財政削減から迫られた国税徴収の強化(Intensifying Tax Collection)

英国の国税徴収を担当する歳入関税庁(HMRC)は、徴税に真剣味が欠けていた面があるようだ。財政削減で歳入が注目され、そのあり方に大きな疑問が出た。例えば、これまで出てきた問題には以下のようなものがある。

①税回避策への対応が甘い。
②税の抜け穴を許している。
③罰が甘い。
④税回避地や外国への対応が甘い。
⑤カスタマーサービスが不十分。

HMRCはゴールドマンサックスに手心を加えた税額合意をしたと批判されたが、財政削減で歳入増に財務省が懸命になる中、財務省、歳入関税庁それに検察庁が連携して積極的な対応をし始めている。

スイス当局らと交渉し、スイスに銀行口座を持つ英国人の名前の提供を求めた。ジャージーなど英国関係の税回避地への対策。英国内で大きな利益を上げながら税をほとんど払っていないアマゾンのような国際企業への対策が急務だが、現行制度上徴税が難しいため、先進国間で協力体制を取り始めた。

また、税回避策の摘発を強め、大手会計会社が政府にコンサルタントとして働きながら、同時に顧客の税回避を助けるといった問題にも手をつけ始めている。

タイムズ紙(8月5日)によると、脱税の訴追件数が大幅に増加している。2011年度には302件であったのが、2012年度には617件と2倍以上に増えている。2014年度までに1165件まで増やす計画だ。訴追されたこれらのケースの有罪率は86%だという。英国ではこの有罪率はかなり高い。

脱税していても合意額を納税することで大目にみていた従来の対応から、訴追する傾向が強まっている。会計士や弁護士などの専門職、それに不動産賃貸などで収益を上げている人などが標的になりやすいという。HMRCは、企業の複雑な脱税や海外での脱税のケースを訴追すると時間と費用がかかるため、手頃な比較的簡単なケースに重点を置いているようだ。もちろんこのような脱税摘発・訴追で、かなり大きな抑制効果を生ことも念頭に置いているようだ。

これらの行動は、実際に徴税増に結びついている。HMRCの捜査や規則をきちんと守らせることで得た税収は2010年に160億ポンド(2兆4千億円:£1=¥150)であったのが、2011年度には210億ポンド(3兆1500億円)に増加した。

HMRCは、会計検査院、下院の公会計員会や上院の経済委員会などから批判されているが、さらに成果を上げることが期待されている。

クロスビーの選挙戦略(Crosby’s Methods)

キャメロン首相の選挙ストラテジスト、リントン・クロスビーの手法の一部が明らかになった。クロスビーとあるロビイング会社のミーティングでの話が漏洩されたためである。サンデータイムズ紙(8月4日)が報じた。

その内容は、大きく分けて二つある。

まずは、英国内の不法移民問題についてである。クロスビーは、内務省が不法移民への対策としてパイロット的に行った看板作戦を批判した。「(自発的な)帰国もしくは逮捕」の大きな看板を車に載せてロンドンの6つの区を走らせたが、これには、保守党より右と見なされる英国独立党(UKIP)のファラージュ党首が「不快だ」とその手法に反対し、また保守党と連立を組む自民党は、そのような試みを知らなかったと抗議した。

クロスビーは、その内容よりもそのやり方に注目が集まったのは失敗で、しかもUKIPに再び注目が集まる機会を与えてしまったと批判したのである。

この批判から見ると、クロスビーが移民問題を重要だと考えているのは間違いないが、「帰国もしくは逮捕」の看板作戦には直接携わっていなかったようだ。なお、8月2日以降大きな問題となった、駅などでの移民のスポットチェックについてのコメントはなかった。クロスビーがロビー会社とのミーティングをいつ行ったのかはっきりしていないことから、スポットチェックにどの程度クロスビーが関わっていたのかは不明である。

次に右寄りの有権者の支持を保守党と競うUKIP対策についてである。次期総選挙では、保守党からUKIPに流れる票を最小限に抑え、しかもUKIPに流れた支持を取り戻す必要がある。それを成し遂げる二つの方法をあげている。

一つは、UKIP所属の地方議員139名の議会での発言などを徹底的に調べ、不適切な言動をマスコミに流すことである。UKIPの信用を落とすことにその目的がある。保守党がそれに関与していることを知られないようにしておくことが肝要としたが、これは明らかになってしまった。

二番目に、保守党の大物で、UKIPと同じ欧州懐疑派の立場をとる人物にUKIPを攻撃させるというものである。これには、かつてサッチャー政権で幹事長などの要職を占め、今でもマスコミに出演するテビット卿らを考えているようだ。保守党支持者の多くはテビット卿に敬意を持っている。政権の中枢にあるキャメロン首相やオズボーン財相ではなく、それ以外で、保守党支持者やUKIP支持者が信頼できるような人物ということとなる。

これらの発言から言えることは以下のようなことだ。

まずは、メッセージの出し方だ。メッセージは、ストレートにターゲット層に伝わるものでなければならない。ターゲット層が素直に受け止められるもので、その注意をそらせる要素は避けねばならない。

次に、目的を達成するための障害をできるだけ取り除き、その力をできるだけ弱めることである。

このエピソードからうかがえることは、クロスビーが選挙のストラテジストと自分の本業のロビイストの二役をかなりオーバーラップして務めているのではないかということである。タバコの包装の問題で「利害の対立」が取りざたされたが、この例から見ると、そのような利害の対立が実際に起きている可能性はかなりあるように思われる。