党首のイメージ

世論調査によると、労働党党首のエド・ミリバンドの人気が乏しい。例えば、YouGov/Prospectでは、60%の有権者がミリバンドは首相にふさわしくないという。YouGov/Sunday Timesでも同じで、首相にふさわしいと考える人はわずか21%である。Ipsos Moriによると、49%が労働党の党首をミリバンドから他の人に入れ替えたほうがよいという意見だ。労働党支持者でも43%が同意している。つまり、来年5月の総選挙で労働党が勝つためには、党首を変えたほうがよいというのである。

ここでの焦点は、党首のイメージである。党首のイメージには、政策など様々な要素が含まれ、かなり漠然としたものであるが、一般には有権者が把握する人物像ということができる。それでは、ミリバンドの評価が低ければ、次の総選挙の結果に影響するのだろうか?世論調査でキャメロン首相の保守党をやや上回る労働党が、ミリバンドが党首であるために、来年の総選挙で敗れるのだろうか?

有権者はキャメロン首相をミリバンドよりかなり高く評価している。イギリスでは、総選挙に勝つには3つの要素があると言われる。党首、政策、そして党のイメージである。小選挙区制のイギリスでは、有権者は投票する際に、誰が首相にふさわしいか考えて投票する傾向がある。二大政党の保守党と労働党以外の政党から首相が出る可能性がほとんどないために、保守党と労働党の党首を比べて、首相にふさわしいと思う人物が党首である政党に投票する傾向が強いというのである。

それでは、これが、2015年の総選挙でも有効だろうか?

有権者の視点は、次期総選挙では、これまでよりもはるかに複雑である。これまでのように保守党対労働党ではない。イギリス独立党(UKIP)が支持を集めており、有権者の視点では、「保守党」対「労働党」対「有権者の不満を集めるUKIP」の構図の中で、党首のイメージの占める役割が大きく減っている。

これまでは基本的に、保守党か労働党であり、それらのいずれの党にも投票したくない人が自民党に投票する傾向があった。自民党への支持は保守党との連立政権に参加して以来大きく減少したが、その支持の減少を大きく上回ってイギリス独立党(UKIP)が支持を集めている。UKIPは主要3党のいずれからも支持を集めているが、特に保守党から大きく支持を奪っている。ここで注目すべき点は、保守党からUKIPに流れている支持はキャメロン首相のイメージにこだわっていない点だ。むしろ同性結婚などを推進したキャメロン首相が党首であるがゆえに反発している人も多い。

なお、保守党と労働党は、政策の違いを強調しようとしているが、実はその差は大きくない。例えば、若者への福祉手当をめぐって両党はお互いを批判しあったが、その差はほとんどない。保守党支持の新聞がミリバンドを左だと強調しようとしているが、労働組合はミリバンドがもっと大胆で、積極的な政策を打ち出すべきだと主張している。結局、保守党と労働党の差が乏しいことがUKIPに支持が流れる一つの原因になっている。つまり、政権が保守党でも労働党でもそう大きな違いはないということである。

上記のYouGov/Sunday Timesの世論調査も指摘するように、有権者は労働党のほうが保守党より優しいと感じている。一方、有権者は、保守党のほうが経済・財政運営で優れていると見ているが、その効果をあまり感じていない。

現状では、労働党も保守党も支持動向を大きく変化させる要因に乏しい。その中、労働党は現在の支持率を維持できれば、次期総選挙で勝てると見ている。つまり、新しい支持層を獲得しなくてもよいという計算だ。

保守党にとっての問題は、UKIPにその支持票を奪われているだけではない。世論調査の支持率で労働党を逆転したとしても、10%近く労働党を上回らねば選挙に勝てない。保守党の強い地域は裕福で投票率の高い選挙区が多く、低い投票率で勝てる労働党よりも多くの支持を集める必要があるからである。保守党がUKIPへの支持流出を食い止め、UKIP、労働党、自民党などからさらなる支持を得るのはそう簡単ではない。

保守党は、次期総選挙に向けて、キャメロン首相のリーダーシップを強調しようとしている。例えば、メイ内相とゴブ教育相とのつばぜりあいや保守党下院議員の不適切なツイートなどに対して、ダメージを最小限に抑えるとともに、キャメロン首相が断固たるリーダーシップを示し、首相らしい首相のイメージを売ろうとしている。その効果はゼロではないだろうが、それが必ずしも保守党支持へ向かうという構図になっているようには思われない。

