デロイトのメモがメイ政権にはBrexitについての戦略がないと指摘した(拙稿参照)ことに対し、メイ政権は強烈に反撃した。しかし、ジョンソン外相がチェコの新聞に、イギリスは「恐らく関税同盟を脱退するだろう」と発言したことに対して、官邸は、まだそのような決定はしていないと否定することに躍起となった。
このジョンソン外相の発言で、デロイトのメモで指摘された点のうち2つのことが裏付けられた形だ。まず、Brexit戦略がまだできていない、次に内閣の中が分裂しているということである。以前漏えいされた閣議に提出された書類で、EU関税同盟を離脱すれば、2030年までにGDPが4.5%減少するとの予測があることがわかったが、ハモンド財相らは、関税同盟を離れるのは得策ではないと判断している。
さらに、デロイトのメモを補完し、さらに踏み込んでメイ政権を批判する発言がInstitute for Governmentからあった。このシンクタンクは国家公務員と強い関係を持っており、この課題について、Brexit省をはじめ、政府の各省からヒアリングを行ってきている。イギリスの国家公務員は、Brexitに対応する技術的な能力はあるが、2010年に比べてスタッフ数が19%減っている国家公務員に、その複雑で困難な作業を遂行する能力はないとする。財政削減で国家公務員の大幅な人員削減がなされ、ここ数十年で最も小さな政府となっている状態で、現在抱える重要な業務の上に、さらにBrexit関係の仕事をさせようとするのは、無理だと主張する。そもそも政府トップがその方針を秘密にしようとしているため、Brexitの担当者も一般の人ほどの知識しかなく、政府がどのような基準でどのようなプロセスで物事を成し遂げようとしているかわかっておらず、ほとんどの省で長期的な計画が立てられない状態だという。政府の対応は、混乱していると主張する。
これは、メイの仕事の仕方にも関係しているように思われる。デロイトのメモでも指摘しているように、メイはすべて自分で詳細を見て判断したがる傾向がある。かつてブラウン元首相にも、すべて自分で判断したがるが、決断が非常に遅いという問題があったが、それと同じだという批判がある。メイは内相時代にも、決断が非常に遅いという批判があった。
もちろんBrexitは大変困難な作業だが、ビジネスマンだったハモンド財相が首相なら全く異なるアプローチを取っただろう。目的を達成するために、より現実的な手段を取ると思われる。しかし、メイの場合、保守党政権の維持が念頭にある上、自分の政治像が過大であるばかりか、ブラウン元首相に似て、自分の能力を過大評価している点が現在の問題を生んでいるように思われる。