クレッグ・ファラージュ討論(Clegg vs Farage Debate)

326日(水)に自民党の党首ニック・クレッグ副首相と英国独立党(UKIP)のナイジェル・ファラージュ党首の「英国とEU」をめぐる討論が行われた。親EUの自民党のクレッグ党首が呼びかけたもので、反EUUKIPファラージュ党首が受けて立ったために実現したものである。42日(水)に2回目の討論が行われる。

この討論は政治関係者らが注目したが、そのインパクトはかなり限定されたものだった。第一回目の討論は、ロンドンのラジオ局LBCが主催し、ラジオで放送されたほか、ニュースチャンネルのスカイニュースでも同時にテレビ放送した。また、LBCのホームページでも実況放送した。

直後の世論調査ではファラージュのほうがよかったという人が57%、クレッグのほうに軍配を上げた人が36%でファラージュが21ポイント上回った。ただし、この世論調査を実施したYouGovの担当者が、千人余りの応答者を見つけるために数万人に当たる必要があったと明らかにしたように、この討論を視聴した人は限られていた。

翌日の新聞でもこのニュースは掲載され、第一面で扱った新聞もあったが、その後の世論調査であまり大きな動きはない42日の第2回目の討論は公共放送のBBC2テレビとスカイニュースの両方で午後7時から1時間放送される。関心は少し上がるだろうが、2大政党の保守党と労働党が参加しない討論では盛り上がりに欠ける。 

1回目の討論は、細かな数字を挙げて論争を挑もうとするクレッグと、かなり恣意的な数字を使い、威勢のよいファラージュの戦いであった。ファラージュは予想以上に欧州の問題や英国の有権者の関心に対して答えを持っており、自民党元党首パディ・アッシュダウンも指摘したように高いレベルの討論に対応できる政治家であった。

一方、クレッグは下院の図書館の調査の数字ではといったように細かな数字を出したが、このような戦術が有権者にどの程度効果があるか疑問である。多くの有権者は細かな数字には耳をふさいでしまうか、自分の感覚で感じていることに反することには耳をかさない傾向がある。そのため、ファラージュが何度か顔を固くした場面があったが、わかりやすい話をしたファラージュに軍配が上がったと思われる。 

討論後、ファラージュがEUはウクライナを不安定にし問題を招いた責任があると指摘したことに関して、ロシアのプーチン大統領の肩を持っているという批判があった。しかし、これにファラージュは反論し、プーチンのしたことに賛成しないが、EUの外交政策は大失敗だと主張した。EUはウクライナで民主的な選挙で選ばれた大統領を倒すのに手を貸した、シリアでも期待をあおっただけで状況を悪化させているなどと批判した。 

政治コメンテーターたちは二人ともこの討論に参加することに利益があるという。自民党は世論調査で10%前後の支持しかなく、522日の欧州議会議員選挙では議席がなくなるかもしれないと指摘されている。そのため自民党はメディアの注目を浴びる機会を求めていた。自民党は唯一の親EU政党だと主張しており、英国がEUから離れることを心配する人たちに自民党の主張を訴えられる機会となるからである。 

一方、UKIPは、前回の2009年欧州議会選では保守党に続き、第二位の得票率、議席数を獲得したものの、完全小選挙区制の下院では議席を獲得できていない。5月の欧州議会選挙では、野党労働党と英国選挙区でのトップを争う位置にあると見られているが、そこで多くの得票をし、議席を獲得することで、来年5月の総選挙への弾みにしようとしている。

下院に議席がないため、これまで泡沫政党の扱いを受けてきたが、3月の初めに、情報通信庁(Ofcom)がUKIPを欧州選挙で「主要政党」として扱うようにすべきと判断したことは大きい。保守党、労働党、自民党の3大政党と同じように扱われる形になるのは政党として望ましく、このような討論の機会はUKIPのステイタスを上げる。ただし、党首ファラージュのワンマンバンドともいわれる政党であり、ファラージュがどの程度無難に討論ができるかに注目が集まっていた。その第一のハードルは超えたと言える。

