北アイルランドの将来(The Future of Northern Ireland)

北アイルランドの問題はよくユニオニストとナショナリストの対立であると言われる。一般にユニオニストとは、北アイルランドは英国の一部として維持されるべきだという立場であり、ナショナリストとは、北アイルランドを南のアイルランド共和国と統一すべきだという立場である。

この二つの立場は、プロテスタントとカトリックの宗教の対立から生まれたもので、北アイルランドでは、多数を占めてきたプロテスタントがカトリックを迫害してきた歴史がある。もともとアイルランドは全島がカトリックだった。17世紀以降プロテスタントが入植し、20世紀に入って北アイルランドを支配したが、全島をアイルランド共和国として統一すべきだという考え方がカトリックに強くあった。

プロテスタントはユニオニストでカトリックはナショナリストという傾向はあるが、プロテスタントやカトリックとして育てられても、自らどの宗派に属すると考えない人もかなり増えてきている。また、ユニオニストもしくはナショナリストである度合いの強弱も多様であり、一様に分別することは難しくなっている。

2010年のNorthern Ireland Life and Times 調査によると、カトリック教徒で、北アイルランドを英国の一部として維持されることを望む人が52%いることがわかった。そしてカトリックの33%しか南のアイルランドとの統一を望んでいない。調査全体ではアイルランドとの統一を望んだ人はわずか16%で、全体の73%が英国の一部であることを望んでいる。
http://www.ark.ac.uk/nilt/2010/Political_Attitudes/index.html
(なお、2011年にはこの調査は行われなかった。)

1998年の同じ調査では、カトリックで、英国の一部であることを望んだのは19%で、2005年には25%であったことから見ると大きく増加している。

この原因は、もちろん2007年から政治が安定したことが背景にあるが、ユーロ危機でアイルランド共和国が英国の援助を受けたことと、北アイルランドの経済的な安定ではないかと見られている。

北アイルランドは英国で最も中央政府からの補助金の多い地域で、2011年に北アイルランド議会で演説したキャメロン首相は、北アイルランドはイングランドよりも一人あたりの公共支出額が25%多いと発言した。
http://www.number10.gov.uk/news/address-to-northern-Ireland-assembly/

つまり、もし、北アイルランドが南のアイルランド共和国と統一すると経済的に不利だというわけである。これにはカトリックにとって北アイルランドの居心地がよくなっていることが基本的な要因としてある。

ユニオニスト側にとっては、プロテスタントの人口が年々減り、人口に占める割合がかなり急速に減っていることを考えれば、以上の状況は好ましいことと言える。北アイルランドの政治は既に政権の共同運営の制度となっており、ユニオニスト側とナショナリスト側の両方のコンセンサスで進められている。つまり、カトリック/ナショナリストに公平で居心地のいい地域づくりを進めることが将来の北アイルランドの英国の一部としての地位を確かにし、プロテスタント/ユニオニストの将来をより確かなものとするからである。

キャメロン首相の「同性結婚」法案(Gay Marriage Bill)

ビラが郵便受けに投げ込まれた。見てみると、結婚連合(Coalition for Marriage)という団体のものである。それには次のように書かれている。

「結婚が脅威にさらされています。ウェストミンスターの政治家たちは結婚の意味を書き換えて『性別なし』にしようとしています。しかし、子供にはお母さんとお父さんが必要です。結婚でもたらされるすべての権利は、市民婚の手続きをすれば同性のカップルにも得られることを知っていましたか?結婚は政治家のものではありませんし、政治家にはそれを変える権利はありません」と主張し、地元の保守党下院議員にコンタクトして反対するよう訴えている。

「同性結婚」は、同性のカップルにも男女の結婚と同じ結婚を認めることで、この法案は、下院で2月5日、基本的な考え方に賛成するかどうかを問う第二読会で賛否が問われる。各政党は良心の問題だとして自由投票とする予定だが、保守党下院議員303名のうち、3分の2近くが反対するのではないかと見られている。それでも自民党と労働党の議員の大多数は賛成するため、可決されるのは間違いない。

市民婚は、市民パートナーシップとも呼ばれるが、男女が結婚した場合と権利的には同じである。市民婚では式典で宗教的なことを行うことや、教会などの宗教的な場所で行うことが禁止されていたが、現政権下でこれらが許されることになった。それでも、男女間の結婚ほど正当なものではないという考えがある。

なお、法案では、英国の国教である英国国教会が同性結婚式を行うことができないとしており、いかなる宗教やその僧も式典を行うことを強制されることがないとしている。

保守党の下院議員に多くの反対者が出るのは、保守党の支持者に同性結婚に反対している人が多いためである。この問題で保守党をやめる人がかなり出ていると言われている。しかし、YouGovの1月末に行った世論調査によれば、同性結婚に55%が賛成、反対は36%で、いずれにしても早晩、同性結婚が認められる方向だ。

キャメロン首相としては、いかに党内の反対が強くても、敢えて同性結婚を認めることで、保守党のイメージ改善に役立てたいという思いがあるが、その予想以上に強い党内の反対を見ると、自由投票とはいえ、その威信にダメージを与える可能性が高いと言える。