2015年総選挙のシナリオ

201558日に予定されている総選挙まであと4か月余り。この総選挙は、どうなるのだろうか?以下の3つに分けて分析する。なお、イギリスの総選挙は、上下両院のうち下院(庶民院)の議員を選出する選挙であり、650の小選挙区それぞれで最高得票を獲得した1人が下院議員に選出される。上院(貴族院)は公選ではなく、その権限は下院と比べて大きく制限されている。

  1. 現在の状況

(1) これまで無視されていた小政党がかなり健闘する見通しである。スコットランド国民党(SNP)は9月に行われたスコットランド独立住民投票で反対派に敗れたが、スコットランドで大きくその存在感を増し、次期総選挙では前回の2010年総選挙で得た6議席から30議席程度は獲得する見込みである。そのため、スコットランドの59議席中、前回41議席を獲得した労働党は議席を大きく減らすこととなる。最近のスコットランドの世論調査では、スコットランドでの次期総選挙に対する支持率でSNPは労働党を20%リードしている。この支持率の差は、小選挙区制では特に重要だ。日本のように比例代表が加味されている場合には支持率の差の効果は緩和されるが、小選挙区では、それぞれの選挙区でトップになって当選するか、落選するかの二つに一つしかなく、結果はかなり劇的に出てくることになる。なお、保守党は前回スコットランドでは1議席しか獲得しておらず、総選挙ではSNPの影響はかなり少ない。
(2)
緑の党への支持が伸びている。主要3政党(保守党、労働党、自民党)に幻滅しているが、イギリス独立党(UKIP)には投票したくない有権者が緑の党に流れており、支持率で自民党を上回る世論調査の結果もいくつも出ている。緑の党は、現有のイングランド南岸のブライトンの選挙区以外には議席獲得が難しいが、それ以外の選挙区で特に労働党に影響を与える可能性がある。労働党は、その「35%戦略」に代表されるように、2010年総選挙で労働党に投票した人や、前回は自民党に投票したが労働党への支持替えをする有権者の票をあてにしていたが、緑の党はそれらの票のかなりを吸収し、その結果、労働党の議席に影響が出る。
(3)
UKIPへの支持率は10%台半ばでかなり高いまま推移しており、労働党、保守党に続いて第3位である。UKIPは、5月の欧州議会議員選挙(比例代表制で行われる)でイギリス選挙区最高の議席数だった。また、保守党から党を移った下院議員が10月と11月の補欠選挙で2議席を獲得。そのため、UKIP5から10議席を獲得する可能性がある。有権者のUKIPへの投票で最も大きな影響受けるのは、支持がUKIPに最も多く流れている保守党で、そのため保守党が労働党に議席をある程度失う可能性がある。しかし、労働党からも支持がUKIPに流れており、労働党がUKIP4議席程度までの議席を失う可能性がある。
(4)
世論調査では、労働党が保守党をわずかな差でリードしているが、いずれも支持率が3割程度もしくはそれをやや上回る程度で、かなり低い。SNPUKIPの影響を併せて考えると、労働党も保守党も下院で過半数を得る可能性はかなり低い。

2. 選挙の結果

過半数を占める政党があれば、選挙の結果でどの政党が政権を担うかはっきりわかる。しかし、過半数を占める政党がなければ、連立政権もしくは少数与党の政権ということになる。その中で5つのシナリオがある。大手世論調査会社のYouGovの社長のピーター・ケルナーが次期総選挙の結果の政治状況についてコメントしている。これをもとに、結果を分析してみる。なお、下院の議席は650だが、北アイルランドのシンフェイン党はこれまで下院の審議には参加していない。シンフェイン党は5議席だが、もしこの審議不参加を継続すれば、実際上の過半数は、323議席となる。

(1) 労働党が最多の議席を獲得するが、過半数にわずかに足りない場合。
(2)
保守党が最多議席で、過半数にわずかに足りず、北アイルランドの民主統一党(DUP)と併せて過半数を占められる場合。
自民党は20議席以上獲得できると見られているが、保守党との連立は避けたいと考えられており、保守党と自民党との協力の可能性は乏しい。自民党は中道もしくは中道左派の政党であり、保守党との連立政権に参画したために大きな批判を浴び、世論調査での支持率は低いままだ。そのため、保守党は、自民党と連携できない場合、8から10議席を獲得すると見られるDUPとの協力が考えられる。
(3)
保守党が最大政党だが、労働党、自民党、SNP3党で過半数を占めた場合。これまでスコットランドに直接影響する投票にしか参加していないSNPが、それ以外の投票には棄権することを考えれば、スコットランドに関係する問題以外の議案の投票では、保守党とDUPで過半数となる可能性が高い。しかし、次期保守党政権では、EUを脱退するかどうかの国民投票を行う必要があるが、SNPは反対すると見られる。自民党も反対すれば、既に反対を表明している労働党と合わせて国民投票そのものが実施できない可能性がある。その場合には保守党政権は継続できない可能性がある。
(4)
保守党と労働党が同じ程度の議席で、自民党がいずれかの政党を支えれば過半数を占める場合。自民党がいずれの政党にも協力しなければ、政権を不安定にしたという批判を受けることになるため、自民党はいずれかを選択する必要に迫られる。
(5)
保守党と労働党が同じ程度の議席だが、自民党を併せても過半数に足りない場合。さらに他の政党の協力が必要となる。ただし、左派のSNPは保守党とは協力しないと明言しているため、労働党とSNPが協力し、労働党少数政権、もしくは労働党を中心とした連立政権が誕生する可能性が高い。それでもスコットランドで利害の対立する労働党とSNPの関係を考えると、長期にわたりスムーズに政権運営できるとは考えにくい。