保守党、労働党はこの討論には参加していない。むしろ参加すればUKIPらにメディアに注目される機会を与えるだけだと考えている。しかし、このクレッグ・ファラージュの第一回目の討論の結果、もし2015年総選挙前にも主要政党の党首討論が行われれば、UKIPを入れる必要が出てくるのではないかという見方が強まっている。

重要な学校視察制度(Ofsted Inspection Changes)

イングランドの学校はOfsted(教育基準局)の視察を受ける。(どのような視察が行われているかは以下参照)。キャメロン連立政権のマイケル・ゴブ教育相は学校の視察が教育水準を上げるカギだと考え、元中等学校校長のマイケル・ウィルショー(Sir Michael Wilshaw)をOfstedの責任者である首席視察官に任命した。ウィルショーは、ロンドンの中等学校で校長を務め、特にハックニー区にある学校モスボーン・アカデミーで目覚ましい業績を上げたことで知られる人物である。 

ウィルショーは厳しい視察制度を設けた。学校視察は校長らに大きな重圧であり、できれば避けたいものであろうが、今や学校の8割は優(Outstanding)もしくは良(Good)と評価されている。もちろん視察には学校側から多くの不満や批判がある。中等学校とカレッジの校長ら幹部の組織/組合であるASCLAssociation of School and College Leaders)によれば、今年度(昨年9月から)146人の校長・副校長がOfstedの否定的な視察報告を受けて辞任したという。厳しいが、逆に見れば、視察が効果を上げている証拠ともいえるだろう。

なおスコットランド、ウェールズ、北アイルランドではそれぞれ分権政府が学校を担当している。キャメロン政権の教育省はイングランドの管轄である。

最近、ゴブ教育相が野党時代に設立に関わったシンクタンクがOfstedの視察制度を批判すると報じられ、Ofstedの責任者である首席視察官が怒った。そのポリシー・イクスチェンジ(Policy Exchangeシンクタンクの報告書317日に発表された(報告書の概略を紹介したBBCニュース)。

この報告書は、学校の校長300人に聞いたことをもとにしている。現在のOfstedの視察はその目的にふさわしくないとし、以下の点などを指摘した。

  1. 教室での授業を視察するべきではない。20分弱ほどの授業視察に多くの時間と費用がかかっている。多くの教師は視察官向けの授業に変え、その視察は効果的ではなく、信頼できるものではない。
  2. 視察は基本的に1人の視察官が2年ごととすべき。不良の学校やその他必要な学校にのみ全面的な視察を行うようにすべき。
  3. 多くの視察官の能力が十分ではない。視察官は5年ごとに試験を受けるべき。初等教育や特別ニーズ教育などの経験が不足している場合がある。また、学校のデータは増大しており、それらを理解する能力が不足していると指摘。

現在、視察官となるには5年の教師経験が必須で、視察するのと同様の学校をよく知っていることが必要である。3つの会社が約3千人の視察官を派遣しており、そのうち1,500人が学校を視察している。なお、Ofstedが直接雇用している視察官は3400人でそのうち150人が学校の視察に携わっている。ポリシー・イクスチェンジは、多くの視察官が外注となっている体制を止めるか大幅削減すべきだとした。

321日、首席視察官ウィルショーが視察方法の変更を発表した。全面的な視察は成績不良の学校や評価の境目にある学校らとし、優と良の学校は2年に1度、1人の視察官で1日の視察とすることとした。また、現職の校長/副校長などからできるだけ自前の視察官を使うようにしたいと述べた。

ポリシー・イクスチェンジの批判/提案には消化不良の点もあるように感じられたが、それらに直ちに答えようとするウィルショーらの姿勢は前向きだ。イングランドの教育水準向上への強い熱意のほかに、教師を味方につける必要も背景にあるように思われる。