政策の外注の効用(Outsourcing Policy-Making)

英国政府が、政策の外注を試験的に始めた。これは、国家公務員らの政策立案は、幅が狭く、新しいアイデアに乏しい傾向があるという反省に基づき、シンクタンクや学者グループらにアイデアを外注することによって、より斬新で効果的な政策をより安価に求めようという考え方である。

この8月1日に政府が公募したのは、行政と政治家との間の関係を見直すもので、オーストラリア、シンガポール、米国、フランスそしてスェーデンの実例を検討しながらも、特にニュージーランドのモデルに的を絞っている。ニュージーランドでのモデルは、政治家である大臣が具体的な成果を求め、各省庁の責任者との間で契約関係を結び、それぞれの責任者が政策を実施し、その責任を持つことになっている。この政策外注では、政府とその関係機関がどのような機構を持ち、どのように機能しているかについての分析、評価をするもので、それらを英国にあてはめる場合、どのように実施するかの提案を求めるものだ。キャメロン首相は7月に下院の委員会委員長連絡会議で、行政をフランスや米国式の政治化されたものにする必要はなく、「常設で中立の国家公務員制度」を維持すると発言している。しかし、これは、行政の仕組みを根本から見直すもので、行政外からのインプットを求めるにはふさわしいプロジェクトと言えるだろう。

この公募は、6月19日に発表した国家公務員改革計画で設けた、コンテスタブル政策基金(Contestable Policy Fund)で賄う。これには50万ポンド(6200万円)の枠があり、省庁がさらに同額を自主調達し、合計100万ポンドで実施することになっている。それを利用した初めての政策外注で、今回は5万ポンド(620万円)の予算である。

さて、英国と比べて、日本の民間、特にシンクタンクと学者グループに政策形成能力が乏しいように思われる。それが日本の政党のマニフェストなどの政策形成能力に影響し、また、マニフェストへの建設的な批判が乏しいことに結びついているのではないかと思われる。日本で大きな問題だと感じられるのは、マニフェストに書かれたことが実行されたかどうかに力点が置かれ過ぎ、その中の政策が妥当かどうかは二の次になっている点だ。マニフェストで述べられた政策が妥当かどうかの「厳しい評価」があってこそ、マニフェスト選挙・政治の意味が出てくると言える。しかし、政策を「厳しく評価」するには、かなり高い能力が必要である。

英国では数多いシンクタンクや学者グループに、そのような高い能力を持っている場合が多く、特に中立系で「Respected」と表現されるものの見解が注目される。しかし、日本では、そのようなことのできるシンクタンクや学者グループがどの程度あるだろうか?もちろん、日本では政府や政権政党の政策への批評は、後難を恐れ、避ける傾向にある風土もあるだろう。また、研究資金の出所の問題もあるように思われる。しかし、シンクタンクや学者グループなどの政府外の団体の能力を伸ばし、斬新な見解の発表が促進され、活発な議論が行われる環境にしていく必要があるように思われる。

オズボーン財相の次の手(What Osborne Can Do)

景気低迷で英国の税収が減り、失業手当などの福祉経費が増加しており、4月以来毎月政府の赤字が続いている。特に7月は、企業の四半期ごとの納税があり、28億ポンドのプラスになると見られていたが逆に6億ポンドのマイナスとなった。通常、7月は一年で2番目に税収の多い月であるため、事態はかなり深刻ではないかと見られており、今後政府の打つ手が注目されている。

英国統計局の発表によると、前年の7月と比べ、税収が全体で0.8%減少した。特に法人税が20%減少したが、これは、北海の油井のオイル漏れのための操業減少の影響が大きいようだ。一方、福祉関係費が6.2%アップした。この結果、英国の債務は、GDPの65.7%に達した。このままで行くと、今会計年度の赤字の予測額1200億ポンドを300億ポンド上回る可能性があるという。

このため、政府が、計画通り2012年から17年の5年間で実質9.5%の財政支出を減らす方針を遂行しても、それでは足りず、2015年に予定されている次期総選挙時に有権者に将来への光を示すことができないことになる。

そのため、財相の打つ手は、さらに財政支出のカットを上積みし、財政支出を減らして数字を合わせるか、もしくは、野党の労働党が主張するように「プランB」、つまり、政府が財政カットを停止、または緩和してさらに借金し、それを使って景気刺激策を講じるかのどちらかとなる。

問題は、「プランB」に移行することは、オズボーン財相にとってさらなるUターンとなり、既に財相への信頼度がわずか16%になっている状態を悪くさせるばかりか、キャメロン=オズボーンの経済運営に対する信頼が失せてしまうことだ。それよりも、もっと深刻な問題は、もし「プランB」の刺激策を実施してもそれで景気が回復するかどうかはっきりと見通せない点だ。

多くのエコノミストが引用している、The National Institute of Economic and Social Research のNitika Bagaria, Dawn Holland, John van Reenen の研究では、財政カットを2014年以降に延期しても、英国経済はそう大きく成長しないという。2013年は、財政カットをすれば1.3%、しなくても 2%。2014年には、財政カットをして2.4% 、しなくても2.6%。2015年には財政カットで2.7%、しなければ 2.9%。そしてその後は、した方がしない場合より成長が上回ると言う(参照 サンデータイムズ8月5日David Smith)。

特にGavyn DaviesがFTで指摘したように(FT 8月10日)、現在の経済停滞の原因には不明な点がある。しかも財政を緩めることによる財政危機の可能性は完全には否定できない。しかも欧州債務危機もある。

これらから考えると、オズボーン財相の取る道は、財政緩和よりも、さらなる財政の削減に向かう可能性が高いのではないかと思われる。