イギリスの議会には上院(貴族院)と下院(庶民院)の二院がある。
下院は、18歳以上の有権者による公選で選ばれる。小選挙区制であり、全国650に分かれた選挙区で最高得票を得た人が一人ずつ選ばれる。
一方、上院は基本的に任命制である。3つのカテゴリーがあり、92名の世襲議員、26名のイングランド国教会主教、そして議員の大部分を占めるのは一代貴族である。世襲議員は、1999年にそのほとんどが上院議員職を失い、残った世襲議員は、世襲議員間の選挙で選ばれている。それぞれの政党に所属する議員と、クロスベンチャーと呼ばれる中立議員、その他がいる。
上院議員の構成
政党/グループ | 一代貴族 | 世襲貴族 | イングランド国教会 | 合計 |
主教 |
0 |
0 |
26 |
26 |
保守党 |
171 |
49 |
|
220 |
中立議員 |
151 |
30 |
|
181 |
労働党 |
214 |
4 |
|
218 |
自民党 |
94 |
4 |
|
98 |
無所属 |
20 |
0 |
|
20 |
その他 |
14 |
1 |
|
15 |
合計 |
664 |
88 |
26 |
778 |
2014年6月7日現在 なお、これ以外に様々な事由で除外されている議員がいる。
一代貴族は1958年に始まった制度であるが、首相が選任し、女王が任命する。2000年に上院議員任命委員会が設けられ、中立議員を首相に推薦することとなった。また、この委員会が3主要政党に推薦された候補者の適否を審査する。
2010年の総選挙後、それまでの13年間の労働党政権下で労働党所属議員が増えたために、新しく政権についた保守党と自民党の議員の数を大きく増やした。2010年の保守党と自民党の連立合意書では、任命制の上院を選挙制の上院に改革することのほか、当面、上院の任命は2010年の総選挙の政党の得票割合を反映したものとすることとした。このうち、上院の改革は失敗した。
ところが、イギリス独立党(UKIP)が選挙の得票の割合に応じてUKIP所属の上院議員を任命すべきだと主張している。2011年のユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの報告書によると、その得票割合で計算するとUKIPはさらに23人の上院議員の枠があることになるという。UKIPは保守党所属の元上院議員だった3名が党所属の上院議員として存在するが、その得票割合に対して数が少なすぎるという。首相側は、2010年以降、緑の党のロンドン市議会議員を上院議員に任命したが、今も小政党の問題については検討中だと返答している。
この問題は、次期総選挙後に大きな課題となるように思われる。というのは、イギリスでは、得票率が5%未満は供託金没収となる。つまり、5%未満の場合は、無視してもそう大きな議論にはならないかもしれないが、5%以上になるとそれなりの正当性を持ち始めるように思われる。
UKIPは2010年総選挙で3.1%の得票だった。今年5月の欧州議会議員選挙ではUKIPの得票率は主要3政党を上回りトップだった。欧州議会議員選挙はイギリスの国政を決める下院議員選挙とは異なるため、必ずしも比較はできないが、来年の総選挙では数議席獲得する可能性があり、5%以上の得票をすると思われる。
もちろんキャメロン首相にとっては、現在の政治環境の中で、UKIP上院議員の任命は論外であろう。UKIPの正当性をさらに高めることになりかねないからである。