6月8日投票の総選挙では、メイ首相率いる保守党が大きく勝つと見られている。世論調査で圧倒的な支持を集めており、野党第一党の労働党に20%余りの差をつけているからだ。地域政党スコットランド国民党(SNP)の強いスコットランドでも保守党への支持が大きく増加しており、労働党が伝統的に強いウェールズでも保守党が大きく議席を伸ばし、最大政党になる勢いだ。
この状態でメイ首相が心配しているのは投票率だ。保守党が大勝するのは間違いないと思う有権者が増えており、その結果、投票に行かない有権者が多いのではないかと思われるからだ。
前回の2015年総選挙では、過半数を占める政党のないハングパーラメント(宙吊り議会)になり、労働党とSNPらによる連立政権になるかもしれないという予想が多くの有権者に保守党への投票に向かわせた。また、2016年のEU国民投票では、イギリスのEU残留がわずかに優勢という状況が、多くの離脱派に投票に向かわせた。
しかし、今回の総選挙では、保守党が圧倒的に優位という状況の中で、有権者に投票に向かわせるそう強い動機に乏しい。そうなれば、伝統的な労働党支持者、さらにEU離脱に反対の自民党に投票したい有権者の投票が、比較的に強くなる可能性がある。
この中、ドイツのメルケル首相が、イギリスにはBrexit交渉に「幻想」を見ている人がいると指摘した。Brexitでは、残るEU加盟27か国並びにEU機関は、イギリスの離脱の交渉がまとまった段階で、イギリスとの将来の貿易関係の交渉を始めることに合意していると確認したのである。
メイはこの発言をとらえ、EU側は、27か国が一致してイギリスに敵対していると発言し、メイ政権の立場が強くなるよう、有権者が保守党に投票するよう促した。
これは、極めて政治的な発言だ。メイの発言は、今後のEU交渉にある程度影響があるかもしれないが、それよりもイギリスのEU離脱を支持している有権者に、一種の強迫観念(Siege Mentality)を起こさせ、投票率を上げようという狙いがあるのではないかと思われる。
このような手段に効果があるかどうかは、今後はっきりしてくると思われるが、投票率の問題は、メイにとって選挙戦最後まで心配の種だろう。