ケインズ経済学で有名な英国人ジョン・メイナード・ケインズはかつて英国の国家公務員だったことがある。1906年に英国のインド省に入省したが、その国家公務員試験の結果を受け取って、ケインズは怒った。友人への手紙で、ケインズの受けた試験の中で最悪のものは、ケインズが最もしっかりした知識のある数学と経済学だったと怒りを打ち明けた。
ケインズの伝記を書いたスキデルスキー卿(英国上院議員でウォリック大学政治経済学名誉教授)は、そのケインズの話を思い出して、自分を慰めたことがあるという。
スキデルスキー卿はもともとロシア人の家系で、50代になってからロシア語の勉強を始めた。そして2003年にAレベル(大学入学レベル)のロシア語の試験を受けた。6科目の試験があり、その科目の一つは、所定のテーマについてのものだった。スキデルスキー卿は、そのテーマについて徹底的に準備し、他の科目はともかく、このテーマについての試験は大丈夫と自信を持って臨んだ。その試験に出たのは、課題文学書に登場した人の人物像とロシアの失業についてであった。スキデルスキー卿は、政治経済学者として大学でも教え、ロシア人とも数限りないほどの議論をしており、ハイパーインフレや法の支配の欠如などについて書いたと言う。ところが、他の科目はよくできていたが、この科目は、90点満点中わずか26点しか獲得できなかった。「知識不足、テーマの理解不足、そして首尾一貫した主張ができていない」との評価だったそうだ。
おそらく、おざなりの知識しかない人にとって、ほんとうの専門家の見解を理解するのは難しいモノなのだろう。