 3.選挙後の政治状況

以上の5つのシナリオを考えると、(2) もしくは(4) の場合には比較的安定した政権が維持できる可能性があるが、それ以外の場合は、かなり不安定で、政権が5年持つとは考えにくく、比較的早い時期に総選挙が行われる可能性がある。

ブレアのアドバイス

トニー・ブレア元首相には、イラク戦争などのため、今でも批判が強い。しかし、失敗したことのないトップ政治家はいない。イギリスの首相を1997年から2007年まで10年余り務め、世界的にステイツマンとしてみなされている人物の発言には耳を傾ける価値があるだろう。 

首相退任後のブレア 

ブレアは首相を退任した時、下院議員を辞職し、自らのオフィスをオープンした。それ以来、中東問題に関する国連、EU、米国、ロシアの中東特別大使を無給で務めている。それでもスピーチ活動、投資銀行の顧問やコンサルタントの仕事などでこれまでに1億ポンド(184億円:£1=184円)稼いだという憶測がある。なお、本人はその4分の1だと発言したことがある。また、そのオフィスにはチャリティ活動を含め、200人のスタッフが働いていると言われる。メディアには、イラク戦争への介入を決めたブレアに今でも批判的な声が強く、また、ブレアの稼ぐ能力、もしくはその世界各国に対する影響力などに対して、やっかみ的ともいえる記述が多い。

なお、その回顧録「ジャーニー」では印税を含め500万ポンド(92千万円)以上を得たが、それはすべて戦争で障害を負った兵士たちのチャリティに寄付した。

ブレアと妻シェリー

クリスマスシーズンとなり、主要政党党首ら政治家たちのクリスマスカードが注目される中、ブレアとその妻シェリーとのカードにもスポットライトがあたった。ブレアのスマイルが作り笑いのようだと揶揄されたのである。このカードを見た瞬間、これは妻シェリーの顔が最もよく映っている写真を使ったためだろうと思われた。ブレアはシェリーの気持ちを非常に大切にしている。

ブレアは、このシェリーとの間に4人の子供をもうけた。シェリーはブレアに大きな影響を与えている。シェリーなしにブレアの政治的な成功はなかったかもしれない。シェリーの父親はトニー・ブースという良く知られた俳優だが、放蕩で、母は非常に苦労して子供を育てた。そのため、イギリスの名物だが、仕事としてはよいものと見なされない、フィッシュ・アンド・チップスの店でも働いたことがある。そのためか、シェリーにはお金にこだわる傾向があるようだ。

例えば、1997年にブレア政権が発足した時のことだ。ゴードン・ブラウン財相(当時)の発案で、閣僚は給与の一部を辞退することになった。これにシェリーは非常に怒ったと言われる。また、ブレアの首相時代、オーストラリア人の詐欺師の紹介で、長男ユアンの通うブリストル大学の近くにフラット(日本のマンション)を二つ購入したことがわかり、非常に大きなニュースとなった。首相官邸に入るまで住んでいた、ロンドンのイズリントンの家を売ったが、家の価格が上がる中、自分たちが不利になることを心配したと言われる。さらにブレアが首相在任中、現在住むロンドン中心の家を購入した時も大きなニュースとなった。首相の配偶者の多くが目立たないよう配慮しているのに対し、勅任の法廷弁護士(QC)であるシェリーには特に注目が集まった点もあると言えるだろう。それでもブレア家のライフスタイルにはシェリーの影響が大きいように思われる。 

ブレアのアドバイス

ブレアのイラク戦争判断を検証したチルコット調査の結果は、来年5月の総選挙後に発表されると見られる。その他、テロリスト容疑者の他国移送や拷問を関知していた疑いや、北アイルランド問題の解決で使われた念書を巡って、議会の委員会への喚問問題など、かつての行動に対する批判が今も絶えない。

何かと注目を浴びているブレアだが、12月の初め、アメリカのニューヨークタイムズに書いた。世界中で起きているデモクラシーの沈滞について述べたものだが、いくつか注目すべき点がある。

まず、政治家は民間と比較して給料がよくないと指摘し、給料を上げるべきだという。かつて松下幸之助さんが、政治家の給与を大幅に上げるべきだと発言したことと通じるものがある。ブレアは、政治家となることへの魅力を増し、多様で活力のある人たちが政治に入ってくることを促進すべきだ、政治以外の世界で働き、責任ある地位に就いていたことのある政治家が少なすぎるのは問題だとした。ブレアは政治家になる前、弁護士として7年間働いたが、その時代に仕事や人について学んだという。

なお、現在、イギリスの下院議員の年俸は、67,060ポンド(1,234万円)である。それに経費が支払われる。経費には事務所運営費用、スタッフ費用、ロンドンと選挙区での住居費用補助、それに選挙区と国会との間の旅費などが含まれる。年俸は、2015年度から74,000ポンド(1,362万円)に上がる。その後、一般の給与上昇率に従って上昇することになっている。

また、民間と政府の差について指摘する。トップ企業は変わるが、政府は変わらない、トップダウンの官僚制は現状維持で、大きく変化するテクノロジーが有効に使われていないとする。この政府と民間の差が、政治への幻滅を招いており、人々は問題を解決しない人気取り策に走っているという。

ブレアは、国を統治するためには、難しい選択をせざるをえないと指摘する。政治家は、それに対して、敬意を払われるべきで、虐待されるべきではないとし、ブレアの現在直面している状況を反映したものと言えるだろう。しかし、翻って日本を見れば、日本の抱える問題に取り組むためには政治家も政府も大きく変わる必要があるのは間違いないと思える。