アッシュダウン卿の自民党への影響(Lord Ashdown’s Influence)

各政党ともに2015年総選挙の責任者を決め本格的な選挙準備に入っている。ニック・クレッグ副首相率いる自民党では責任者は上院議員のアッシュダウン卿である。アッシュダウン(1941年2月24日生まれ)はかつて自民党の党首であり、今でも自民党に大きな影響力を持っている。テレグラフ紙の編集した自民党の影響力の大きい人物ランキングでクレッグ党首・副首相、アレキサンダー財務副大臣、ロウズ教育、内閣府担当大臣に続いて第4位とされている。2013年9月の党大会でクレッグがアッシュダウンを2015年総選挙キャンペーン議長と紹介した時、アッシュダウンへの拍手はひときわ大きなものがあった。

次期総選挙は、2010年5月に保守党と連立を組み、低い支持率にあえぐ自民党にとって党の命運をかける戦いとなる。アッシュダウン卿は、これまでクレッグ党首のメンター的役割を果たしてきた。

2013年は自民党にスキャンダルが襲いかかった。自民党のチーフエグゼクティブだった上院議員レナード卿に性的ハラスメントの疑いがかかり、さらに前エネルギー大臣のクリス・ヒューンが司法妨害罪で刑務所に送られた。ヒューンは、クレッグと党首選を競い惜しくも破れた人である。レナード卿は起訴もされておらず司法的な処置はとられていないが、大きく報道され、いずれも自民党のイメージをさらに傷つけるものとなった。

アッシュダウンは、このような問題はどの党にも起きるとして、起きたことよりもそれらにいかに対応するが重要だと言う。アッシュダウンは、明らかに自分の経験に基づいた話をしているようだ。党首時代に、女性秘書とのかつての関係が明らかになる可能性があった時、先手を取って自ら記者会見を開いて公表し、「パンツダウン」などと揶揄されながらも、その影響を最小限に食い止めたことがある。

アッシュダウンはもともと英国海兵隊のエリート特殊部隊SBSの指揮官だった。その後外務省に入り、一等書記官などを務めたが、実は英国の対外諜報局MI6のメンバーだった。

1983年から2001年まで自民党下院議員を務め、1988年から1999年まで党首。1997年総選挙では18議席から46議席へと伸ばし、自民党の中興の祖ともいえる。2002年から2006年まで国連のボスニア・ヘルツェゴビナ上級代表を務め多くの業績をあげた。その後、国連のアフガニスタン特別代表のポストを一度引き受けたものの、アフガニスタン政府側がアッシュダウンのボスニア・ヘルツェゴビナ時代に示した剛腕ぶりを嫌ったためにポスト就任を辞退したという経緯がある。

なお、アッシュダウンは、1997年総選挙前に労働党のトニー・ブレアと自民党・労働党の連立政権の話し合いを進めていた。労働党が地滑り的大勝利を収めたためにその連立政権の話は無くなったが、この経験が2010年にクレッグが保守党との連立に踏み切った一つの要因になっているように思える。

アッシュダウンがどの程度、自民党の党勢を回復できるか注目されるが、少なくとも自民党活動家にとっては頼りになる人物と言えるだろう。これまでの世論調査の結果では、全国的には支持率が大きく下がっているものの、現職の自民党下院議員の議席ではかなり善戦する傾向が出ており、党活動が命運を分けるカギとなる。その点でアッシュダウンの任命は当を得ていると言える。

年金受給年齢を引き上げる英国(Increasing Pension Age)

英国の年金制度は、1909年、自由党政権下で財相ロイド=ジョージによって開始された。受給者の拠出金なしの制度で、受給には数々の制限が設けられていたが、支給開始年齢は70歳だった。平均余命が50歳にも達していない時代である。

現在、平均余命は男性79歳、女性83歳。統計局の予測では50年後の2063年には年金生活者に対する国の支出は2013年の940億ポンド(16兆1680億円:1ポンド=172円)から4380億ポンド(75兆3360億円)へと4倍以上となるとしており、これにいかに対処するかは深刻な問題である。

基本的には年金問題への対応には以下のような方策がある。
① 年金受給開始年齢のアップ
② 負担拠出金のアップ
③ 年金額の引き下げ

ただし、高齢者の数は急速に増加しており、しかも高齢者の選挙での投票率は高い。そのため、政治的に③の年金額の引き下げはかなり困難な問題である。

政府の基礎年金は、国民保険を30年支払った人が満額需給できる。現在の保守党・自民党の連立政権では、インフレ率(CPI)、平均賃金アップ率、もしくは最低2.5%アップの3つのうち、最大のものを採用する「3重のロック」と呼ばれる政策に拠っている。このため、昨年9月のインフレ率が採用され、この4月から2.7%アップの1人週113.10ポンド(19,453円)となる。

ただし、この基礎年金だけでは十分ではないとして、年金クレジットという制度があり、現在、基礎年金は110.15ポンド(18,945円)であるが、他に収入のない一人の高齢者は基本的に併せて週145.40ポンド(25,008円)受け取ることになる。その他、冬季の暖房補助や無料テレビ視聴料をはじめ、様々な手当や制度が設けられている。

年金受給開始年齢は男性65歳、女性60歳であったが、2010年から女性の受給開始年齢が男性と同様65歳へと次第に上がっており、2018年までにこの移行を終える。さらに2020年までには男女ともに66歳となり、1961年以降に生まれた人は、2028年までに67歳になる。

オズボーン財相は、12月初めの「秋の財政声明」で、その後は平均余命の伸びに基づいて受給年齢を上げる方針を明らかにした。つまり、それまで2046年に68歳となる予定であったが、これは2030年代半ばとなる見込みとなった。そして69歳に2048年ごろまでになり、2060年代には70歳代へ到達することとなる。

英国の年金は、働いている人とその勤め先から徴収する国民保険料(National Insurance)から賄われる。つまり、働いている現役世代が負担する仕組みだが、高齢者の数が急激に増加し、しかも益々長寿化している中では、世代間の公平の問題やいかに収支のつじつまを合わせるかという問題がある。

政府は、企業年金への自動加入制度を設け、50%を下回っていた加入率を上げる対策なども講じている。個人の年金能力を上げ、政府の将来の負担をできるだけ減らそうとしているが、仕事のタイプが多様化し、パートタイムやフリーランスが増加している中では決め手になるか疑いがある。長寿高齢化の進展によっては年金受給年齢のさらなる大幅引き上げが必要とされる可能性があり、これからも政府の頭痛の種であり続けるように思われる。