年金受給年齢を引き上げる英国(Increasing Pension Age)

英国の年金制度は、1909年、自由党政権下で財相ロイド=ジョージによって開始された。受給者の拠出金なしの制度で、受給には数々の制限が設けられていたが、支給開始年齢は70歳だった。平均余命が50歳にも達していない時代である。

現在、平均余命は男性79歳、女性83歳。統計局の予測では50年後の2063年には年金生活者に対する国の支出は2013年の940億ポンド(16兆1680億円:1ポンド=172円)から4380億ポンド(75兆3360億円)へと4倍以上となるとしており、これにいかに対処するかは深刻な問題である。

基本的には年金問題への対応には以下のような方策がある。
① 年金受給開始年齢のアップ
② 負担拠出金のアップ
③ 年金額の引き下げ

ただし、高齢者の数は急速に増加しており、しかも高齢者の選挙での投票率は高い。そのため、政治的に③の年金額の引き下げはかなり困難な問題である。

政府の基礎年金は、国民保険を30年支払った人が満額需給できる。現在の保守党・自民党の連立政権では、インフレ率(CPI)、平均賃金アップ率、もしくは最低2.5%アップの3つのうち、最大のものを採用する「3重のロック」と呼ばれる政策に拠っている。このため、昨年9月のインフレ率が採用され、この4月から2.7%アップの1人週113.10ポンド(19,453円)となる。

ただし、この基礎年金だけでは十分ではないとして、年金クレジットという制度があり、現在、基礎年金は110.15ポンド(18,945円)であるが、他に収入のない一人の高齢者は基本的に併せて週145.40ポンド(25,008円)受け取ることになる。その他、冬季の暖房補助や無料テレビ視聴料をはじめ、様々な手当や制度が設けられている。

年金受給開始年齢は男性65歳、女性60歳であったが、2010年から女性の受給開始年齢が男性と同様65歳へと次第に上がっており、2018年までにこの移行を終える。さらに2020年までには男女ともに66歳となり、1961年以降に生まれた人は、2028年までに67歳になる。

オズボーン財相は、12月初めの「秋の財政声明」で、その後は平均余命の伸びに基づいて受給年齢を上げる方針を明らかにした。つまり、それまで2046年に68歳となる予定であったが、これは2030年代半ばとなる見込みとなった。そして69歳に2048年ごろまでになり、2060年代には70歳代へ到達することとなる。

英国の年金は、働いている人とその勤め先から徴収する国民保険料(National Insurance)から賄われる。つまり、働いている現役世代が負担する仕組みだが、高齢者の数が急激に増加し、しかも益々長寿化している中では、世代間の公平の問題やいかに収支のつじつまを合わせるかという問題がある。

政府は、企業年金への自動加入制度を設け、50%を下回っていた加入率を上げる対策なども講じている。個人の年金能力を上げ、政府の将来の負担をできるだけ減らそうとしているが、仕事のタイプが多様化し、パートタイムやフリーランスが増加している中では決め手になるか疑いがある。長寿高齢化の進展によっては年金受給年齢のさらなる大幅引き上げが必要とされる可能性があり、これからも政府の頭痛の種であり続けるように思われる。