改めて問われる国家公務員制度

キャメロン首相が内閣改造を行ったが、その陰に隠れて、トップ国家公務員の辞職が発表された。内国公務の長(Head of the Civil Service)であるボブ・カースレイク(1955228日生まれ)が、今秋にその職を退き、兼任するコミュニティ・地方自治体省の事務次官から60歳を迎える来年2月末に退職する。このニュースが伝わった後、カースレイクは自身のブログで声明を発表した

カースレイクは、20121月から内国公務の長に就き、20126月に発表された公務員改革計画を実施する役割を担っていた。大幅な財政削減と効率化を進める中、大幅な人員削減を進め、給与の凍結・制限、年金制度の変更などを実施してきており、常時ならかなりの業績を上げたといえるだろう。

しかし、内閣府公務員担当大臣フランシス・モードはその改革がなかなか進まないと不満を持っており、特に事務次官人事などに政治家がより大きな選択権を与えられるべきだと考え、推進していた。カースレイクは、モードらと既存の事務次官らとの間で極めて困難な立場にあり、モードとカースレイクの軋轢がたびたび報道されていた。

カースレイクの率直な発言が保守党にとって邪魔になってきたこともあるのかもしれない。この率直な発言とは、下院の公会計委員会にカースレイク、内閣書記官長(Cabinet Secretary)ジェレミー・ヘイウッド、それに財務省の事務次官が呼ばれ、「ユニバーサル・クレジット」のビジネス・ケース承認(費用対効果評価に基づいて行われる財政支出承認)について聞かれた際、他の参加者は答えを渋ったのに対し、カースレイクは率直に、その承認はまだなされていない、少しずつ支出承認がなされていると答えたことである。

この「ユニバーサル・クレジット」は、労働・年金省の、既存の6つの福祉手当を一つのコンピュータシステムにまとめるプロジェクトであるが、うまくいっていない。政府内でも最も大きな問題の一つとなっている。既に多くのお金が浪費された上、達成期限が延ばされ、しかもプロジェクト自体縮小されている。

カースレイクの発言を受け、野党労働党は下院で、労働・年金大臣のイアン・ダンカン=スミスにまだ、財政支出承認されていないではないかと攻撃した。ダンカン=スミスは計画通りだとし、すぐに承認されると強弁したが、改めて「ユニバーサル・クレジット」の問題が浮き彫りになった。

つまり、保守党にとっては、このような政府の問題が改めて問われるような事態をこれから次期総選挙までの間に避けたいのではないかと思われた。 

インデペンデント紙は、カースレイクは自発的にやめるのではなく、解任だとし、カースレイクが下院の公会計委員会で発言した時には既に自分が内国公務の長から首になるということを知っていたという。しかもこの発言でこれまでの鬱屈が晴れたような気がしたと思うという関係者のコメントを紹介している。これがどこまで正確か不明だが、モードとキャメロン首相にとってはカースレイクが厄介者となってきていたことは明らかだと言えるだろう。 

カースレイクは、もともと国家公務員ではなく、地方自治体の事務型のトップであるチーフ・エグゼクティブからコミュニティ・地方自治体省の事務次官となった。非常に能力のある人物であるのは間違いなく、2011年末に前の内閣書記官長オードンネル卿がその職を退いたとき、その3つの役割を分割し、その一つにカースレイクは任命された。

オードンネル卿は、内閣書記官長、内国公務の長、それに内閣府事務次官の3つの役割を兼職していたが、それを3人に分割したのである。オードンネル卿は、あるBBCの番組で、このことを尋ねられ、将来分割した役職を再び統合する可能性もあると発言したことがある。

分割・統合すること自体、稀なことではなく、サッチャー政権時代に分割したが、再び統合したことがある。ただし、オードンネル卿が自分の後任に職務を分割したのは、現内閣書記官長のジェレミー・ヘイウッドの希望に基づくものだという

カースレイクが退任した後、内国公務の長の職務はヘイウッドが兼任する。しかし、新たに事務次官級のチーフ・エグゼクティブのポストを設け、公務員改革を担当するという。このポストの年俸は19万ポンド(3300万円:なお首相は2500万円程度)で5年契約と見られている。なお、この新ポストには経験豊富な人物を外部から登用することを考えているが、選考は、事務次官などトップ級公務員人事を担当する公務コミッショナーの委員会で進められる。

ヘイウッドは、ブレア政権、ブラウン政権でも首相の首席秘書官(Principal Private Secretary)を務め、キャメロン政権で首相府事務次官となり、生き残ってきた人物だ。振り返ると、大きな公務員改革を迫られる内国公務の長のポストを避けたのは非常に賢明な策だったといえる。しかも今回はその役割は新しいチーフ・エグゼクティブが担い、自分はその上司となる。つまり、自分が直接この責任を取ることはない。

有名な「イエス・ミニスター」というテレビ番組で、事務次官が大臣を操作しながら自分が生き延びていく姿が描かれているが、ヘイウッドの動きは、それを改めて思い出させる。

いずれにしても行政の中では、今でもリスクを取ることや物事を成し遂げることよりも平凡で日和見主義的な人を報いる傾向があるのは事実だろう。業績のお粗末な人をやめさせるのに時間がかかり、特に優秀な人を昇進させるのが遅い傾向がある。特に政策能力のある人を昇進させる傾向があるが、そういう人たちには人をマネージする能力がないことが多い。

公務員の昇進制度も改めて見直す必要があろう。また、行政内部の仕事をさらに大幅に外注させるとか、それぞれの省庁にはっきりと測れる目標を与えることも大事であり、業績に応じた事務次官らの給与制度も必要なように思われる。

モードは、これらの問題を政治家が省庁の幹部級人事に手を入れることで解決しようとしているようだが、政治家には、社会的な経験が偏っていたり、乏しかったりする人が多く、そういう人たちに任せることには疑問がある。イギリスの公務員改革もまだまだ課題が多い。

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