テレビ局は、政治的な立場をはっきりさせる傾向のある新聞とは異なり、不偏不党でなければならない。例えば、2010年総選挙前に労働党のブラウン首相(当時)がITVのテレビ番組に出演した時には、保守党のキャメロンも同じ番組に異なる日に出演するよう要請を受けた。結局、キャメロンは、ITVの特別番組に出演した。さらにITVは自民党のクレッグの特別番組も作って放送した。つまり、選挙期間中に3党首のテレビ討論が控えている中、ITVはこの三者すべてに均等の機会を与えようとしたのである。
BBCは日本のNHKと同様、視聴料収入で運営されており、その編集方針の独立を必死で守ろうとしている。その結果、BBCは保守党からも労働党からも嫌われている。BBCの国防担当記者が、ブレア政権がイラク戦争の大義名分を作るために政府のインテリジェンス(諜報)文書を大げさに書いたと報道した。それはブレアの右腕で、政府の広報担当責任者のアラスター・キャンベルの仕業だと主張した時、キャンベルは憤慨し、他のテレビ局ITVのニュース番組に登場し、その報道は誤りだと断言した。キャンベルがITVに出たこと自体、非常に大きなニュースとなった出来事である。
政府は、BBCを強く批判し、その情報源を明らかにするよう求めたが、BBCはそれを拒否し、それは報道の自由だと主張した。後にその情報源は、国防省の生物兵器専門官であったことがわかったが、この専門官は自殺した。そこで、政府は、その死にまつわる状況について元判事を長とした特別調査を実施した。英国では判事は公平と信じられている。
その調査報告でBBCが厳しく批判されたために、BBCの会長と経営トップ(ダイレクター・ジェネラル)の2人が辞職した。また、国防担当記者も辞職した。しかし、BBCの立場はそれ以降も変化していない。BBCは、視聴者のお金で運営されており、BBCの立場は、常に視聴者の立場に立つことであり、できる限り公平に報道することである。このため時には政治的な出来事に関して、攻撃的な報道に結びつくことがあり、政治の側から大きな批判を招くゆえんである。
BBCも大きな組織であり、退職金のお手盛りやいじめ、女性差別、セクシャル・ハラスメントなどの問題が表面化しているが、外部からの政治的な介入には立ち向かっている。