ますます追い詰められてきたジョンソン首相

ジョンソン首相は、嘘を言うことにあまり抵抗がない。かつてタイムズ紙を首になった時には、他の人の言葉を捏造して記事に書いたことが原因だった。政治家になった後も、例えば、影の芸術相だった時、当時の党首に女性関係を聞かれて否定したが、それが嘘だったとわかり、その地位を首になった。コロナ禍のパーティゲートでも、ロックダウンで一般人の行動が大幅に制限されている時に、首相官邸などで行われたパーティなどの集まりは、法律などのルールに常に沿ったものだったと主張した。ところが、自分もルール違反で罰金刑を受けた。パーティゲートに関する発言は、下院の名誉委員会(Privileges Committee)でジョンソン首相が嘘を言ったかどうか現在調査されている。

その上、さらに嘘を言ったと嫌疑をかけられる問題が起きている。保守党下院院内副幹事長クリス・ピンチャー(男性)が会合で酒に酔って2人の男性に性的なハラスメントをし、その役職を辞任した。当初、ジョンソン首相は本人が辞任したので問題は解決したとの立場をとった。しかし、その被害者が議会の規範コミッショナーに訴えたために保守党は急きょピンチャーの党籍を停止した。ピンチャーはその性的ハラスメントで問題のある人物だと言われていた。

問題は、なぜそのような人物を、保守党下院議員を世話し、また規律を守らせる重要な役職につけたかである。なお、これは政府の役職であり、政府からその役職への職給が出る。それについて、ジョンソンは、ピンチャーの過去の問題行動について、下院院内副幹事長につけられないような格段の事実を知らなかったと主張した。ジョンソンは、「名前はピンチャー、質(たち)はピンチャー(つまむ人)」と言ったとされ、それを首相官邸は否定してないが、いかにもジョンソンの言いそうなことで、ピンチャーは性的ハラスメントをする人物だと知っていたことは明らかなように思われる。

ところが、ピンチャーが外務省の副大臣だった時、外務省の官僚たちがピンチャーの行動に苦情を訴え出て、外務省と内閣府が調査をした結果、その苦情を事実だと認め、ピンチャーは謝罪し、それを内閣府高官がジョンソン首相に直接報告していたことがわかった。これは、当時、外務省の事務次官だった人物が自ら進んで証言した。事件が発覚してから5日たっても本当のことが隠されているので事実を明らかにしたという。すなわち、ジョンソン首相は、またもや嘘を言っていたわけである。これに対しては、ジョンソン首相は、それを忘れていたとする。

ジョンソン首相を嘘つきだと考える有権者は多い。保守党下院議員でもそうだ。この件でいずれもその数が増える可能性が高い。

スコットランド独立問題をめぐるSNPの戦略

スコットランド国民党(SNP)のニコラ・スタージョン・スコットランド自治政府首席大臣が、スコットランド独立住民投票を2023年10月19日に実施する計画を発表した。ジョンソン首相は、そのようなことをするタイミングではないとして住民投票に反対している。そこで、ジョンソン政権の許可がなくても、スコットランドが独立住民投票を合法的に実施できるかどうかの判断を英国の最高裁判所に求めたことを明らかにした。また、最高裁判所が、そのような行動を非合法だと判断した場合には、次期総選挙でスコットランド独立を唯一の政策として戦い、もしSNPが投票の過半数(スコットランドでの投票の過半数)を占めた場合には、事実上住民投票で独立が認められたと見るべきだと主張したのである。

この発表の背後には、様々な思惑があると思われる。SNPは、英国からのスコットランド独立を目指して生まれた政党である。1700年までイングランドとスコットランドは別の国であった。そのため、スコットランドの国民意識は高い。

2014年に行われた、「スコットランドは独立すべきか?」にイエスかノーかの答えを求めたスコットランド住民投票では、独立賛成45%、反対が55%で、スコッランドの英国からの独立は否定された。この際には、1998年スコットランド法第30条の規定に従い、当時のキャメロン政権が、スコットランド自治政府にスコットランド独立住民投票の実施を認め、もし、独立賛成が過半数を占めた場合には、英国議会とスコットランド議会の両方で、スコットランド独立の手続きを進めることになっていた。

もともとキャメロン政権が住民投票を認めたのは、独立賛成派が勝つ可能性はないと見たからであるが、住民投票の投票日が近付いてくると賛成派が大きく伸び、最後には手に汗を握る戦いとなった。ジョンソン首相らは、これに懲りており、スコットランド独立住民投票を認めるつもりはない。現在、世論調査の権威ジョン・カーティス教授は、独立支持派と反対派は半々だという。これでは、結果がどちらに転ぶかわからない。

2021年5月のスコットランド議会議員選挙でも示されたように、スコットランドではSNPが圧倒的に強い。もともとスコットランド議会議員選挙制度は、SNPが過半数を占める可能性をなくすよう設計されており、選挙区の当選者数と比例区の当選者数をリンクさせている。2021年の議会議員選挙ではSNPは選挙区で強かったが、比例区であまり議席が伸びず、過半数を下回った。しかし、スコットランド独立支持のスコットランド緑の党と提携し、スコットランド議会では、独立支持派が多数を占めている。

SNPは、党勢が弱まらないよう慎重だ。ジョンソン首相が全国的に支持率を落とし、スコットランド議会第2党のスコットランド保守党の支持が下落している。その反面、第3党のスコットランド労働党が支持を伸ばしていることを警戒している。労働党のスターマー党首へのスコットランドでの支持も伸びているといわれる。

一方、次期総選挙で、保守党が過半数を獲得できない可能性が高まっている。もしそうなれば、労働党が政権を獲得するためには、同じ中道左派のSNPとの提携が必要となるかもしれない。労働党は、スコットランド独立に反対しており、連立政権は作らないと主張しているが、状況によっては、SNPが独立住民投票の実施を条件に労働党政権を支えることとなるような可能性がある。SNPは、スコットランドでしか選挙を戦わないが、英国下院で45議席持つ第3党である。スコットランドで労働党になるべく議席を獲得させず、SNPの立場を強めようとする狙いがあると思われる。

政党スコットランド議会英国下院(スコットランド)
SNP64 / 12945 / 59
スコットランド保守党31 / 1296 / 59
スコットランド労働党22 / 1291 / 59
スコットランド緑の党7 / 1290 / 59
スコットランド自民党4 / 1294 / 59
アルバ党0 / 1292 / 59
2022年6月29日現在のスコットランド政党勢力

すなわち、SNPの今回の発表は、以下のような意図があるものと思われる。

  • 住民投票を実施したい
  • そのための手続きの可能性を探るために最高裁判所の判断を求める
  • 住民投票が合法と認められれば計画通り実施する
  • もし合法と判断されなければ、次期総選挙を事実上の住民投票にするつもりだが、この結果は、中央政府の認める決定的なものではない。
  • もし次期総選挙で、保守党が過半数を占められず、どの政党も過半数を占められない「宙づり議会」となれば、SNPはその50近い議員数を使って、住民投票実施、もしくは話し合いでスコットランド独立に向かわせる
  • この過程で、スタージョンは、公約通り、スコットランド独立に向けて努力しており、SNPの党勢を維持、または強めることができる