イギリスはEUを2019年3月29日に離脱する。それでも現在の関係は2020年末までの「移行期間」が終了するまで維持される予定だ。その後、新しい関係に入ることとなる。すなわち、現在行われているイギリスとEUとの交渉は大きく分けて以下の3つの部分がある。
- イギリスがEUを離脱するための交渉
- 移行期間とその内容についての交渉
- 移行期間終了後の関係についての「政治的な原則合意」の交渉
アイルランドの国境の問題を始め幾つかの大きな問題があるが、イギリスがEUを離脱するための交渉は大きく進展している。これまで40年以上メンバーであった国際組織EUから離脱するにあたり、その権利義務の清算をするものであり、特に大きな課題とされていた清算金については、基本的に合意された。この交渉はイギリス離脱の後片付けをするためのもので、その結果は、イギリスとEUの離脱条約の締結ということとなる。この条約の発効のことを考えると、イギリスとEUがかなり早く合意し、イギリス議会と欧州議会の承認を受ける必要がある。
移行期間についての交渉は既に基本的に合意している。この交渉は、その間のイギリスとEUの権利義務を定めるものである。ただし、この移行期間は、現在の関係から将来の関係へ移るためにそれぞれの環境を将来の関係に合うよう変えていくためのものである。すなわち、もし想定される将来の関係が望ましいものでなければ、この移行期間を設けることそのものが意味のないものとなる。そのため、移行期間が最終的に合意される前に、将来の関係をどうするかの基本的な考え方が合意されておく必要がある。
すなわち、将来の関係の原則が決まらなければ、移行期間が決まらず、離脱合意の詳細が決まらないということになる。EU側は、この点をはっきりと主張してきている。特にEUメンバーであるアイルランドとイギリスの北アイルランドの国境の問題が解決しなければ、それ以外の合意もないとしている。
大きな残された問題には、アイルランド国境の問題と欧州司法裁判所の位置づけの問題がある。現在、イギリスは欧州司法裁判所の決定に従わなければならない。それでは国の主権が損なわれるとして、強硬離脱派はこれを大きな離脱を求める理由としている。そのため、イギリスのEU離脱後のイギリスとEUとの紛争を最終的にどう解決するかで今もなお揉めている。
イギリスのメイ政権は、保守党内の強硬離脱派とソフトな離脱を求めるグループの対立を抱え、これらの問題の解決に苦しんでいる。もし、アイルランド国境の問題が解決できなければ、上の3つの交渉のすべてが崩れる可能性がある。かつてメイ首相は「悪い合意より合意がない方が良い」と主張したことがあるが、イギリス政府は合意がない場合の準備をほとんど全く進めていないことが明らかになった。メイ首相には、合意なしの離脱の選択肢は事実上ない。