政治は生き物である。刻一刻と変化する。そのため優れたスピンドクターは政治の潮目を読む能力に長けている。もちろん数字、例えば世論調査、経済指標、様々な統計なども利用するが、これらは通常それぞれの人の感覚、直観を確認・補強するためのものであり、それらの数値を基に判断するものではないといえる。
英国のスピンドクターで有名な人たちには、例えばブレア元首相の下のアラスター・キャンベルや、キャメロン首相がキャンベルのような人物を想定して雇用したアンディ・クールソンなどがいる。いずれも英国の競争の厳しいタブロイド紙業界の出身だ。キャメロン首相の下でストラテジストとして務めたスティーブ・ヒルトンは広告の世界で特殊な才能を示した人物であり、他の人には思い浮かばないようなことを思いつく直観の人であった。
クールソンとともに現在電話盗聴事件の裁判で被告人となっているレベッカ・ブルックスはタブロイド紙のニューズ・オブ・ザ・ワールド紙とサン紙の編集長を務めた人物だが、クールソン同様たたき上げでのし上がった人物である。ブルックスは一般読者の観点を失わないために編集長時代、夏には比較的お金のない人たちのよく行くキャラバンパーク(自動車でけん引できる簡易住宅をそろえたホリデー地)に滞在して多くの人たちと話をし、感覚を研ぎ澄ましていたという。つまり、タブロイド紙で業績を上げるには、このような感覚が不可欠と言え、そのような感覚が上記のキャンベルやクールソンにもあったように思われる。
フルタイムで保守党に勤務し始めた選挙ストラテジストのリントン・クロスビーは、自分の信頼しているパートナーのみに世論調査を任せ、他の世論調査会社は使わないし無視すると言われる。クロスビーの選挙における評判は、この独自の世論調査に拠っている面があるが、選挙に重要な問題を見抜くその分析力というよりも、その直感に本領があるように思われる。そのため、保守党にとってはクロスビーでなければならないのである。
つまり、優れたスピンドクターとは、一定の型にはまったものではなく、政治を皮膚感覚で感じられ、直観の優れた人物だと言えるだろう。政治を全体として捉えられ、その中の動きを見、感じ、自分の中のフィルターを通して独自に分析することのできる人物と言うことになる。