行政の大改革案(Forthcoming Civil Service’s ‘Radical Reform’)

キャメロン政権が‘行政の大改革’を検討していると1月8日のサンデータイムズ紙が報じた。サンデータイムズはこれまでにもキャメロン首相のステラレジスト、スティーブ・ヒルトンが行政の対応の遅さにいらだっており、ヒルトンと行政トップとの関係がうまくいっていないと報じたことがある。しかし、今や、内閣書記官(Cabinet Secretary)に、首相官邸付の事務次官だったジェレミー・ヘイウッドが就任し、ヒルトンとヘイウッドが中心になって改革を推進しているようだ。ただし、改革案を出すのとそれを実施することは大きく異なる。その実施には、強力なリーダーシップと非常に大きなエネルギーが組織的に必要だ。それを進めて行ける人材がいるかどうかも課題となろう。

さて、現在の行政のシステムは、1970年代からあまり変わっていないといわれるが、今回の計画では、根本的な問題が検討されるという。それは、以下の2点だ。

1. 行政がどのような役割を果たすか?
2. 政府がどのようなサービスを提供するか?

この2点は、決して新しい課題ではない。かなり前から議論されてきたが、未だにはっきりした方向性が出せているとは言えない。今回の見直しの大きなきっかけは、すでに発表されている財政削減案が本当に達成できるかどうか心配され始めていることにあるようだ。例えば、各省庁には財政削減案があるが、人員削減について具体的な削減目標を持っているのは財務省以外にないという。財務省は、今後4年間で人員を4分の1削減する予定だ。人員削減については、全省庁で、2010年秋からの1年間で10.9%減ったと言われるが、これでは必要な削減目標に到達できない恐れがあるという。

つまり、現在各省庁で行われている無駄の削減や小さな削減策などでは不十分であり、根本的な見直しが必要だと判断したようだ。また、これには行政がどのようなサービスを提供するかも含めて検討されており、政権の進めている、雇用促進や学校経営などの分野の外部委託のシステムを大幅に導入することも視野に入れている。

このような行政改革案に新内閣書記官ヘイウッドがどのような役割を果たすかは見ものだ。12月末に退職した前内閣書記官は、退職前、兼務していた行政職のトップである行政庁長官(Head of Home Civil Service)の役割を内閣書記官の役割から分離した。これまで内閣書記官と言うと、同時に行政職のトップも意味したが、この1月から事務次官会議などの議長や、行政職全体をまとめる役割は、新行政庁長官が務め、内閣書記官の職務ではない。そのため、ヘイウッドは、この行政の大改革の計画に取組みやすいと言える。

しかしながら、大改革の計画を出すのと、それを推し進めるのとはかなり異なる。一般に、これまで政府は改革や大きな機構改革にお金をつぎ込むことで目的を達成しようとしてきた。外部からコンサルタントを雇い、計画を出させ、実施まで手伝わせ、さらに新しい仕事のための人を雇い入れ、既存の体制をあまりいじらない形で進めてきた。このため、各省庁のトップや中堅マネジャーに、血のにじみ出るような改革をリードできる人が少ない。キャメロン政権が2010年に発足して、大幅な財政削減を打ち出し、これまで各省庁はできるだけの無駄削減を行ってきた。しかし、これからが正念場である。どのような‘行政大改革案’が出てこようとも、その実施はかなりの修羅場となるように思われる。

サッカーの人種問題(Racial Issues in Football and Beyond)

サッカーのリバプールFCのフォワード、スワレスが、マンチェスター・ユナイテッドのディフェンダー、エブラに対して、試合中に人種差別発言をした問題で、FA(イングランドサッカー協会)は、スワレスに8試合出場停止、しかも4万ポンド(500万円)の罰金を科した。

この件で、リバプールFCは、スアレスは無実だと主張しながらも処分を受け入れることとした。

人種問題は、サッカーの世界でも大きな問題で、欧州でもイタリアや東欧諸国でよく見られる。

スワレスは、エブラに対して使ったとされる「二グロ」という言葉には、母国のウルグアイでは何も人種差別的な意味はないと言い張った。しかし、ここはイングランドであり、また、サッカーの試合中に敵方の選手になぜそういう言葉を使わなければならなかったのだろうか。なぜ、一方のチームの選手が他方の選手の皮膚の色を云々する必要があるのか、ということである。

サッカーの試合中の人種差別発言では、最近もイングランドのキャプテンのチェルシーのジョン・テリーの問題がある。テリーの場合、この発言を警察が取り上げ、テリーは、2月に裁判所に出廷することになっている。テリーは人種差別的な言葉を使ったことは認めているが、それは、相手方の選手が言ったことを繰り返しただけだ、と主張している。

テリーがその言葉を使ったことは、試合のテレビ画像で明らかであるが、その言葉を使う直前の画像が、他の選手の頭でさえぎられており、「俺が***と言ったって?」の「俺が…言ったって?」の部分が確認できないままであった。しかし、最近、新しいテレビ画像を警察が入手したと報道されている。もしテリーが人種差別発言をしたということが確認されれば、裁判がどうなるかは別にして、最低限スワレスの受けた罰を受けることになる。その上、イングランドのキャプテンの地位を失うのは間違いなく、しかもイングランドの選手としてプレーすることが妥当かどうかの問題となる。

人種差別の問題は、サッカーの場だけではなく、英国のあらゆる場で見られる問題だ。スティーブン・ローレンス問題は象徴的な問題である。1993年に黒人の少年が、白人の若者のグループに無差別の人種攻撃で殺害された問題であるが、少年の両親らの長い苦しい奮闘の末、数日前に犯人が有罪となった。この過程で、事件を捜査した警察にも人種偏見が深く根付いていることが白日の下にさらされた。

英国の行政や企業の中でも人種問題は、はれ物を扱う状態になっている。マイノリティの昇進を促進し、差別を防ぐために様々なルールを設けているが、その一方では、人種差別で不利な扱いを受けたと主張されることを恐れ、過分に慎重に対処する傾向があるということだ。本来は、皮膚の色に関わらず、すべての人を同じに扱うことが基本であるが。