EUの欧州委員会委員長人事では、キャメロン首相は本命に反対しているが、結果如何によっては、そのリーダーシップに大きなダメージを与える可能性がある。

労働党は、野党として総選挙前のこの時期には政権政党にもっと大きな差をつけておかなければならないと批判されているが、現在のような政治情勢の下では、そのような過去の知恵が必ずしも当てはまるとは思われない。

ミリバンドにはカリスマがなく、よく「奇妙だ」と言われる。もちろんミリバンドに、1997年の総選挙前のトニー・ブレアのような容貌・カリスマがあれば有利だろう。しかし、現在のキャメロン首相、ミリバンド党首、クレッグ自民党党首そしてファラージュUKIP党首の主要登場人物の中では、党首のイメージの効果は、選挙の勝利者を決めるという意味で、これまでの総選挙と比べはるかに少なくなっていると思える。

スコットランドの反イングランド感情

スコットランド独立の住民投票まであと100日となった。9月の住民投票に備え、スコットランド国民党(SNP)をはじめとする独立賛成側、そして反対側も積極的な運動を進めている。

この中、スコットランドの本屋には「バノックバーン」、もしくは「1314」という数字が入った本がたくさん並んでいるそうだ。

これは、1314年の「バノックバーンの戦い」のことで、スコットランドがイングランドを破った戦いである。この戦いでスコットランドは事実上の独立を確保し、完全独立に向けて大きく前進した重要な戦いである。

この戦いに関する本は、2014年に入って少なくとも8冊出ている。これらの本は、人口が530万のスコットランドだけではなく、それ以外のイギリスや他の英語圏をも対象にしたものであろうが、それでもかなり多い。 

2012年にスコットランド政府がこの住民投票を2014年に行うとしたときから、この年がちょうどバノックバーンの戦いの700周年になると指摘されていた。つまりスコットランドの愛国心を掻き立てるにはふさわしい年と考えられたためである。

ただし、スコットランドの愛国心が高まることは、イングランドを敵としたものであり、イギリス全体にとっては望ましいものではない。イングランドでは、スコットランド人はかなり好かれているが、スコットランドでは今でも反イングランド感情がある。

イギリスはその正式な名前The United Kingdom of Great Britain and Northern Irelandが示唆するように連合王国である。つまりイングランド、スコットランド、ウェールズそして北アイルランドの「4か国」の連合体で、例えば、サッカーのワールドカップの予選にはイギリスのそれぞれの「国」からチームが出場する。もし予選に勝ち残れば、出場32か国のうち4か国がイギリスからという可能性もある。

歴史的、人種的な背景が絡み合っており、その感情にはかなり複雑なものがあるが、反イングランド感情の高まりには少なからず問題がある。スコットランド内でスコットランド独立に反対しにくい雰囲気ができており、一般の人々は口をつぐむ傾向が顕著になっている。 

世論調査によれば、今のところ賛成4割、反対6割のようである。このまま推移すれば、住民投票の結果は、独立反対ということになる。キャメロン首相らは、独立賛成熱を沈静化するため、スコットランド分権議会にこれまでより大幅に権限を委譲すると表明しており、いずれにしてもスコットランドへの分権は進むだろう。 

一方、スコットランド政府の首席大臣であるサモンドは、SNPのリーダーであり、この住民投票は一世代に一度のことだと言っているが、今回の住民投票で独立が否定されても、将来再び住民投票の要求が出てくる可能性は強い。

今回の住民投票が可能になった最大の原因は、2011年のスコットランド議会選挙で、SNP129議席のうち69議席を占め、過半数を握ったことだ。もともとこのようなことが起きないようブレア政権で1998年に小選挙区と比例代表を合わせた小選挙区比例代表併用制を採用した。ところが、2010年総選挙でそれまで政権を担当した労働党の支持が下落して政権を失い、その上、自民党が保守党と連立を組んだため、自民党の支持が大きく凋落した。労働党と自民党の支持が低迷する中、SNP2011年に大幅に議席を伸ばしたのである。

このような想定外のことが起きることなしに、SNPが過半数、もしくはそれに極めて近い議席数を獲得できる可能性はそう大きくない。緑の党など小さな政党がSNP2010年の住民投票提案に賛成したことを考えれば、必ずしもSNPで単独過半数を得る必要はないだろう。いずれにしてももしそのようなことが起きれば、スコットランド政府から再び住民投票要求が出てくる可能性がある。

9月の住民投票の結果がどうなろうとも、スコットランドの反イングランド感情は残ることになる。700年前のことを多くの人が覚えており、子孫へと受け継がれていくからだ。