スコットランドの選挙

スコットランド国民党(SNP)が大きく支持を伸ばしている。スコットランドの独立を目指して設立されたSNPの支持の増加は、異常ともいえるほどで、5月の総選挙の4つの予測では、スコットランドの59議席のうち、最も少ない予測で40、最も多いものは55議席獲得すると見ている。そのため、議席数650の下院で、非常に大きな影響力を持つだろうと考えられている。

選挙の世論調査の専門家であるジョン・カーティス教授は、いずれの政党も過半数を占めることがないだろうと見られている選挙で、保守党も労働党も「SNPの了解がなければ、政権が取れないだろう」と言う(タイムズ紙3月7日)。

SNPが強い理由の一つは、2014年9月のスコットランド独立住民投票後の党員の急増である。今や党員数は9万3千と言われ、スコットランドの有権者428万人のうち、46人に1人はSNPの党員ということとなる。SNPは既に有権者に積極的にコンタクトしており、その数は、労働党の2倍だそうだ。SNPへの支持は、スコットランド独立に賛成の強かった地域だけではなく、全体に広がってきている。

ここで、近年のスコットランドの選挙を振り返っておきたい。

総選挙

2005年の総選挙で、それまでのスコットランドの総議席数が72から59へと減らされた。それまで、スコットランドへの歴史的、地形的、政治的な配慮から、スコットランドが優遇され、1選挙区当たりの有権者数が少なかったが、1999年からスコットランド議会に多くの権限が分権されたため、イギリスの他の地域と横並びとなり、議席数が減らされたのである。

労働党 自民党 SNP 保守党 その他
2005 41 11 6 1 0
2010 41 11 6 1 0

労働党は、この2つの選挙の間に行われた補欠選挙で、自民党とSNPに1議席ずつ失ったが、2010年にそれらを奪回した。

なお、保守党は、1955年総選挙では、スコットランドの最大政党だったが、1997年の総選挙で、すべての議席を失った。ただし、小選挙区制で、それぞれの選挙区で最多の得票をしなければ議席が獲得できないため、2010年の総選挙の保守党の得票率は、SNPが19.9%であったのに対し、16.7%で、その差はそう大きくなかった。

スコットランド議会議員選挙

スコットランド議会は、1999年に「再開」され、これまで4回の選挙が行なわれている。総選挙が完全な小選挙区制選挙であるのに対し、この選挙は、小選挙区比例代表併用制で行われており、1政党が過半数を占めるのは難しい。

2011年には初めてSNPが129議席の過半数を制した。73の小選挙区のうち、SNPは53議席を制した。

この選挙制度では、8つの地区それぞれで、さらに7議席が追加で与えられる。しかし、その際、それぞれの政党の小選挙区で獲得した議席が考慮に入れられ、それぞれの政党の得票割合に応じて、修正ドント方式で割り当てられる。つまり、小選挙区で既に得票割合と同等、もしくは多くの議席を獲得した政党があれば、その政党には割り当てはない(なお、日本は、小選挙区と比例代表それぞれで議員が選出される小選挙区比例代表並立制である)。

労働党 自民党 SNP 保守党 その他
1999 56 17 35 18 3
2003 50 17 27 18 17
2007 46 16 47 17 3
2011 37 5 69 15 3

SNPは2007年の選挙で129議席のうち、47議席を獲得し、労働党を1議席上回った。そのため、単独で少数政権を担った。SNPを率いた、サモンド前首席大臣の巧みな政権運営で、4年間を乗り切り、2011年には過半数を占めるという結果を生んだ。

なお、サモンドSNP政権が、2007年から2011年の政権運営に成功したため、2015年総選挙後の少数政権の可能性の議論に使われている。

ちなみに、スコットランド議会銀選挙は、これまで4年ごとに行われてきたが、次回は、2015年ではなく、2016年に行われる。総選挙と重なると、有権者が混乱するという理由である。

労働党とスコットランド国民党の提携問題

労働党は、前回の2010年総選挙で、スコットランドの59議席のうち、41議席を獲得した。スコットランド国民党(SNP)は6議席だった。

ところが、2014年9月のスコットランド独立住民投票後、SNPの支持率が大きく上昇し、最近の予測には59議席のうちSNPが56議席獲得するかもしれないというものもある。

全国的には、保守党と労働党の支持率は、30%台前半で、同程度。その支持率が、5月の総選挙で維持された場合、もし労働党がスコットランドで前回並みの議席を獲得すれば、選挙区の構造などから、労働党が有利であり、労働党が過半数を獲得できなくても、最大政党となる。しかしながら、労働党がスコットランドで大きく議席を失えば、その可能性は少なくなる。

一方、SNPは、その支持の急増を受け、既に保守党との連携をはっきりと否定し、労働党と連携する方針を打ち出している。労働党とSNPの連携には、公式なもの(例えば、連立政権や閣外協力など)、非公式なものを含めて、各方面から反発がある。

労働党とSNPが連携した場合、イギリス全体の国政が、地域政党であるSNPに牛耳られる可能性がある上、スコットランドの独立を目指すSNPは、その目的に向かって、政権を使おうとする心配があるからである。

また、スコットランドで議席を失う可能性の高まっている労働党議員だ。これまで、スコットランドの有権者は、スコットランド内ではSNPを支持しても、イギリス全体の下院選挙では、労働党を支持する傾向があった。SNPは地域政党だが、労働党は全国政党であり、政権を担当する可能性があるためである。

SNPの言い分は、SNPは下院で労働党を支持するので、SNPを支持することは、労働党を支持することと基本的に同じである、しかもスコットランドに有利だとする。これには、2014年のスコットランド独立住民投票が少なからず影響している。主要3政党(保守党、労働党、自民党)は、スコットランド独立に協力して反対した。そのため、住民は、住民投票では独立に反対したものの、労働党は、かなりの信用を失った。

SNPの議論に対処するため、ミリバンド労働党党首が、SNPとは提携しないとはっきりした方がよいという意見がある。しかし、ミリバンドは、できればそこまでは言いたくない。労働党とSNPの連携の可能性を残しておきたいからだ。もし、SNPと組まないと言えば、政権を自ら放棄することになりかねない。

ミリバンドがそれをはっきりと言えば、今やSNPを支持する、元労働党支持者の多くの考え方を変えるかもしれないという期待がある。これは、特に、議席を失いかねない現職の労働党議員にとっては、切実な問題だ。また、労働党が、SNPとの連携を否定しても、SNPは労働党を支持せざるを得ないという見方がある。もしSNPが労働党を支持しなければ、SNPが保守党の政権を生むことになる可能性があるからである。しかし、このシナリオどおりに動くかどうか、確かではない。

その一方、労働党が、SNPとは提携しないと言えば、スコットランドの有権者が労働党を「罰する」かもしれないという不安もある。

ミリバンドは、労働党とSNPの連携の可能性のために、イングランドでの支持率に影響が出るようなら、立場をはっきりとさせざるを得ないだろう。

保守党は、この「労働党とSNPの連携」を前面に押し出したポスターキャンペーンを始めた。「弱いミリバンド首相」を操るSNPの不安を有権者に訴えることで、保守党が政権を担当しなければならないと示す作戦だ。

SNPの急激な支持の拡大は、イギリス独立党(UKIP)に票を失っている保守党に光明を与えている。