暴動に緊急性をもって対応するスターマー政権

7月5日に発足したスターマー労働党政権にとって、第一の課題は経済成長だ。1997年のブレア労働党政権発足時には、その前のメージャー保守党政権から残された好調な経済があったが、スターマー政権は、自ら経済成長を促進し、歳入を増やしていく必要がある。NHSや地方自治体など前保守党政権の残した問題を解決していくにはお金が必要だ。そのような政権にとって、現在の極右による暴動は、英国の経済成長を大きく妨げるものである。

英国の景気回復は加速する見通しだ。スターマー政権は、建設関係の規制改革を大きく進めており、特に建設関係では、商業用物件、住宅、さらにインフラ関係のいずれも力強く拡大しているといわれる。暴動やその恐れで小売業への影響も出ており、暴動を一刻も早く収束することは、国民の平穏な生活を回復するためには当然のことだが、英国の経済成長のためにも必要不可欠なことである。

スターマー首相は、これまで重大事件発生時の危機管理委員会(COBRA)を2回開いている。政府の関係部門が力を合わせ、緊急性をもって問題に対応しており、既になすべき手段はほとんど実行しているようだ。400人を超える暴動関係容疑者が逮捕されており、そのうち140人ほどは既に容疑をかけられている。そして、次から次に判決が下され始めている。スターマー政権と警察さらに検察は、暴動に関係した者には厳しく当たると繰り返し明言し、警告した。さらに情報収集を徹底し、100以上の場所で極右が集まるかもしれないと心配された8月7日には、全国の警察が連携して6千人ほどの暴動対策の警官を配置し、対応が後手に回らないよう警官のグループが機動的に対応できる体制を作った。暴動を心配する人たちには、警察が守ると保証し、万全の対策を講じた。その結果、8月7日は、おおむね平穏に終わったようだ。恐らく暴動は急速に終焉に向かっていくと思われる。

スターマー政権のこの問題に対する対応は極めて迅速で効果的だ。スターマー政権は、発足最初の100日間で、政権の課題解決の道筋をつけるとしているが、今回の暴動に対する対応に見られた迅速で決定的な方法は、政権の今後の運営の基本になるように感じられる。

情報収集、取り締まりから容疑者の特定、裁判までの徹底強化で、暴動の終息をはかる英国政府

英国のイングランドと北アイルランドで発生している反移民・反イスラム教を念頭に置いた極右らの暴動は、今もなお続いている。暴動は、7月29日にウガンダ人を両親に持つ、英国生まれの17歳の男が3人の子供を刺殺した後、7月30日に始まり、続いている。それでも、政府は、峠を越したと見ているようだ。暴動に参加した、若しくは関係したと見られる人たちは、現行犯逮捕された人たちだけに限らず、映像やソーシャルメディアの分析を通じて次々に逮捕されている。

例えば、8月5日に出廷した容疑者は、ガーディアン紙の記者によると、14歳から69歳まで様々な年代層に及ぶ。その中には、ティーサイド治安裁判所に出廷した1歳の子供を持つ21歳の母親がいる。敷石を警察に投げつけた人にその敷石を渡したことで、次に出廷する9月2日まで拘留されるという。また、シェフィールド治安裁判所に出廷した30歳の男は、棒をふるって女性に脅迫的な行動をしたとして、次の出廷日の9月20日まで拘留されるという。

スターマー首相らは、警察、検察、裁判所、さらに刑務所も含めて、政府全体で体制を構築し、暴動に関与した人は、オンラインで暴動を煽った人も含めて迅速に逮捕し、容疑をかけ、裁判にかけ、厳しい刑を科し、刑務所に送っている。8月6日には、既に2か月の禁固刑を受けた人がいる。また、オンラインで暴動を煽った1人は逮捕された。さらに国外からオンラインで暴動を煽った人には、その居場所の国に引き渡しを求め、処罰する体制も設けたようだ。さらに検察は、暴動に関わった人にも厳しい刑の課されるテロリズム法の適用をする場合があると警告した。その上、ソーシャルメディアの責任は大きいとして、法的な整備を進めており、ソーシャルメディアへの圧力もさらに強める構えだ。

なお、顔認識システムを使うことに批判的な声もあったが、公共放送のBBCを含めて、顔認識の分析をして容疑者の特定をしており、今回の暴動を通じて、政府の治安への対応は、コミュニティを守ることを最優先に、大きく変わろうとしているようだ。

興味深い例もあった。極右らに対抗するイスラム教の人たちを中心にしたグループが、極右の集会の情報を受けて、イスラム教寺院を守るなどのために対抗して集まる例がある。バーミンガムでは、何百人も集まり、極右の集会は実際にはなかったが、近所のパブで極右の人たちが集まっているという偽情報を受けて、窓ガラスが割られたという話があった。そのため、近所のイスラム教寺院が謝罪し、弁償を申し出るという出来事もあった。もちろん警察があらゆる角度から取り調べを行い、逮捕された人もいた。

8月7日には、30以上の極右らの集会が予定されているとされる。暴動対策の基本的な体制構築の終わったスターマー政権がどのように対応するか見ものである。