保守党の新しい選挙戦略アドバイザー(Tory’s New Election Campaign Adviser)

2015年の総選挙に向かって、各党ともに本格的な準備が始まっているが、保守党は、アメリカのオバマ大統領の選挙運動でインターネット選挙を推進したジム・メッシーナ(Jim Messina)を雇った。

メッシーナは、オバマ大統領の1期目に副大統領補佐官となったが、2012年の大統領選の準備でその職を離れ、オバマ再選に中心的な役割を果たした人物である。現在は、オバマ大統領の法制化プログラムを支える組織「行動への組織(Organizing for Action)」の会長を務めている。

そのため、英国に来て選挙戦略のアドバイザーをするのではなく、米国に留まり、そこからアドバイスする。メッシーナは、オーストラリア人の選挙ストラテジスト、リントン・クロスビー、それに二人の保守党幹事長の指揮下に入ることとなる。

メッシーナは、政策の面にはタッチせず、ソーシャルメディアを使った、インターネット戦略についてアドバイスするようだ。この分野は、クロスビーの弱い分野と言われる。

人事上、これは極めて巧妙な策のように思われる。クロスビーは自分が全体をコントロールしないと気が済まない性格だと言われるが、クロスビーに主導権を任せながらも、オバマ再選戦略で最も大きな役割を果たした人物の協力も得られるからだ。

保守党は、2015年の総選挙は、野党だった2010年の総選挙とは異なるアプローチで臨む必要がある。オバマの場合もそうで、2008年の大統領選挙は、楽観的な気分を良くさせるメッセージで戦えたが、2012年には。経済不安の中、共和党候補のマイナス面を浮き彫りにする戦略に変わった。そのアプローチの変化も保守党に示唆することが多いように思われる。

保守党が世論支持率で労働党を下回っていることもあり、選挙準備を早く本格化させてきているのに対し、労働党はかなり遅れているような印象だ。

労働党は、オバマ選対のインターネット戦略で大きな役割を果たした、英国人で労働党メンバーのマシュー・マクグレガー(Matthew McGregor)を雇った。マクグレガーは現在、9月7日に行われるオーストラリアの総選挙のためにオーストラリアに行っている。労働党は、さらに、オーストラリアでクロスビーと政治的に反対の立場のブルース・ホーカー(Bruce Hawker)を雇うのではないかと見られている(タイムズ紙)が、この調子では、オーストラリア総選挙が終わってから選挙準備に本格着手することになりそうだ。

いずれにしても、選挙戦略の分野は国際化してきていると言える。

住宅取得印紙税報道(The Times’ Stamp Duty Report)

タイムズ紙が住宅取得にかかる印紙税の問題を8月6日のトップ記事とし、また社説でも取り上げた。この問題は、それ以外のメディアでも取り上げている。

英国人にとって、住宅は非常に大きな関心事である。住宅は、短期的には価格の上下があるかもしれないが、長期的には上がると考えられている。この原因の一つには、住宅が不足していることがある。建設許可制度が厳しく、キャメロン政権が経済成長のためにそれを緩和しようとしても保守党内部からも反対があり、遅々として進まない。

英国人の住宅への「執着」は、例えば、ドイツ人と対照的だ。ドイツでは借家が多いが、英国では持ち家が多い。

英国では、初めて住宅を買う人たちのことがよく話に上る。住宅の価格が上がりすぎて、最初の家が買えないというのである。

これは、最初の家を小さくとも何とかして購入し、しばらくするとその価値が上がるので、その上がった価値をもとにさらに高価な家を買い、そしてさらに高価な家へと移っていくことを想定している。そして子供が成長して家から出て行くと家のサイズを小さくしていく。家を年金の原資と考えている人も多い。

しかし、最初の家が買えないと、最初のきっかけがつかめないことになるので多くの人がそれを問題視するのである。

そのようなことから、英国では、住宅にかかる印紙税にはその富の大きさに関わらず注目する傾向がある。

まずは、現在の英国の住宅にかかる印紙税がどうなっているか見てみよう。6つの区分がある。

税率 住宅購入額
0% £125,000(1875万円:£1=\150)以下
1% £125,000を超え£250,000(3750万円)以下
3% £250,000を超え£500,000(7500万円)以下
4% £500,000を超え£1million (1億5千万円)以下
5% £1millionを超え£2million(3億円)以下
7% £2millionを超えるもの

このうち、2012年度では、723,829の住宅が購入され、そのうち、税率が3%以上、すなわち25万ポンド(3750万円)を超える住宅が182,692で、全体の4分の1を占めた。ロンドンでは、特に住宅の価格が高く、購入された住宅の3分の2近くの印紙税が3%以上である。

さて、タイムズ紙は、いわゆる高級紙の一つで、専門職や中流階級の読者が多い。その読者の関心のありそうな記事をトップに載せるのは当然とも言える。

この記事のもとにした分析は、納税者同盟(Tax Payers’ Alliance)という組織のものであるが、これは、労働党政権時代に政府の無駄遣いを攻撃するために作られた。税金を下げることを標榜し、その支援者には、より自由な経済活動を標榜する人が多い。つまり、ある程度の資産のある人が中心となっている。納税者同盟は、現在の印紙税は高すぎると判断している。

一方、この記事の中で不動産仲介業者のコメントも紹介し、高い印紙税が、住宅の売買を妨げているという。もちろん住宅の売買が活発化すれば、不動産会社は望ましいだろう。

ただし、英国の住宅価格は今年初めから上昇している。直近のハリファックスの報告にもそれは見られる。1年前に始まった、政府とイングランド銀行の金融機関への安いローン(Funding For Lending)や、住宅購入への政府の住宅ローン保証制度などの効果が出てきている。さらに来年1月から始まる、より広範囲の人が利用できる制度(Help to Buy)は3年間の期間限定の予定であるが、前イングランド銀行総裁が、この制度を無期限にしないようにと住宅ブームの過熱する可能性を警告した。同様の見方を持つ人は多い。

現状を考えると、印紙税の制度は、もし過熱すれば一定の歯止めをかける上で有効であり、かつ税収増も期待できるので現在の経済状況下では望ましいのではないかと思われる。

タイムズ紙は、印紙税のかかる、それぞれの住宅価格区分の最低額を上げるか、もしくは、制度を変えて、例えば、100万ポンドの家を購入しても、最初の12万5千ポンドは0%、次の12万5千ポンドは1%、次の25万ポンドは3%、そして次の50万ポンドは4%という具合にしてはどうかという専門家の見解を紹介している。ただし、現在のレベルの住宅価格上昇に拍車をかけるような住宅取得印紙税軽減は現実的ではないだろう。

もちろんタイムズ紙の経済・住宅関連担当者はこれらのことを十分理解していると思われるが、それでも、この納税者同盟のストーリーがトップとなった。英国人の注目を浴びるからだと思われる。