保守党の下院議員が議会の倫理基準に反し、辞職したことを受け、6月5日、補欠選挙が行われた。保守党が議席を維持し、イギリスのEUからの離脱を唱えるイギリス独立党(UKIP)が次点となった。主な結果は、以下のようである。
政党 | 得票 | 割合% | 前回との差 |
保守党 | 17,431 | 45 | -8.9 |
UKIP | 10,028 | 25.9 | 22.1 |
労働党 | 6,842 | 17.7 | -4.6 |
無所属 | 1,891 | 4.9 | 前回立たず |
緑の党 | 1,057 | 2.7 | 前回立たず |
自民党 | 1,004 | 2.6 | -17 |
次点との差 | 7,403 | 19.1 | |
投票者数 | 38,707 | 52.79 |
かなり余裕を持って保守党が勝利を収めたように見えるが、前回の2010年総選挙では以下のような結果であった。
政党 | 得票 | 割合% |
保守党 | 27,590 | 53.9 |
労働党 | 11,438 | 22.3 |
自民党 | 10,246 | 20 |
UKIP | 1,954 | 3.8 |
次点との差 | 16,152 | 31.5 |
投票者 | 51,228 | 71.4 |
2010年の総選挙では、保守党と次点の候補者との差は全投票数の31.5%あったが、今回はそれが19.1%まで下がった。しかも2010年には3.8%しか得票できず供託金没収となったUKIPが今回は次点となり、しかも25.9%の票を獲得したのである。5月の欧州議会議員選挙でイギリスのトップとなったUKIPの勢いは否定できない。
今回の補欠選挙では、保守党はこれまでにない死力を尽くした選挙戦を展開した。
イギリスの人口は日本の約半分だが、選挙区は650あり、それぞれの選挙区の最多得票者が一人だけ当選する完全な小選挙区制である。今回の補欠選挙の選挙区は、前回の2010年と同じである。有権者数は73,486人であった。つまり、この選挙は日本でいえば、小さな市の市長選挙があったようなものである。
この選挙区は2010年の選挙結果が示すように、圧倒的に保守党の強い選挙区である。それにもかかわらず、キャメロン首相は、現職の首相としては例がない、4回も選挙区入りした。しかも300人余のすべての保守党下院議員に少なくとも3回選挙区を訪問するよう命じた。その上、全国から千人と言われる活動家を呼び寄せ、選挙運動をさせた。
絶対に敗北が許されない選挙だったからである。もし保守党がこの補欠選挙を失えば、勢いに乗るUKIPに手を貸すことになる。
その結果、通常、補欠選挙は投票率が低く、また政権政党が勝てない例が多いが、保守党の勝利となった。
ただし、今回のような選挙戦は、単独で行われる補欠選挙だからできたことであり、来年5月の総選挙ではそうはいかない。保守党にとっては、UKIP対策は今後も大きな課題である。
なお、自民党は、大きく票を減らし、供託金没収となった。自民党は勝てる可能性のない選挙戦には力を入れていない。その戦略は勝てる可能性のあるところに資源をつぎ込むことである。昨年のイーストリー補欠選挙でそれは示されたが、今回の補欠選挙での保守党の動きは、イーストリーの自民党戦術から学んだことが大きいように思われる。