最後の二大党首討論

英国総選挙の投票日は2024年7月4日。その前の6月26日午後8時15分からBBC Oneテレビで、保守党のスナク首相と労働党のスターマー党首の最後の討論が行われた。75分間続いた。

YouGovの世論調査によると、この討論の2人の評価は互角だったという。さらに、信頼できる、好感が持てる、一般の人の気持ちがわかるという項目では、スターマーが優位に立ち、首相的に見えるでは、互角だった。一方、政策では、経済、福祉、EUとの関係でスターマーが優位に立ったが、移民と税では、スナクが優った。

司会は、BBCの政治看板番組Radio4のTodayプレゼンターのミシェル・フセインだった。2党首間で、時に声が荒立てられたり、不規則発言が多かったりしたが、民放のITVで行われた二大党首討論やBBCの4党首討論よりもスムーズに進行された。

スナクもスターマーも言うことをあらかじめ決めており、その筋書きに沿った主張の展開となった。意外だったのは、スターマーが最初からスナク攻撃に出たことである。ITVの前回の二大党首討論で、スナクが最初から労働党攻撃に出たためにスターマーは虚をつかれた面があったが、今回はその逆を行った展開だった。一方、スナクは、世論調査の劣勢を取り戻す最後の機会であり、浅い議論に終始したものの攻撃的姿勢を最後まで貫いた。また、保守党は、右のリフォームUK党に大きく票を奪われていることから、保守党以外に投票することは、移民や税金の問題で労働党に「降伏」することになると警告した。なお、労働党は、労働党の大勝利は間違いないという雰囲気の中で、支持者の投票率の低下を心配し、現在英国の抱える問題を「変える」には、投票しなければならないと投票を促した。

結果的に、今回の二大党首討論では、大勢は変わらなかったと言える。現状のまま、選挙戦最終盤に突入することとなる。

評価された労働党の経済政策プラン

7月4日の総選挙で大勝が見込まれている野党第一党の労働党の経済政策が、3人のノーベル経済学賞受賞者を含む16人の著名な経済学者とエコノミストに評価された。英国のガーディアン紙に投稿したのである。

労働党は、これまで保守党からTax and Spend(課税して使う)と批判されてきた。お金をどんどん使い、お金が足りなくなれば、課税してさらに使う、計画性がなく、労働党の経済運営は信用できないというのである。この問題を克服することが、スターマー党首率いる労働党の最優先事項であった。

そこで労働党は、今回の総選挙では、現在の政権を担当している保守党の政策を基本的に踏襲しながら、現在の最も差し迫っている問題に一定のお金をまずつぎ込むこととした。そして、保守党の攻撃を防ぐため、財源をはっきりとさせることとした。財源も、現行の制度で事実上金持ち優遇制度となっている、例えば、非居住者扱いで課税を免れる制度の改廃などの策を出すなどの工夫をしてきた。

ただし、これまでの14年間の保守党政権の財政緊縮策、その経済運営のために英国の経済は停滞し、財政は極めて厳しいものとなっており、国民所得に対する税収入の割合は過去70年で最大レベルとなっている。また、選挙を控えて、増税すると言うことは難しい。

このような状況で、労働党の最優先事項は、英国の経済の拡大である。その目玉は、GBエネルギーと呼ばれる再生可能エネルギーを促進する国策会社の設立である。その他、温暖化ガスの発生を抑える各種政策の促進、さらに、人口が増える中で、不足している住宅建設を促進するための規制改革などに取り組むことである。

英国の経済が拡大すれば、税率を上げずとも政府の税収が自然に拡大し、経済成長のための事業さらに厳しい状況に陥っている公共サービスに使えるお金が増えることとなる。労働党は、所得税、国民保険、並びに消費税の税率を上げないと約束した。それ以外の税については、なるべく明確な発言をすることを避けている。

7月4日の総選挙で労働党が勝てば、これまで準備してきた政策を次々に打ち出すことになるが、世界の経済状況はウクライナ戦争やパレスチナ問題などの流動的な問題のために、予測が難しい。もし、打つ手の効果が十分でなければ、新たな課税もしくは公共サービスの削減などに踏み切らざるをえない状況になる可能性もある。

16人の経済学者・エコノミストが指摘しているのは、スナク首相が、労働党には計画がないと主張しているが、労働党の経済政策は、14年間の保守党政権の失敗に替わりうるものだということである。もし予想されているように労働党が大きく勝てば、政治が安定する。保守党政権の14年間で首相が5人入れ替わり、財相が7人入れ替わったようなことはなくなる。

英国の生産性は低く、インフラの整備やイノベーションが遅れている。EUとの関係の改善など新政権の行うべきことは多い。労働党が総選挙に勝てば、どの程度これらの期待にそうことができるかどうか、注目される。