなければ、その後も継続して投票しない可能性が出てくるのではないだろうか?

それでは最初の選挙を義務制にするのはどうだろうか?実は、この問題はイギリスの政党によって考え方が異なる。選挙への影響を考えるからだ。労働党が積極的なのは、若年層の支持が強いからである。

日本では、単に選挙年齢を引き下げるだけではなく、いかに若年層の政治への関心を高め、投票率を上げるかに取り組んでいかねばならないように思われる。もちろん制度的な点も検討していく必要があろうが、若い世代がより関心を持つような政治にしていくことが大切なことである。

英国のジャーナリスト魂

BBCで非常に厳しいインタビューをすることで有名なジェレミー・パックスマンが、その舞台となったBBC2テレビのニュースナイトという番組を降りることとなった。この番組は午後10時半ごろから始まるが、普通の人と同じように早くベッドに行きたいからだと言う。パックスマンはBBCのスタージャーナリストで、年俸80万ポンド(13600万円:£1170円)とも言われる。

パックスマンの有名なインタビューには、1997年に、内務大臣だったマイケル・ハワードに同じ質問を12回したというものがある。当時刑務所は内務省の管轄下だったが(現在は法務省)、刑務所から囚人が逃亡したことに対して、刑務所サービス長官にその意思に反して刑務所長をその地位から除くよう圧力をかけたかどうかという問題である。内務大臣にはその権限がないのに職分を超えて行動したのではないかという疑いがあった。

筆者はこのインタビューをちょうど見ていたが、その執拗な質問に驚いた。後にパックスマンは次に予定されていたものの準備が遅れており、他に何を聞いたらよいか思い浮かばなかったので何度も同じことを聞いたと漏らしたと伝えられるが、そのようなことが許されるのかと改めて驚いたことがある。

パックスマンには、米国の国務長官を務めたヘンリー・キッシンジャーがその質問に怒って席を立ったとされる事件もある。特にパックスマンが、米国がベトナム戦争を終結させるため1973年パリ協定を結んだ功績のためにキッシンジャーがノーベル平和賞を受賞したのを「詐欺のように感じたか?」と質問したことである。このような質問に慣れていない米国の政治家には厳しすぎたのではないかとみられた。 

英国のジャーナリストは国民の代わりになって聞きにくいことを聞くという職業魂があるようだ。BBCでは朝の人気ラジオ番組Todayのジョン・ハンフリーも厳しい質問をすることで有名だ。それ以外のジャーナリストも朝からそこまで突っ込むかという場面もある。女性ジャーナリストも例外ではない。

同じくBBCのエディ・メイヤーがロンドン市長ボリス・ジョンソンにインタビューしたときには、ジョンソンの将来の首相となる夢が消えたと多くの人が思ったほどだった。ジョンソンが若いころ、人の言葉をでっち上げて書いたことでタイムズ紙を解雇されたことや、保守党の下院議員時代に党首のマイケル・ハワードに自分の情事の噂を否定したがそれが本当だとわかり、影の内閣のポストを解任されたことなどを取り上げ、きちんと答えられないジョンソンに「あなたは卑劣な人じゃないですか」と言った。普通の政治家なら将来の首相になるなどという野心は消えるところであるがジョンソンは生き延び、いまなお、キャメロン後の保守党党首の最右翼候補である。 

BBCの政治部長ニック・ロビンソンの英国独立党(UKIP)のファラージュ党首に食い下がったインタビューもなかなかのものであった。外国人、特にEUからの移民が英国人の仕事を奪っているとファラージュが主張していることに対し、ドイツ人の妻を自分の秘書に雇っていることを質したものである。

また、ロビンソンのキャメロン首相へのインタビューでは、キャメロン首相がイギリスをEUの中に留めたいと考えているのに、EUに留まるかどうかを決める国民投票を2017年末までに行うと約束したことに対して、EUに不満を持つ有権者を「買収」しているのではないかと突っ込んだ質問をした。そして1年後の総選挙の結果、首相官邸を出ることになるかもしれないですねと言うと、普段は非常にスムースに答えるキャメロン首相が言葉に詰まり、非常に深刻な顔をして、それがデモクラシーだ、苦痛だがたいへんいいことだと答えた。

良しにつけ悪しきにつけ、このようなジャーナリスト魂が英国のジャーナリズムにある。