オズボーン財相のもう一つの失敗(Another mistake by Osborne)

9月上旬にキャメロン内閣の内閣改造が行われる予定だ。そこでジャスティン・グリーニング運輸相が異動するかどうか注目されている。グリーニング運輸相は、昨年10月に、財務省の経済担当閣外相から昇任したばかりだ。通常なら、留任の線が強いと思われるが、グリーニングには、一つ大きな問題がある。ロンドンのハブ空港であるヒースロー空港の第三滑走路を巡る問題だ。

グリーニングは、ロンドン南西部にあるパットニー選挙区から選出されている保守党の下院議員である。2005年、現職の労働党議員を僅差で破り、初当選した。パットニーは、ヒースロー空港への発着航路に入る地域で、2010年の総選挙前には、グリーニングはヒースロー空港の第三滑走路反対運動の中心的なリーダーとして活動し、この総選挙では、労働党候補に大差をつけて勝った。労働党政権が第三滑走路の建設を促進したのに対し、保守党は、反対した。保守党と連立政権を組んだ自民党は、第三滑走路に反対で、しかもロンドンを含むイングランドの南東部の空港の拡張に反対していた。その結果、連立政権合意書でも、第三滑走路の建設をキャンセルすると謳った。

しかし、保守党が政権について直面したのは、ヒースロー空港のキャパシティは、ほとんど満杯であり、拡張の余地は乏しく、中国、インドそれに南米などの新興工業国との多くのダイレクト航空便がなければ、ダイレクト便のある空港を持つ他の欧州各国との競争で後れを取るということであった。ジョンソン・ロンドン市長らの提唱するテムズ川河口空港建設案なども出されたが、それでは時間がかかり過ぎ、また費用もかなり大きくなることから、第三滑走路の建設が再び見直されてきた。これには経済界からの強い圧力がある。この見直しを中心になって進めているのがオズボーン財相である。

もちろん、第三滑走路の建設見直しについては、マニフェストで約束したことであり、自民党の合意が得られないことは明らかであるために、次期総選挙後になるが、それへの準備をしていく必要がある。しかし、グリーニング運輸相は、それに反対している。そのために、グリーニングの異動が取りざたされているのだ。

これにはオズボーン財相の失敗が関連している。昨年10月にグリーニングは運輸相に任命されるまで、オズボーンの下で閣外相として働いていた。確かに閣僚の中で女性が少なく、ワルジ保守党幹事長を含めてわずか4人であった女性閣僚の数を増やす必要に迫られていたとはいえ、グリーニングのヒースロー空港第三滑走路に関する運動を見れば、運輸大臣として客観的に空港建設問題を判断できるかどうかどうかは疑問だった。特に、自分の下で働いていた人物だけに、この任命にはストップをかけることもできた。ところが、今になって、グリーニングがオズボーンの頭痛の種になっている。オズボーンの判断力がさらに疑問視される一つの例と言えよう。

自民党を苦しめる政治資金(Lib Dem Party funding)

英国の政治資金は、アメリカや日本などと比べてもはるかに地味である。8月2日に選挙委員会(The Electoral Commission)が発表した、政党の昨年2011年の収入、支出報告によると保守党が2366万ポンド(29億円余)、労働党が3133万ポンド(39億円弱)、それに自民党が620万ポンド(8億円弱)である。

英国のマスコミは、保守党の収入が前年より45%減ったと指摘している。また、労働党も減ったが、2010年の選挙の結果が、いずれの政党も過半数を占めることのないいわゆる「ハング・パーリアメント」に終わった翌年の実績としては、特にそう目くじらを立てる問題でもないように思われる。

保守党は、選挙がある前には、きちんと選挙ができるだけのお金を集めるだろうし、また、労働党は、労働組合が支援しているだけに、2010年総選挙では、かなり倹約せざるを得なかったが、いずれの政党も特にお金の面で困窮することはないと思われる。

問題は、自民党である。もともと献金が少ない。保守党と連立政権を組んだが、政権に就いたといっても、急に資金源ができるわけではない。むしろ、野党に渡される主要な公的資金を失った。政党に対する公的扶助は4つある。下院のショートマネー(Short Money)、上院のクランボーンマネー(Cranborne Money)、スコットランド議会の補助金、それに選挙委員会が扱う、選挙マニフェストづくりに使われる政策発展補助金(Policy Development Grants)である。

このうち、自民党はスコットランド議会では、野党のため、受けられる。また、政策発展補助金は受けられるが、それ以外のものは受けられない。2010年5月の総選挙前の2009-10年度にはショートマネーは、175万ポンド(2億2千万円)に上ったが、これが、連立政権参加後に失われた。

その上、2011年、2012年5月の地方選挙で多くの地方議席を失った影響もある。自民党の地方議員は、通常、議員報酬の1割を党に献金しているが、地方議員の数が急速に減っている中、この面からの収入も減った。しかも、党員の数が、2011年には、6万5千人から4万9千人へと4分の1減少した。

8月20日に選挙委員会の発表した2012年第二四半期の政党献金では、献金72万ポンドのうち、これまで何度も献金している企業家のRumi Vergeeから25万ポンド(3100万円)、それに自民党の上院議員から10万ポンド(1200万円)の献金があった。しかし、自民党が財政的に苦しんでいるのは明らかであり、その財政問題が、連立政権の行方に影響を及ぼす可能性がある。