保守党の次期総選挙戦略(Tory’s Strategy for the Next General Election)

次の総選挙は2015年春の予定だ。現連立政権で成立させた5年定期国会法では、この5年間の期間中に下院選挙が実施される可能性は非常に限られている。

まだ次期総選挙は3年余り先のことだが、保守党は、2010年の総選挙で過半数が獲得できず、自民党との連立政権に踏み切らざるをえなかった経緯があることから、次期総選挙では過半数を獲得しようと準備を進めている。

その戦略の内容が、保守党支持者のウェブサイトConservativeHomeで紹介されたのでここで触れておきたい。
http://conservativehome.blogs.com/majority_conservatism/2012/03/the-conservative-hq-plan-to-win-36-seats-from-labour-and-14-from-the-liberal-democrats.html

最も重要な点の一つは、重点選挙区を2010年総選挙の際の180から100に絞ったことだ。この重点選挙区100の内、50は保守党議席だが次点との差が少ないもので、残る50の内、36は労働党の議席、そして14は、連立政権を組む自民党の議席だ。つまり、既存議席を守り、他の政党から議席を奪うことで、下院の過半数を獲得しようとしている。

この戦略でのターゲット層は、35歳以下の人、独身、平均以上の収入を得ている人、そして黒人やエスニックマイノリティであるが、このウェブサイトの編集長は、それよりもイングランドのアイデンティティの体現、低所得者への減税、光熱費の削減、不平等の緩和、福祉制度の改革、そして地元や労働者階級出身の候補者を立てるなどの方が有効だと指摘している。

なお、保守党は2015年の総選挙に向けて、この4月から80人の新大卒者を選挙運動マネジャーとして雇う予定だ。徹底的な訓練を与えた後、来年早々から重点選挙区などに送り込む予定。インターネット選挙運動の責任者は既にヘッドハントしているという。

キャメロン首相のストラテジストの長期休暇(Steve Hilton’s Temporary Retreat)

デービッド・キャメロン首相のストラテジスト、スティーブ・ヒルトンがしばらく首相官邸を去ることとなった。今年夏からカリフォルニアのスタンフォード大学の研究所で客員研究員となり、1年後に英国に帰ってくるという。ヒルトンはストラテジストとしてキャメロンが保守党の党首となる前から戦略をアドバイスしてきており、キャメロンのスペシャルアドバイザーとして官邸に入った人物である。官邸では、それまで構築してきた政策を実施する役割を果たしてきたが、連立政権内の自民党、官僚、EUなどの制約のために思うように進まず、不満が高まっていたといわれる。なお、キャメロン首相のストラテジストには、概して長期並びに全体戦略担当としてヒルトン、それ以外の戦略にはオズボーン財相がいる。オズボーン財相は、その多忙な仕事にもかかわらず一日二回の官邸での戦略会議に参加していると言われる。

ヒルトンは、キャメロンが保守党党首となった後、保守党の「嫌な党」イメージを無くすためにグリーンキャンペーンなどを仕掛け、また、キャメロン首相の中心政策ともいえるビッグソサエティの構想を打ち立てた人物でもある。この構想がうまくいっていないこともヒルトンの動機の一つになっているように思われる

ヒルトンは、オックスフォード大学で学んだ後、キャメロンと同じく保守党本部に入った。そこで保守党の選挙キャンペーンを担当した大手広告宣伝会社に引き抜かれる。そして自分で企業イメージを向上させる会社を設立し、成功したが、その後、キャメロンに依頼されキャメロンの戦略を立て始めた。キャメロンはヒルトンのサービスに当時の自分の給料の2倍以上を支払ったといわれる。ヒルトンの妻は、もともと保守党のマイケル・ハワード党首の政治秘書を務めた人物で、当時からその有能ぶりは有名だったが、現在は、グーグルのコミュニケーション担当の副社長である。ヒルトン夫人は、かつてキャメロン首相の妻サマンサの義父と関係があったことから、サマンサとそう仲が良いわけではないと見られているが、ヒルトンとキャメロン首相との関係の強さはよく知られている。

ヒルトンが首相官邸を離れると聞いた途端、恐らく、アイデアが尽きてきて充電が必要だと判断して一時官邸を離れるのではないかと思った。サンデータイムズ紙は、政府がこれ以上の改革を進める意欲を失ったことが原因というが、これは同じことを違うアングルから見ているように思われる。来年夏にロンドンに帰ってきた時には恐らく次の総選挙の準備にあたるのではないかと思われる。