EU離脱交渉の3回目が、8月28日から始まるが、交渉の見通しは暗い。この交渉開始直前、労働党がEU離脱に関する方針を大きく転換し、メイ政権に大きな重圧をかけた。
EU側が、はっきりとした目標を決めて対応しているのに対し、イギリス側の対応は後手に回っている。その上、残された時間が短くなっているため、イギリス側は、必死にあの手この手を繰り出している。EU国民投票から14か月、EUへの離脱通知から5か月たち、時間に追われているのに交渉は進んでいない。
イギリス側はその交渉指針をあわてて発表したが、それらへのEU側の対応は冷ややかだ。EU側が主張し、イギリスの呑んだ交渉計画では、交渉を2段階に分け、第一段階の①EU国民とイギリス国民の権利、②イギリスの財政負担(いわゆる離婚料)、③アイルランド島のアイランド共和国とイギリスの北アイルランドの国境、の問題で基本合意をした上で、ニ段階目の将来の関係交渉を行うこととなっている。しかし、現状では、とても第二段階に進める状況ではない。
交渉指針の発表で分かったように、イギリスの計画は、希望的観測に基づいたもので、国際交渉に必要な、それぞれの立場と能力を見極めながら進めるものとはほど遠い。
メイ政権の立場は、2019年3月の離脱後、EU単一市場(人、モノ、サービス、資本の障壁がない)と関税同盟(域内の関税を課さない)のいずれも離脱するというものである。但し、将来の関係の実施までの移行期間を設け、現在の関税同盟とほとんど同じ内容の新しい関税同盟を合意し、現在のEU関税同盟では許されていない、それ以外の国との貿易交渉を進めるというものだ。しかし、この交渉は、第一段階の3項目がある程度合意した後で行えることである。
6月の総選挙で議席を減らし、弱体化したメイ政権は、北アイルランドの民主統一党(DUP)の10議席の閣外協力で政権を運営しているが、保守党内の強硬離脱派の、特に四つの要求で身動きが取れない状況だ。それらは、①離婚料、②EU外の国との貿易交渉を離脱後直ちに始める、③欧州裁判所の管轄を離れる、④EUからの移民を制限する、というものである。
これらの問題が、保守党内で、当面、直ちに解決できる見通しは暗い。交渉の時間切れで、いわゆる「崖っぷち」離脱の可能性が高まっているゆえんだ。
このような中、野党の労働党は、その方針を大きく変更した。労働党には、EU側の対応と、メイ政権の苦境を見て、そのスキを突き、何が可能で、何が実際的かを判断する余裕がある。メイ政権の求める「新たな関税同盟」を交渉する時間的な余裕はないと判断し、離脱後の移行期間中、EUの単一市場と関税同盟、そして欧州裁判所の管轄下に残るとし、将来の関係交渉でもこれらを維持する可能性を排除しないこととした。
この結果、EU国民投票前、ほとんどの党所属下院議員が残留派だった労働党は、保守党の直面する党内の問題がないこととなり、さらに早晩、この方向へ立場をシフトさせざるを得ないと思われるメイ政権の上手を取るばかりか、保守党内の亀裂を拡大できるという効果も期待できる。
メイには非常に大きな圧力がかかっている。メイは何とか党内の批判勢力をなだめて、自分の首相としての地位を維持しようとしているが、このままでは、メイの失墜は時間の問題のように見える。