2014年9月に行われたスコットランド独立住民投票で、スコットランドの住民は、55%対45%の割合で独立に反対した。それから1年半たった。当時のスコットランド政府首席大臣のアレックス・サモンドの予定では、独立賛成が多数の場合、スコットランドは2016年3月に独立国となるはずだった。
時間のたつ速さに驚く。6月23日の国民投票でイギリスがもし欧州連合(EU)を離脱することとなれば、2年の移行期間はすぐにたつ。恐らく2年では必要な交渉をまとめるのは極めて難しいだろう。
さて、スコットランドは、この1年半で、経済環境が大きく変わった。住民投票前にサモンド首席大臣は、北海油田からの歳入に財政のかなりを依存できると強調していた。2015年度には75億ポンド(1兆2千億円:£1=160円)の歳入があると見ていた。ところが、世界的な石油のだぶつきで価格が大きく低下し、2015年11月の財政責任局(OBR)の推定では、1億3千万ポンド(200億円)と激減し、実際には3500万ポンド(56億円)であった。
独立国スコットランドの財政状況は極めて厳しいものとなっていただろうという。IFSの分析では、イギリス全体の財政赤字が2.9%と推定されていたのに対し、スコットランドでは、9.4%であっただろうとする。
スコットランドは、少なくとも現在の時点では、独立しなくて幸運であったといえる。
スコットランドの主な政党の第2回目のスコットランド独立投票に対する立場が5月5日に行われるスコットランド議会選挙への選挙マニフェストで明示されているが、労働党、保守党、自民党が反対の立場であるのに対し、政権を担当するスコットランド国民党(SNP)は、大多数のスコットランド住民が独立を求める、もしくは、状況が大きく変化したような場合、例えば、スコットランドの住民がEU残留を求めるのに、イギリスがEU離脱としたような場合に実施するとする。
世論調査によると、2015年5月の総選挙でスコットランドに割り当てられた59議席のうち56議席を獲得したSNPは依然断トツでリードしており、5月5日の選挙で過半数を占め、2007年以来担当している政権をさらに継続するのは間違いない状況だ。
ただし、スコットランドの住民が独立賛成に傾いているかというとそうではなようだ。独立すべきだという割合は、スコットランドの社会動態調査によると、2015年には39%とこれまでで最も高い。しかし、2014年の独立住民投票からの住民の意識の変化を調査した報告によると、イギリス人(British)と感じず、絶対にスコットランド人(Scottish)と感じる人が23%から26%へと微増したものの、スコットランド人・イギリス人と同じように感じる人が32%から36%へと増加、スコットランド人よりもイギリス人と感じる人が5%から6%へ、そしてスコットランド人ではなく、イギリス人と感じる人が6%から8%へと増えている。
この報告では、SNPに支持が集まっている理由は、SNPの経済財政をはじめとする政権運営や、トップ政治家のアピールなどが、スコットランド人としてのアイデンティティの意識より大きいとする。
二コラ・スタージョン首席大臣は、これらの状況の中で、まず、SNP内部の独立熱が行き過ぎないようにしていく必要があろう。既に、今年の夏から独立へのさらなるキャンペーンを実施するとしているが、SNP活動家の時期尚早な独立住民投票を求める声を抑えていく必要があるように思われる。スタージョンは、2回目の住民投票は、スコットランド住民の独立する意思が明確な場合に行うとの態度を明らかにしているが、そのカギとなる政権運営能力を継続して示すことはそう簡単ではないように思われる。スコットランドを取り巻く経済環境は、厳しい。
スコットランドの2015年末までの経済成長率は、その前年と比べて0.9%とイギリス全体の2.1%を大きく下回った。2015年第4四半期の経済成長は、0.2%だった。イギリス全体の0.6%を大きく下回る。
2014年の独立住民投票の際、キャメロン首相や主要政党党首が、スコットランドにさらなる分権を約束した。その結果、スコットランドは、所得税などに対する権限が委譲された。2016年スコットランド法が2016年3月制定されたが、その交渉で最ももめたのが、大きな財政自主権を持つこととなるスコットランドの歳入をいかに守るかという点であった。結局、財政フレームワーク合意で、人口増加率の低いスコットランドへの地方交付金を人口一人当たりの額で保証することとなり、少なくとも5年間は歳入がイギリス全体と比べて大きくマイナスとなるということはなくなった。
それでも、SNPが有権者の信頼を継続して得ていくには、スタージョンが、SNPの独立熱を抑えながら、政権運営で優れた手腕を発揮しているという印象を継続して与えていく必要がある。スタージョンへのプレッシャーは大きい。